リューズを使わず、腕の動きで機械式時計のゼンマイを巻き上げる「自動巻き」と、時計にストップウオッチ機能を組み込んだ「クロノグラフ」。この2つを融合した現在の人気仕様「自動巻きクロノグラフ」は、1969年に相次いで集中して発表されました。この偶然の一致は、時計界のなかで語り継がれるひとつの奇跡といわれています。
1960年代は機械式時計の最盛期
1960年代当時の腕時計は自動巻きが主流で、手巻き式の需要は減少の一途をたどっていました。なかでも、計測するたびにゼンマイを激しく消耗する手巻きクロノグラフ離れが進んでいたようです。この事態を切り抜けるため、「クロノグラフ」を主軸に置くスポーツ系ブランドは、「自動巻き」との合体ムーブメントの開発が急務の課題となっていました。
もっとも早く発表にこぎつけたのは、ブライトリング/ホイヤー・レオニダス(現タグ・ホイヤー)/ハミルトン・ビューレン(現ハミルトン)/デュボア・デプラという、スイス4社の共同開発によるCal.11。次は日本ブランドのセイコーが開発したCal.6139で、最後を飾ったのが今も製造されているゼニスの名機エル・プリメロです。
短命に終わった革新機構
1年のうちに同時多発的に自動巻きクロノグラフが発表され、スイスにいた誰もが時計界の主力になると思ったことでしょう。でも現実は、違いました。自動巻きクロノグラフを1969年に開発したセイコーは、同じ年にクオーツ式の腕時計の市販化も実現してしまったのです。
電子部品で時間を制御するクオーツ時計は、機械式時計では到底太刀打ちできない精度で動くという時計にとって決定的なメリットがあります。当初こそ高価でしたが、製造のオートメーション化とともに低価格化も実現。高精度で低価格、大量生産向きのクオーツ時計は、機械式時計を主要産業とするスイスに大きな影を落とすことになりました。
クオーツ腕時計の波にのまれて機械式時計の需要は一気に減少。多くのブランドは休眠状態を余儀なくされ、せっかく開発した自動巻きクロノグラフも、登場から間もなく影を潜めてしまいます。
機械式時計の復興とともに再び表舞台へ
それでも1980年代後半には機械式時計の良さが見直され、スイス時計産業も息を吹き返します。自動巻きクロノグラフについては、ブライトリングが1984年に開発したクロノマットをきっかけに、再び表舞台へと姿を現します。この1984年というのは、ゼニスがエル・プリメロの開発を再開した年である点もまた、不思議な運命の巡り合わせといえます。
いまでは、様々なブランドから自動巻きクロノグラフを搭載した時計が出ていますが、この分野においてはブライトリング、ゼニス、タグ・ホイヤー、セイコーの4社はとくに技術力の研鑽に余念がありません。長年のノウハウが存分に発揮された各社の定番モデルを以下にご紹介します。
ブライトリング
クロノマット 44
Ref.A011B67PA
101万5200円
時計界に燦然と輝くパイロットウオッチの名機。現在のクロノグラフ機構の基礎を作り上げたブライトリングが、完全に自社で開発・製造を行ったクロノメーター仕様のCal.01を搭載しています。
ゼニス
エル・プリメロ クロノマスター 1969
Ref.03.2040.4061/69.C496
99万9000円
毎時3万6000振動で時を刻むギアの動きが文字盤側から楽しめるクロノマスター。クロノグラフの積算インダイアルには、1969年に発表されたエル・プリメロ搭載の1stモデルの配色に採用。
タグ・ホイヤー
タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー01 クロノグラフ
Ref.CAR2A1Z.FT6044
64万2600円
5年の歳月をかけて開発を行った自社製造ムーブメント、ホイヤー01を搭載。その動きをスケルトン加工された文字盤から楽しむことができます。自社製ケースは、12の構成部品からなるモジュール式。
グランドセイコー
スプリングドライブクロノグラフ
Ref.SBGB003
78万8400円
セイコー独自の「スプリングドライブ」で駆動するクロノグラフ。ゼンマイのトルクを電気エネルギーに変換し、クオーツ式時計と同様のICと水晶振動子を駆動。滑らかなスイープ運針と高精度を実現します。
【URL】
ブライトリング http://www.breitling.co.jp/
ゼニス http://www.zenith-watches.com/jp_jp/
タグ・ホイヤー http://www.tagheuer.com/
グランドセイコー http://www.seiko-watch.co.jp/gs/