「念願のマイホーム」という言葉を聞いたことはないだろうか。
わたしがこの言葉を知ったのは、いつだかはっきりとは覚えていない。ただ、中学の頃にはもう知っていたのだろうとは思う。わたしが小学生の頃に知ったのだとしたら今から20年以上前、1990年代のことである。
「念願のマイホーム」
この言葉には、「30代になったらマイホームを購入するのが普通、しかも新築で」とみんながマイホームを買うようなイメージがある。同い年の妻も30代前後で、「家どうする?いつ買う?」と聞いてきたものだった。マイホーム文化と言ってもいいものだろう。
わたしくらいの世代がマイホーム文化を引きずってきているのだろうか、わたしと年の近い上司、同僚、部下、同期はみなマイホームの購入を検討し始め、実際にすでに買っている人も少なくない。
どこどこに家買っちゃったよー
めんおうさん、家ってどうしてます?
うち、35年ローン組んじゃった
前職でも、今の職場でもこのような話題には事欠かない。
しかし、わたしはずっと「念願のマイホーム」という言葉に違和感を持っていた。
なぜ、「念願」なのかと。そしてなぜ、みなマイホームを欲しがるのかと。
実際にみんながマイホームを欲しがっているかどうかは別として、この言葉にはそのような印象があったのである。
ものによっては数千万円以上もするマイホーム。「完済するのに35年もかけて購入する価値はあるのか。35年後にはもう65歳超えるよ」と。
1年前の転職をきっかけに、わたしはマイホームではなく賃貸生活を選んだが、その理由、今の賃貸生活の状況、そして将来の展望などについてこの記事で紹介したい。
住宅、教育、老後は、「人生の三大費用」と呼ばれており、その一角を占めるマイホーム。
- マイホームは資産として売却できる
- マイホームのない人生など考えられない
- 住宅ローンで節税できる
といった「念願のマイホーム」に関する宣伝文句は何度も見たことがあるが、それが真実なのかどうかはかなり怪しいのではないだろうか。
わたしたちは、ただでさえ仕事、家庭、趣味に忙しい現代人。小さな節約は得意でも、新しい知識が必要で、調べたり分析したりする必要のある大きなお金の話は苦手であるのを利用されているだけなのではないか。
マイホームを買うのか、賃貸で暮らすのかという選択肢は、あなたの人生を左右するかもしれないほど大きなものだ。
わたしの経験に沿って書かせていただくこの記事が、あなたの人生を少しでも豊かなものにする選択肢を提示できればうれしく思う。
マイホームか賃貸かを検討したきっかけ
わたしが、マイホームを買うか、賃貸で暮らすかを検討したきっかけは転職であった。貯金は、全くないというわけではなかったが、新しい仕事での給与は前職よりも4割も減ることになったのである。
4割という数字はかなり大きな減収ではあったが、賃貸であれば、わたしを含めて家族4人が生活していくには困らなかった。また、子供が大学を卒業するまでの教育費などは「何とかなる」ことは、少し計算すればすぐにわかった。
ただ、マイホームを買うとなると話は別で、いろいろと考える余地がある。
わたしたちが住むのは東京の郊外。土地付きのマイホームを買えば、小さな家でも3000万円は下らない。
これではせっせと貯めた貯金は一気に吹き飛ぶ。ローンを組んで生きながらえても、じわじわと金を食われる。
このように、直感が「念願のマイホーム」を拒否した。
ただ、妻が「自分たちの家を買いたい」と言っていたこともあり、マイホームを買うのがいいのか賃貸生活の方がいいのか、しっかり比較して決めたいとも思っていた。
どこの、どんな家に住むのがいいのか。これは、お金の問題だけではなく、生き方や働き方にも関わってくる話だ。
わたしが転職したのは、やりがいのある仕事をして納得のいく生き方をしたいと強く思ったからだが、マイホームか賃貸かという選択は、これと同じかそれ以上の価値を持つ問題であった。
どこの、どんな家に住むのかということは、わたしの転職以上に家族の生き方に大きな影響を、しかも生涯にわたって与えるからである。
わたしたちが、マイホームではなく賃貸を選んだ理由は以下、紹介する通りである。
マイホームではなく賃貸を選んだ理由
マイホーム購入にかかる費用と賃貸生活にかかる費用
まず、生活していくのに絶対必要なお金の話。費用の面でどちらが安上がりかについては、マイホームか賃貸かを選ぶ上でとても大きな判断材料になる。
賃貸であれば敷金、礼金、家賃、共益費、駐車場代くらいだが、マイホームとなるといろいろな方面にお金が出ていく。
- 住宅費用
