デジタル
2019/8/30 7:00

【西田宗千佳連載】「独自開発」で名誉挽回。「WF-1000XM3」ヒットの理由

Vol.82-1

発売を1年スキップして満を持して登場した本機

ソニーの完全ワイヤレスイヤホン「WF-1000XM3」が売れている。同製品は7月中旬に店頭に並んだが、その直後から人気が沸騰。8月に入っても品薄状態が続いている模様だ。

 

WF-1000XM3の特徴は、完全ワイヤレス型でありながらノイズキャンセリング性能が高く、デザインもコンパクトにまとまっていること、そして、音質も良いことだ。完全ワイヤレスイヤホン自体はもはや珍しくない。実は、中国あたりのメーカーに製造を委託すれば、売価数千円の製品がすぐに用意できるようになっている。一方で、バッテリー動作時間を伸ばしたり、音質を上げたりしようと思うと途端に難しくなる。効率の良いノイズキャンセル性能を実現するのはさらに大変だ。

↑ソニーWF-1000XM3

 

そして、それらを達成したとしても、Bluetoothヘッドホンとしての「接続安定性」を維持するのは、極めて難易度が高い。完全ワイヤレスイヤホンは、左右それぞれの耳への伝送も電波で行うので、1台あたりが使う電波の帯域が広くなる。一般的なヘッドホンに比べてノイズに弱くなりやすいのだ。実はソニーも、「ノイズキャンセル機能を搭載した完全ワイヤレスイヤホン」の開発では失敗の経験がある。

 

2017年に発売した「WF-1000X」は、ノイズキャンセリング性能こそ優秀で、かつデザインも悪くなかった。スマホと連動する野心的な機能も搭載し、スペック的には十分な能力を持っていたといえる。だが、肝心の「ワイヤレスヘッドホンとしての接続安定性」が、あまり良い出来ではなかった。電波状況の悪い街中などでは、音が途切れやすかったのだ。何度かファームウエアのアップデートによって改善が試みられたものの、結果的に、完全な弱点解消には至らなかった。

 

ソニーは一般的に毎年新モデルを発表するが、昨年、WF-1000X系列の製品は出なかった。そして、満を持して登場した今年のWF-1000XM3は「モデル2」を飛ばしての「モデル3」。初代の悪評を払拭するに足る、大きな改善を果たした。

 

WF-1000XM3では、ノイズキャンセリング性能を高める目的でソニー独自開発のLSI「QN1e」を採用。Bluetoothチップも、やはり本製品のために独自開発したものを採用している。その結果、WF-1000XM3は、過去のモデルに比べ、大幅に性能が改善された。これらの開発のために、ソニーは時間をかけたのである。とはいえ、それでも「音切れ」はまったくないというわけではなく、この種の製品の開発の難しさを思わせる。

 

どちらにしろ、ソニーは独自のワイヤレスチップを開発したことで、完全ワイヤレスイヤホンの商品性向上に成功したのは間違いない。こうしたアプローチは、自社に技術力があることはもちろんだが、大量の製品を売ることを前提にコストをかける「決断」がなければできないことだ。そうした方法論をとれる企業は多くない。「独自LSIでの改善」というアプローチは、完全ワイヤレス型で成功したアップルも使った手段でもある。

 

では、ソニーとアップルの違いはどこにあるのか? ソニーは具体的にどのような点を改善したのか? そうした部分は、ウェブ版で解説していきたい。

 

 

 

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