今回は、従来の日本酒の流れを変え、新しい潮流を作った歴史的な銘酒を紹介。どれも飲食業界では「これを知らないのはちょっと……」というお酒ばかりですが、逆にいえば、これさえ押さえておけばOKともいえます。造りや原料へのこだわりなど、蔵元のコメントも掲載しているので、しっかり理解しておけば周囲に尊敬されるかもしれませんよ!
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その1
杜氏に頼らず大吟醸に特化して一世を風靡
旭酒造(山口県岩国市)
獺祭(だっさい)
ご存じ、いま日本で最も有名な蔵。現社長の桜井博志氏が大吟醸主体の造りに変え、爆発的な人気を得るに至りました。杜氏を置かず、通年勤務の社員が四季醸造を行うのが特徴。徹底したデータ分析と工程管理で品質と生産量を高め、大吟醸に特化することで、社員に濃密な経験を積ませています。
注目の1本はコレ
獺祭
純米大吟醸 磨き二割三分
(だっさい じゅんまいだいぎんじょう にわりさんぶ)
5142円(720㎖)
23%と驚きの精米歩合を誇る獺祭の金看板。クリアな酒質、エレガントな芳香、上質な余韻と、すべてに優れた1本です。
蔵元コメント
旭酒造 桜井一宏さん
「我々の目標は『ああ、美味しい!』と言って頂けるお酒を造ること。その方法は実にシンプルで、酒米の王、山田錦をよく磨き、若い優秀なスタッフが造ることです。磨き二割三分はそんな当蔵を象徴する商品ですね。現在の課題は、質・量とも上を目指すこと。供給せず“幻の酒”に安住するか、供給して質を落とすか。獺祭は、どちらも選びません。今後も質・量とも高めていく努力を続ける所存です」(桜井さん)
【URL】
旭酒造 https://www.asahishuzo.ne.jp/
その2
いち早く品質第一を掲げ多くの蔵の手本に
磯自慢酒造(静岡県焼津市)
磯自慢(いそじまん)
吟醸王国、静岡を代表する銘柄。2008年には、同蔵の純米大吟醸が、北海道洞爺湖サミットの乾杯酒に採用されました。高評価を得るに至ったのは、現社長の寺岡洋司氏が品質第一を掲げ、いち早く糖類無添加に切り替えたことに始まります。以後、特上山田錦の調達、蔵への冷蔵設備の導入といった施策を行い、多くの蔵の手本となりました。後述するスター蔵元、佐藤祐輔氏も同銘柄に大きな影響を受けています。
注目の1本はコレ
磯自慢
特別本醸造・特撰
(いそじまん とくべつほんじょうぞう・とくせん)
2992円(1.8ℓ/地元価格)
兵庫県の特A地区、東条産の山田錦を使った1本。本醸造ながら、透明感のある口当たりとほのかな吟醸香、長く続く上質な余韻など、吟醸酒と同様の風味が楽しめます。
蔵元コメント
磯自慢酒造 寺岡洋司さん
「蔵全体に冷蔵設備を導入したのは、温暖な気候が吟醸造りに不適だったため。さらに、清潔さを保つため、総ステンレス張りにしました。また、兵庫県特A地区の山田錦農家を1件ずつ回り、6年かけて購入にこぎつけるなど、最高の酒米の調達にも尽力しています」(寺岡さん)
【URL】
磯自慢酒造 http://www.isojiman-sake.jp/
その3
従来の流れに反し芳醇旨口への道を切り拓いた
高木酒造(山形県村山市)
十四代(じゅうよんだい)
蔵元は創業約400年の老舗。現在の十四代は1994年、当時20代半ばだった15代蔵元、高木顕統氏が立ち上げた銘柄です。その香り高く厚みのある味わいは、“芳醇旨口”と呼ばれ、爆発的な人気を獲得。淡麗辛口が主流だった日本酒の流れを大きく変えました。
注目の1本はコレ
十四代
本丸
2160円(1.8ℓ)
十四代でもっとも低価格で流通量も多いお酒ながら、「底辺のレベルが高ければ、ほかのお酒もハイレベルだと想像してもらえる」と、蔵元がその名の通り銘柄の中心=本丸と位置づける酒。フルーティかつ上品な風味で、キレも抜群です。
蔵元コメント
高木酒造 高木顕統(あきつな)さん
