2020年から、日本全国の小学校3~4年生は「外国語活動」として、小学校5~6年生は「教科」として英語を勉強し始めることになる。外国語活動の目的は「英語の音に慣れ親しむこと」「コミュニケーションに対する関心・意欲・態度を育てること」とされている。
だが、教科としての英語の目的は1レベル上に設定されている。コミュニケーション能力の基礎を養い、具体的な形でスキルを磨いていくことだ。
英語の4技能すべてを伸ばすカリキュラム
小学校での英語の教科化は、より大きなパラダイムのなかで起きる大変化の一部にすぎない。中学校および高校レベルの授業、そして大学入試の英語のテスト内容も「4技能」(リスニングとスピーキング、リーディング、そしてライティング)すべての総合的な運用力を意識したものに変わることになっている。
繰り返し言われてきたことだが、中学校と高校の6年間で学ぶ英語は「読む」と「書く」に重きが置かれてきた感が否めない。小学校での英語教科化から始まる新しいカリキュラムは、「聞く」「話す」を積極的に盛り込んで、新しい方向性で進められることになる。
2020年度からは、大学入試センター試験に加え、TOEIC(英語を母国語としない人を対象にした英語によるコミュニケーション能力を検定するテスト)やTOEFL(非英語圏出身者のみを対象とする、英語圏の高等教育機関が入学希望者の英語力を判定するテスト)といった英語検定を大学入試に適用していく準備も着々と進んでいるようだ。
日本の英語の現在地
それでは、従来の方法論で英語を学んできた世代の日本人は、「読む」と「書く」の部分で長けているのだろうか。2016年度のTOEFLデータから、興味深い事実が浮き彫りになる。
アジア31か国に限って見ると、日本人のスピーキング部門の平均点は17点(30点満点)。リーディングは18点、リスニングは19点。ライティングが19点。順位としては、スピーキングはアジア最下位の31位(これに関してはテストに参加した世界172か国中で最下位)。リーディングは21位、リスニングが27位、そしてライティングが24位。
数字から判断する限りは、4技能すべてにおいて劣っている。これでは、日本は英語でのコミュニケーションがとりにくい国と思われてしまうだろう。この結果の原因は何なのか。
学校英語
筆者は、学校英語との向き合い方とか、関わり合い方といったものの基本的な部分に見落としがあるのではないかと感じている。だから、実際的な方法論に関する議論の前に、一歩引いたところから学校英語との取り組み方を見直してみてもよいと思うのだ。いや、話は学校英語に限ったものではない。英語の学び方全体を視野に入れるのが正解なのだろう。
こうしたプロセスのヒントとなり得るのが、『セン恋。[英語の先生] I LOVE YOUなんて言えない!』(セン恋。製作委員会・作/学研プラス・刊)という本だ。
共有しやすい世界観
マンガで始まるプロローグといい、ライトノベル的な文章で物語が進行していく本文といい、まず挙げるべきは絶対的に接しやすいフォーマットだろう。この本で語られるストーリーの主人公である中学3年生の女の子と同世代の人たちが受け容れやすく、入っていきやすく、かつ共有しやすい世界観だ。目次を見てみよう。
第1章 I am Kurisu Yu. (栗栖有です)
第2章 You have a beautiful family. (素敵な家族だな)
第3章 Never let me go. (わたしを離さないで)
第4章 Thanks a lot. (どうもありがとう)
第5章 I like your name. (君の名前が好きなんだ)
第6章 It doesn’t matter. (そんなのどうでもいいよ)
第7章 You want something, go get it! (なにかが欲しけりゃ取りにいけ!)
それぞれの章にBe動詞や一般動詞、命令形、名詞の複数形、代名詞、否定文、疑問文というテーマがあてられている。どの章も例文が豊富で、中学生の日常生活にありがちなシチュエーションに合わせ、キャラクターのセリフとしてごく自然な形でちりばめられている。
ビジュアライゼーション
ビジュアライゼーションという言葉がある。特定の情景を脳裏に思い浮かべることだ。この本は、読みやすい物語中のそれぞれの場面にぴったりの例文が記されているため、シーンの雰囲気と例文のニュアンスがリンクしやすい。この本で覚えた例文が脳裏に残っていればビジュアライゼーションが容易になるし、覚えるという意識が特になくても例文は記憶に定着するだろう。
各章の終わりに、内容をレビューする2種類のコラムが記されている。「クリス先生の特別授業」というコラムは、例文をさらに紹介しながらミニテストを通じて章テーマを確認するのが目的。「愛の英語で恋したい」は、言い回しを発展させていく形で表現力のバリエーションをつけるのが目的。
どんな人向けに書かれたのかを考えるなら、おそらく中学生世代だろう。でも、その人たちの親世代に多いかもしれない“英語学び直し組”にも十分にアピールするはずだ。楽しく読めて、実用的な英語運用力をつけるための、新しいアプローチとなる一冊。そして、こういうタイプの教科書の可能性が見え隠れしていることを感じるのは筆者だけではあるまい。
【書籍紹介】
セン恋。[英語の先生] I LOVE YOU なんて言えない!
著者:セン恋。製作委員会(編・著)、七輝 翼(漫画)
発行:学研プラス
英語で道を聞かれて困っていたら、助けてくれた英語ペラペラの彼。実は学校の先生だった! 最初はオレ様キャラで苦手だったのに、いつかその裏にある優しさに気づいて・・・。「少女マンガ×小説+先生の特別授業」で、読めば恋力&学力アップ!