僕の母親は、あまり料理が得意なほうではありませんでした。それが原因かはわかりませんが、我が家には「出汁」という概念がなく、みそ汁は基本的に「具」+「お湯」+「味噌」というシンプルな構成だったため、僕はみそ汁はおいしくないものだと思っていました。高校生になって初めて吉野家でみそ汁を飲んだときに、たいへん衝撃を受けました。「味に奥行きがある!」と。
我が家のおいなりさんは油揚げが透けていた
そんな我が家の「おふくろの味」ですが、僕は母親の作るおいなりさんが大好きでした。別に特別なおいなりさんではありません。油揚げに酢飯が入っている、至って普通のおいなりさん。特徴は、「とにかくご飯の量が多い」ということ。
おそらく通常のおいなりさんの2倍くらいはご飯が入っていたと思います。そのため、油揚げはところどころ透けて中のご飯粒が見えていました。
子どものころからそのおいなりさんに慣れ親しんでいたため、油揚げが透けるほどご飯が入っているのが当たり前だと思っていましたが、大学時代に友人が家に来たときにうちのおいなりさんを見て驚いていたのを見て、「ああ、普通のおいなりさんは違うんだな」と気づきました。
たまに外でおいなりさんをいただくことがありましが、どうも子どものころのイメージが残っているのか、「小さいな」と思ってしまいます。
北海道のお赤飯と茶碗蒸しは甘いらしい
『なまらうまい! たんぽぽちゃんの昭和ごはん』(青沼貴子・著/ぶんか社・刊)は、北海道出身の著者が、子どものころに食べていた家庭料理を紹介するエッセイマンガです。父親は単身赴任で内地(本州)にいるため、母、叔母、兄と祖母宅で暮らしており、料理は祖母、母、叔母がしてくれていたということ。
このマンガでは、いわゆる北海道グルメというよりは、北海道の家庭料理がたくさん登場します。三平汁、ジンギスカン、バターかけごはんなどはわかるが、べこもち、塩辛だい鍋、にしん漬けなどは、名前を聞いただけではどんな料理なのかわかりません。しかし、マンガを読んでいるととてもおいしそうです。
このマンガの中に、「お赤飯」と「茶碗蒸し」が出てくる話があります。以前、北海道出身の人に聞いてはいましたが、どうやら北海道はお赤飯と茶碗蒸しは甘いそうなのです。
お赤飯には甘納豆が入っており、茶碗蒸しには栗の甘露煮が入っている。それが北海道スタイルとのこと。
僕はまだ、この甘いお赤飯と茶碗蒸しを食べたことがありません。一度食べてみたいと思いつつ、なかなかチャンスに恵まれません。
いつまでたっても「おふくろの味」は身体から抜けない
本書は昭和40年ごろの話となっています。決して裕福ではない家庭のよう(給料日前だからお肉が買えないなど……)ですが、それでも食事が充実しているのは、土地柄と祖母、母、叔母の料理のスキルやセンスがなせるワザなのでしょう。
子どものころに食べたもので、その人の味覚は決まると言われています。僕は子どものころはかなり偏食でしたが、今は好き嫌いはほとんどなくなりました。大人になるにつれて食べられるものが増えたのです。味覚が鈍感になったのかもしれませんが。
でも、今でも卵焼きは砂糖が入った甘いやつが好きですし、野菜サラダに季節の果物(リンゴや柿など)が入っていると喜びます。納豆に梅干しの果肉を入れてかき混ぜて食べるのが大好きですし、もちろんおいなりさんは油揚げが破けそうなくらい酢飯がぎゅうぎゅうに入っているのが好みです。
やはり、子どものころに食べた「おふくろの味」というのは、身体から抜けないようです。今度、自分で酢飯ぎゅうぎゅうのおいなりさんを作ってみようかなと思います。
【書籍紹介】
なまらうまい! たんぽぽちゃんの昭和ごはん
著者:青沼貴子
発行:ぶんか社
父親の単身赴任のため、母親の実家である北海道で祖母・叔母・母・兄とともに暮らす小学生たんぽぽちゃん。その生活をとおして紹介する、昭和のなつかしいごはんたち……。「ママぽよ」の青沼貴子が初めて描く、自身のルーツ「北海道」のふるさとグルメ漫画!
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