【きだてたく文房具レビュー】無自覚な気持ち良さを追求したボールペン
現在のボールペン市場において最も優勢なのは、間違いなく三菱鉛筆の「ジェットストリーム」を始めとする、低粘度油性インクのペンだろう。それは、パイロットやぺんてる、トンボ鉛筆などの筆記具メーカーが、独自の低粘度油性インクを自社フラッグシップ的製品に積んで発売している状況からも明らかだ。
そんな中で、ゼブラだけがゲルインクの「サラサ」を主力商品としており、はた目には「低粘度戦争に乗り遅れた」感があった(もちろん社の方針などもあるのだろうが)。なめらかインクとして開発したエマルジョン(油性と水性の混合)インクの「スラリ」も、残念ながらヒットしているとは言い難い。
そこでゼブラが、改めて低粘度インク全盛のボールペン戦争にブッ込んできたのが、“ストレスフリーな書き心地”を謳うエマルジョンインクの新ボールペン「ブレン」である。
低粘度インクと高剛性ボディで書き心地を究めた「ブレン」
まず、パッと見で感じるのは格好良さだ。ノックノブと一体化したクリップが“ボディに注ぎ込まれている”ようなデザインは、デザインオフィスnendoの佐藤オオキ氏によるもの。全体的に段差が少なくなめらかなルックスは、女性受けもかなり良さそうだ。
そしてこのブレンで最も特徴的なのが、筆記振動を抑制する“ブレンシステム”を内蔵しているということ。
これによって、ノック式ボールペンの構造上どうしても避けられなかった、筆記時の微細なペン先の揺れ=ブレを大きく抑えているのだ。
……といっても、普段からノック式ボールペンを愛用しているほとんどの人は、自分のペン先が細かく振動しているなんて感じたこともないだろう。もちろん筆者も「微細なぶれがある」ということは知っているものの、それを日常的に体感することはないし、当然、不快だと思ったこともなかった。
しかし、試しにブレンを使って10分ほど書き続けてみると、ある瞬間にフッと「あれ……なんかラクかも?」と感じられたのだ。感覚的には、剛性感の高い自動車に長時間乗っている際の“疲れにくさ”のようなものに近い。なるほど、これがストレスフリーな書き心地というものか。
そこで今度は、一般的なノック式ボールペンに切り替えて書いてみると、確かにわずかだがブレのようなものがある。ペン先を紙に当てて、引いて、書いて……という動作がちょっとずつヨレているようなイメージだ。
では、この剛性感の高さを生み出すブレンシステムとはどういうものか?
一般的にノック式ボールペンは、一番上部にあるノックノブとリフィル後端がくっついているだけで、先端はフリーになっている。そのため、筆圧をかけると口金の穴でペン先が動いてしまうのである。これがいわゆるブレだ。
対してブレンは、口金内部にペン先をホールドするインナーパーツを内蔵している。これでまず先端のブレを抑え込んでいるわけだ。
リフィル自体も、従来のエマルジョンインク(油性と水性の混合)用ではなく、ブレン専用にチューブ径の太いものを新造。これで軸内部の隙間を減らしてリフィルをしなりにくくしている。
さらには、グリップ内部に金属製のウエイトを内蔵することで低重心化し、より振動を抑えつつ書きやすさもアップ、とまぁ至れり尽くせりである。
ついでにもうひとつ、お手持ちのノック式ボールペンのノックを押し込んでから、強く振ってみて欲しい。ノックの辺りが上下動してカチャカチャと音がするはずだ。これも従来のノック式の構造の問題で、ペン先が出た状態だとグリップ内のノック用バネが縮むので、ノブはフリーになって自由に揺れてしまうのである。
ブレンは、この振動にまでこだわって、ノックバネの他にもうひとつ、軸後端に押し込んだノブを抑えるためだけのバネを内蔵している。この後端バネが突っ張ることによって、ノブは押し込まれた状態でも振動しないのである。正直、ここまでやるか……!と驚かされる構造だ。
ここまで構造的に振動を抑えたのは、スルスルとなめらかな低粘度のエマルジョンインクを活かすためだろう。冒頭でも述べたように、ゼブラのエマルジョンインクといえば「スラリ」だが、正直書き比べてみると、インク・ペン先は共通なのに、ブレンの方が圧倒的になめらかさを楽しめるように感じた。エマルジョンインクの真の性能とはここまでのものだったか! と改めて再評価する気持ちにさせられたほどである。
これだけ新規パーツをふんだんに詰め込み、佐藤オオキという有名デザイナーを登用しておいて150円+税という価格も、おそらくは同価格帯であるジェットストリームを意識してのことに違いない。
ゼブラ、これ間違いなくジェットストリームを倒しに来たぞ。実際、強硬なジェットストリームシンパである我が妻も、ブレンを試用してすぐに「使ってるジェットストリーム、全部ブレンに替えるから買ってきて!」と筆者に指示を飛ばしたほどである。
2019年は、もしかしたらボールペン業界の勢力図が大きく変わるかもしれない。ほんと、早めにチェックしておいたほうがいいと思う。