「十四代は、米の味がしない酒に違和感を覚えて発想。また、味わい深い昔ながらの酒に触れ、感動したという背景もありました。最初の十四代は、子どもの頃から家にいた蔵人さんの助けがあり、神様の助けがあってできた奇跡のような酒でした。造りでは、『微生物に見られている』ことを意識し、すべての作業で妥協することがないよう心がけています。今後は毎年『今年の酒がいままでで一番旨い』といえるよう、精一杯の努力をするだけです」(高木さん)
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その4
鮮烈な飲み口で無濾過生原酒の潮流を確立
廣木酒造本店(福島県河沼郡会津坂下町)
飛露喜(ひろき)
飛露喜は杜氏の引退、実父の急逝を受けて蔵を継いだ廣木健司氏が、1999年、試行錯誤の末に完成させた銘柄です。鮮烈な飲み口、透明感のあるボディを備えたその味わいは、瞬く間に日本酒ファンの支持を獲得。無濾過生原酒の潮流を確立し、全国にその名を知られる蔵元に成長しました。
注目の1本はコレ
飛露喜
特別純米
2808円(1.8ℓ)
蔵元が「飛露喜を語るための1本」と位置づける通年商品。口に含むと舌の上に上品な旨みが広がり、余韻が長く続きます。
蔵元コメント
廣木酒造本店 廣木健司さん
「造りで意識している点は、洗米から吸水、蒸しまでの原料処理。工程の川上をしっかり行うことがブレのない酒につながります。特別純米で使う掛米は、蔵の半径20㎞以内で収穫されたもの。今後は、飲むだけで会津の風土、蔵の情景までイメージできるような酒を造りたいですね」(廣木さん)
その5
若きスターが個性的な製品を次々と発表
新政酒造(秋田県秋田市)
新政(あらまさ)
近代醸造の礎となった協会6号酵母発祥の蔵元。現社長の佐藤祐輔氏は、東大文学部を卒業後、ジャーナリストを経て家業を継いだ人物で、添加物を廃し、全量を伝統的な生酛造りに切り替えるなどの改革を断行。酒米ごとに異なる色をイメージした「Colors」、6号酵母の魅力をダイレクトに伝える「No.6」など、個性的な製品を次々と発表し、若きスターとして注目を集めています。
注目の1本はコレ
新政
No. 6 S-type
(あらまさ なんばーしっくす えすたいぷ)
1700円(720㎖)
徹底した吟醸造り、氷温管理、氷温流通による通年完全生酒。S-typeのSは superior のSを表し、蔵元いわく「シャープなキレと味わいの豊穣さをイメージした」というお酒です。
蔵元コメント
新政酒造 佐藤祐輔さん
「原料米のすべてが秋田県産。その8割が契約栽培で、良質な米を得るため、徹底的な栽培指導を行っています。酵母は、自蔵で発見された協会6号酵母のみの使用です。今後も伝統の本質とは何か、真の革新性とは何か、常に思考し、実践し続けて“美しい純米酒”を極めていきます」(佐藤さん)
【URL】
その6
“火入れで生の風味”を実現する次世代の筆頭
木屋正酒造(三重県名張市)
而今(じこん)
而今は十四代、飛露喜に続く次世代の筆頭。酒銘には「過去にも未来にも囚われず、今をただ精一杯生きる」との意味があり、この精神のもとに
6代目の蔵元、大西唯克(ただよし)氏が精魂を込めて醸すブランドです。伊賀山田錦、愛山、千本錦などを使って毎月違う種類を出荷しています。
注目の1本はコレ
而今
純米吟醸 八反錦
(じこん じゅんまいぎんじょう はったんにしき)
3240円(1.8ℓ)
1~2月に発売する食中酒タイプ。フレッシュな風味がありながらバランスが良いので、盃が進むことは間違いありません。
蔵元コメント
木屋正酒造 大西唯克さん
「火入れ酒でも、生と同様のフレッシュな味に仕上げるのが理想。ありがたいことに、そう評価して頂くことも多くなりました。ポイントは、米から甘みを引き出し、酸で切ること。そのためには、蔵の清潔さが必要不可欠。不衛生だと、酸が多く出てしまうんです。使った道具はすぐに洗うなど、当たり前のことに手を抜かないよう心掛けています」(大西さん)
上記6つの銘柄は、日本酒ファン垂涎の的となっていて、現在はどれも入手困難。個人で購入するのは難しいですが、日本酒に力を入れている飲食店なら、かなりの確率で出合えます。多少のプレミア価格が上乗せされている場合も多いですが、以降に飲む日本酒の基準になると考えれば安いもの。いちどは試してみて損はありません!