空を飛ぶドローンが一般に認知されるようになって数年が経ちますが、最近新たに話題になっているのが「水中ドローン」。機械を水中を潜らせ、水中を探索するためのものですが、市場はまだ小さく、その実体もイマイチ掴みきれません。今回は日本で唯一の水中ドローン専門業者、その名も水中ドローン社の土生修平さんに、水中ドローンのすべてを聞きました。
日本は遅すぎた水中ドローン開発
――最近よく耳にする水中ドローンですが、空中を舞う、いわゆるドローンが登場してから開発されたものなのでしょうか?
土生修平さん(以下:土生) いえ、実は水中ドローンは歴史のある製品で、1960年代からアメリカ、イギリス、それとノルウェーの3か国で開発が進んでいたものです。ですからもう50年以上の歴史がある製品なんです。
これら先進国では、国がお金を投資して、水中を探索するロボットの開発を推進していたわけですが、日本では確かに耳慣れないですよね。弊社で本格的に水中ドローンの事業を始めたのもまだ1年くらい前です。
私は趣味で釣りをやっていたんですけど、なかなか下手クソでウマく釣れないわけです。そこで「水中にカメラを入れて、魚がいるところが見つけられないものだろうか」と思い、色々と調べていったところ、シリコンバレーで、水中ドローンの開発キットが売られているのを見つけまして。さっそく輸入して自分で組み立ててみたわけですが、これがすごかったんです。
作りやすく性能も良く、魚も沢山見られると(笑)。そこに感動しまして、「これは日本人にももっと知られるべきだし、きっと喜ばれるはずだ」と思い、弊社で取り扱いを始めるようになったんです。
これまでの水中ドローンは1点ごとの特注が主流だった
――では、日本で水中ドローンを開発、販売されているところはそれまでになかったんですか?
土生 一般消費者に向けて販売されているところはありませんでした。
ただし、例えばNHKが水中映像を撮影するために特注で水中ドローンを作るとか、防衛関係や資源開発機関などでは、あくまでもワンオフ、一点モノとして水中ドローンを作り、採用してきたという例は多数ありました。
ただ、こういったプロ向けの特注水中ドローンというものは非常に高額なんです。1台で4ケタ万円することもザラで、一般消費者が購入するのは現実的でなかった。
そんななかで、私が出合った前述の水中ドローンの開発キットは、50万円前後と、その20分の1、10分の1くらいの値段で買うことができます。また、オープンソースで設計情報も公開されているので、直しやすく、メインテナンスも楽で使いやすい。そこも、これを広めたいと思った理由でした。
水深300メートルまで潜れるモデルもある
――水中ドローン社で扱いを始めた製品は、水中何mまで潜り、操ることが出来るのでしょうか?
土生 弊社で扱っている水中ドローンでも、いくつかのグレードがありますが、だいたい水深30m~100mくらいは潜れます。さらに、5月にリリースした商品は300mまで潜ることができます。
――すごい潜りますね。それでもやはり一般消費者をユーザーに想定されているんですか?
土生 そうなのですが、釣り人を想定して販売を始めたところ、蓋を開けてみたら、ご購入いただく方の9割以上が企業ユーザーでした。
造船、漁業関係、建設コンサルタント、国の研究所など。これは想定外だったのですが、一方で「やはり水中ドローンのプロからの需要はかなり強いのだな」と思いました。同時に、水中ドローンが一般消費者に広まれば、例えば釣りだけでなく、様々な場面で活躍するかもしれないなと思いました。
独特のスラスター配置で、ほぼ90度のカクカクした機敏な旋回も可能
――この水中ドローンですが、いわゆる空飛ぶドローンとは何が共通するんですか?
土生 空飛ぶドローンと動作原理的には同じです。実際、空飛ぶドローンを水中に入れても、しばらくの間は動きます。
ただ、水が入ると、やがて壊れてしまいますから、そのためにモーターにはブラシレスタイプを採用し、必要な部分のみ防水加工して作られたのが水中ドローンということになります。
――どうやって左右、前進後進などを操作するのでしょうか?
土生 スラスターという推進機が6つ付いているのですが、このスラスターを使って動作させます。
普通の船や潜水艦ですと、例えば左に曲がろうとしたときに、ある程度ゆったり旋回して左方向に行きます。しかし、水中ドローンの場合は、このスラスターのおかげで、左に曲がろうとしたときは、いきなりほぼ90度くらいでガクンと左に方向転換することができます。この機敏なところはウリの一つです。
――ライトやカメラは、もちろん水中専用のものですよね?
土生 もちろん、そうです。水中ドローンは前述の通り、基本の製作キットを組み立てれば、各ユーザーが様々なカスタマイズをすることが可能なので、一概には「これ!」と言い切れませんが、いま見ていただいているこの水中ドローンの場合、ライトが4基付いており、1基で1500ルーメンの明るさを実現します。
また、自動で明るさを調整するカメラが付いており、それを有線でつないだパソコンなどでモニタリングするというシステムになっています。
――それだけの機能を持って、重量的にはどれくらいですか?
土生 ケーブルなど諸部品込みで20kgくらいです。一般的に使うにあたっても無理のない重量ですから、より親しんでいただけると思います。
水中ドローンに秘める様々な可能性
――素朴な疑問として、水中で水中ドローンがどこかにいなくなったり、あるいはサメか何かにかじられるようなことはないんですか?
土生 まず、命綱兼データ通信用ケーブルで繋いで水中に投入しますので、これがいなくなるということはないです。切れることも考えられなくはないですが、ケーブルにはケブラー繊維とツイストペアケーブルが4対入っていて切れにくく、さらにその4対のうち1対には水中GPSが入っているので、視覚で見失ったとしても、データで現在位置を確認することができます。
また、サメ問題ですが(笑)、海外のメーカーさんの動画で確かにかじられたのを見たことがあります。でも、その動画の絵的には「これは人間の手持ちカメラでは撮れない」というもので、なかなか迫力がありました。人間がサメにかじられたら大変ですが、あくまでも水中ドローンは機械ですからね。
そういった意味でも人間がこれまでできなかった水中探索、水中撮影を実現させるのが水中ドローンです。もっと様々なシーンで活躍する可能性を秘めた製品だと思います。人間のパートナーとして、これからもっともっと浸透していくと良いなと思っています。
ここまで話をうかがい「実際に水中で動くところを見たいですね~」と申し出たところ、なんとそのまま「川まで行ってやってみますか」と、土生さん。なんという太っ腹! というわけで次回は、実際に水中ドローンを川で動かした様子を動画でお届けいたします。お楽しみに!