- 土地代
- 印紙税
- 登記費用
- 火災、地震保険
- 融資手数料
- 固定資産税
- その他、挨拶回りなど
諸々合計すると、わたしの住む東京郊外の場合、マイホームを購入した場合少なめに見積もっても3500万円はかかる。これに30年間住んだと仮定し、固定資産税を加味するとひと月約10万円になる。
一方、賃貸の場合は、家賃8万5000円と共益費5000円がひと月にかかるお金である。わたしの住んでいる賃貸は礼金はなしだし、車を持っていないので駐車場代もかからない。敷金は戻ってくる。
これらのことから、費用の面では賃貸の方が安上がりかトントンだということがわかる。
マイホームの資産価値の減少
よく「マイホームは、資産として売却できる」という話を耳にする。都合がよすぎないか?と直感が拒否するが、調べてみるとすぐに答えが出た。
結論から言えば、マイホームは住居部分の価値減少が著しいこと、将来的な土地の下落が予想されることから、3,000万円ほどのローンを組まざるを得ないわたしにとっては難しい買い物であった。
以下のグラフは、マイホーム(家と土地)の資産価値の減少とローン残高の関係をまとめたものである。
引用:「マイホーム 買った瞬間、価値ゼロへまっしぐら」(NIKKEI STYLE、2013年10月19日更新)
ここから、
- マイホームは、1年でも住むと資産価値の1割が減少
- 30年後にはマイホームの家としての資産価値はなく、資産としては土地だけが残るのが実態(日本の場合、家の寿命が30年)
- よって、土地の価値が下落していった場合、30年後には住宅ローンだけが残ることになりかねない
ということが読み取れる。
「マイホームは、資産として売却できる」というのは、土地の価格が上がり続けたり、30年以上の寿命を持つ住宅を購入したりした場合に限った話であるし、いくらになるかは未知数なのである。
資産価値の面でも、マイホーム購入にはそれほどの強みはなかったということがわかった。
マイホームの住む場所が固定的になるデメリット
極めつけは、マイホームには住む場所が固定的になるデメリットがあることだ。
賃貸であれば、以下のような問題に住んで初めて気づいた場合でも、最悪、引っ越せば済む。
- 虫が出る
- 道路がうるさい
- 隣の住民がうるさい
- 日当たり、住み心地が思いの他よくない
しかし、マイホームとなると、一度建てたら生涯住まわなければならないのが基本だ。
実際、マイホームを購入し、住む場所を固定的にして「移動の自由」がきかなくなるデメリットはかなり大きい。
- 転勤の可能性
- 転職の可能性
- 実家との関係(介護、相続など)
- 子供が学校で、いじめなどに巻き込まれる可能性
など。
パッと思い浮かぶものだけでも、これだけ引っ越しが必要になる可能性がある。
もちろん、「自分たちだけの家」を持つあこがれや価値はあるのだろう。
しかしわたしは、マイホームは費用面でそこまで有利ではなく、「移動の自由」の面でもデメリットが大きいことから、賃貸を選んだのである。
妻とも話し合ったが、妻はここまでの内容を聞き、納得するどころか賃貸の方がいいと考えるようになったようだった。
賃貸生活の現状
家計の状況
わたしは転職前に、転職するかどうかを検討するため、転職後から老後までの生涯の資産運用を計画した。
これによれば、転職1年後の今年は毎月4万円ほどの赤字を計画していたが、さまざまな臨時収入や節約により、そこまでの赤字にはなっていない。
我が家はマイホーム、自動車を持たず、保険も最低限のものしか持っていないので、借金もなければ、固定的に出ていくお金も少ないからだ。
今後見込まれる大きな出費は、子供の教育費、結婚資金、実家のリフォームや介護に関わるものだが、貯金、共働きによってこれらはクリアできることがわかっている。
マイホームを買わなかったので、貯金は十分にある。毎月多少の赤字家計が続いているものの、精神衛生上はまったく問題なくストレスは感じていない。
いつどのくらいの出費が必要なのか、問題はどう解決するのかという資産運用計画を立てること、そして、いざというときの貯金などを持っておくことが大切だと感じている。
賃貸の住み心地など
わたしは、東京郊外で家賃85,000円、共益費5,000円の賃貸に住んでいる。長く住みたいので、広めで3LDKのところに契約した。
わたしたち夫婦と4歳の長男、2歳の長女の4人家族であるが、広さ、防音、日当たりなど住み心地の面ではとても快適に生活できている。
