ドイツの国際市場調査機関・GfKによると、ロシアは読書国世界ランキング第2位。そんな読書大国のロシアで現在、手軽に国内外の人気文学作品をダウンロードすることができる「バーチャル図書館」が注目を集めています。どのような仕組みで、どのようにロシア人に受け入れられているのか? 現地からレポートします。
本が大好きなロシア人でさえ本離れ
多くのロシア人は読書家です。2018年10月発表されたロシア世論研究センター調査結果によると、現在ロシア人の87%がなんらかの規模のホームライブラリーを保有しているとのこと。なかには1000冊を超える大規模なホームライブラリーがあると答えた方もいました。また本の保有数は年齢と比例しており、18〜24歳の若者の間では最大100冊程度。年齢が上がれば上がるほど、保有数が増えていく傾向があるとのことです。
しかし、そこから見えるのは、若い世代の本離れ。あらゆる分野の有識人たちが声をあげています。ロシア書籍出版協会社長セルゲイ・ステパシン氏は「ソ連では子どもの約60〜70%が、両親から最初の本を学びました。それが今日ではわずか7%です。若い親世代の本離れが、次の世代にも影響を及ぼしている。悲劇はすでに始まっているのです」と述べています。
ロシア正教のキリル総主教も「子ども読書の日」に国民の読書離れについて言及。「一部の人は、このままいけば最終的に世界から(紙の)本が消える時代が来るのではと言っています。それは、人類にとって恐ろしい被害となるでしょう」
本離れを止められるか? モバイルライブラリープロジェクト
政府はこの流れを断ち切ろうと、2013年に社会教育プロジェクト「モバイルライブラリー」を発表。翌2014年から人気の文学作品をワンタッチでダウンロードできる最初の小型バーチャル図書館が、ロシア西部のブリャンスク州に登場しました。これは携帯電話等の無線通信サービスを提供するMTS社との共同プロジェクトで、数年かけてブリャンスク州の図書館、教育機関、医療機関に130のバーチャル図書館が設置されました。
バーチャル図書館には、ロシア文学や外国文学の数百の電子作品があります。利用方法はいたって簡単。スマートフォンまたはタブレットのカメラで、読みたいバーチャルブックのQRコードを読み込み、本が電子形式でダウンロードされるのを待つだけ。作品を数秒で入手でき、手軽で便利だと好評です。
MTS社ディレクターであるセルゲイ・ルブツォフ氏は「いまやモバイルライブラリープロジェクトは人々の間で認知され、新しい読書の形として定着しつつある。さらに発展させて、バーチャル図書館数と保有するライブラリ数を増やす予定だ」と発表しました。
ロマンを感じさせる「物語駅」
この流れを受けて2017年に完成したのは、バーチャル図書館が建築コンセプトの地下鉄駅「ラススカゾフカ(物語)駅」。この駅はモスクワ中心部から約40分の場所にあります。
公共図書館の読書室を連想させるデザインの「ファイルキャビネット」には1つひとつにQRコードが付いていて、キャビネットから資料を取り出すように、人気文学作品を手持ちの端末にダウンロードできます。
この取り組みについて、モスクワ地下鉄プレスリリースは「利用者に無料かつ素早く入手できる本を提供することで本離れに対する改革を起こしたい。また移動時間を有意義に過ごしてもらいたい」と伝えています。
日本でも人々のニーズに合わせて図書館は変化しており、近年では図書館のリニューアルに注目が集まっています。例えば九州の「武雄市図書館」のようなカフェや書店と図書館の一体化や、仙台市にある「せんだいメディアテーク」のような複合文化施設化も近年のトレンドですが、日本の図書館は、「より人々が行きたくなるような場所に」という観点で進化をしています。
このように変革を遂げる日本の図書館にも、ロシアのバーチャル図書館は示唆的だと言えるのではないでしょうか? 図書館と最新技術との融合は、人々や社会の文化的発展に大きく寄与することでしょう。