もちろん、マイホームほどに快適で、思った通りにいかないところもあるとは思うが、環境に併せて工夫することで問題なく過ごせている。
わたしは夜から朝にかけての仕事になることが多いので、妻と子の寝室とは別の部屋で寝るようにしているし、子供が大きくなってからは、わたしの自室や物置として使っている部屋を長男と長女に引き渡すつもりでいる。
また、入居時には挨拶回りをしたり、子供がうるさくしてしまったかもしれないと思うときは下の階の方に様子を聞いたりという気遣いもしている。
賃貸は狭いし、近所づきあいが・・・
という声も聞いたことはあったが、工夫次第で何とでもなるというのが、今持っている感想である。
マイホームを購入した同期の話
少し話は変わるが、マイホームを購入した同期の話である。
彼は、両親の住む大阪にマイホームを建てた。
しかし、費用の面、「移動の自由」の面で今、「買ってよかった」とは程遠い状況にあるようだ。
2,500万円のローンを抱えてマイホームを購入したにもかかわらず、購入後の異動で東京勤務になり、家族帯同しているためマイホームに住んでいるのが彼の両親だというのである。
もちろん彼らは東京に住んでいるので、大阪の家のローンを払いながら東京の官舎(彼はわたしの前職、某省に勤める国家公務員である)の家賃を払っている。
もちろんマイホームが大阪にあるからといって、ピンポイントで大阪勤務になる可能性は極めて低い。住むことのできないマイホームほど、残念な気持ちになる買い物はないと思う。
確かに省庁勤務をしていると、周りにマイホームの購入を検討し始める人は多いのには気づいた。また、「念願のマイホーム」を購入し、ある時期から単身赴任という選択をする家庭もたくさん見てきた。
ただ、この「念願のマイホーム」と「住めないマイホーム」の間にあるギャップには埋まることのない大きな溝があるのは間違いないだろう。
賃貸生活だからこそ広がる将来の可能性
ここまで紹介してきたように、賃貸生活の現状はまったく問題ない。
経済的な観点からも問題はないが、特に賃貸を選んでよかったと感じているのは、「移動の自由」が確保できていることにある。
賃貸生活だからこそできることがたくさんあるのだ。
- 専業ライターになったら地方移住など、好きなところに引っ越すのもアリ
- 子供の教育環境などを理由として引っ越すことができる
- 保育士を始めた妻だが、それがうまくいかなければ別の場所で別の仕事ができる
- 実家の状況が変化してもすぐに賃貸を引き払って引っ越せる
転職後、新しい生活をしてみて初めて気づいたのは、住む場所を自由に変えられるというのは、金銭以上の価値があるということだった。
新しい仕事が自分に合わなかったら、仕事を変えてもいい。仕事が住む場所にとらわれなないものであれば、家さえもなくてもいいかもしれない。子供の教育に一番都合のいい場所で生活できる。
この「移動の自由」は、生き方、働き方の選択肢の幅を大きく広げてくれるものだったのである。マイホームを選んで将来の可能性の大きな部分を捨ててしまう必要はないと、わたしは思う。
まとめ
「30代になったらマイホームを買うのが普通だ」という日本人の持つマイホーム文化には、マイホームに対する「漠然としたあこがれ」がある。
これは、マイホームの購入を検討する前のわたしや、妻が感じていた通りである。
ただし、マイホームにはここまで紹介してきたように、費用面、「移動の自由」の面で大きなデメリットがある。
しかも「移動の自由」は、自由な生き方、働き方にもつながる金銭よりもよっぽど大きな価値のあるものだ。
この記事は、「マイホームより賃貸にすべし」という趣旨で書かれていると思われるかもしれないが、そうではない。
住宅をめぐる状況や価値観は人それぞれである。
この選択が今後のあなたの人生に大きく影響する可能性があること、また、だからこそマイホームを買うのであれば、「漠然としたあこがれ」ではなく「マイホームでなければならない理由」をはっきりさせる必要があることを強調したかったのである。
30代で、マイホームを購入するか賃貸で暮らしていくかを決めた後、残るは人生70年。あなたが今、ここでしようとしている選択が、残り70年のあなたの人生を少しでも豊かにするものであることを祈る。
【筆者プロフィール】
めんおう
専業ライター目指して闘うパラレルワーカー/目標は「書くこと」で月30万円/ライター初月案件等10万円獲得!/はてな読者さん2000人超/モットーは、人生、明るく、楽しく、軽やかに。
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