Vol.82-4
WF-1000XM3はヒット商品となった。そして、完全ワイヤレス型イヤホンのシェアトップであるAirPodsも、いまだ堅調に売れている。ヘッドホンメーカー各社は、すでにBluetooth対応モデルを主力にしているが、そのなかでも完全ワイヤレス型が占める比率は依然として高まる傾向にある。
一方、風向きが変わってきた部分もある。これまでは「付加価値商品」として完全ワイヤレス型を売ってきた。だが実のところ、単なる完全ワイヤレス型の製品であれば、もはや付加価値はない。1万円を大きく切る製品も増えているが、実は中国・深センあたりの生産に近い現場では、完全ワイヤレス型だからといってそう高くつくわけではないのだ。ノイズキャンセルもないシンプルな作りのものであれば、完全ワイヤレス型でないBluetoothヘッドホンとの価格差はごくごく小さいものになっている。低価格商品のほとんどは、そうした中国などで作られ、出荷されているのだ。
一方で、完全ワイヤレス型は技術的に面倒な部分が多いので、ノイズキャンセルにしろ、低遅延にしろ、「ちゃんと付加価値を付ける」のが難しい。技術のコモデティ化は進んでいるが、それらの技術はなかなか「どこでも作れる」ものにはならない。
結果として、完全ワイヤレス型イヤホンは、付加価値のあるWF-1000XM3のような高価な製品と、数千円のシンプルな製品に分かれていくことになる。
問題は付加価値だ。ソニーのようにノイズキャンセルなどの技術があるところはわかりやすいが、他はどうするのか? 答えは「ソフト」だ。スマホと一緒に使うものなので、スマホ側のアプリにインテリジェントな機能を搭載し、イヤホン側にはそれと連携するモーションセンサーやタッチセンサーを搭載する、というパターンがある。
事実、スマホの通知やメッセージの読み上げに対応する製品は増えてきており、AirPodsも今後の進化したiOSとの連携した場合に限るが、そうした使い方を想定している。ソニーも、歩いている時と電車に乗っている時を自動的に判別してノイズキャンセルの効きを変える機能を、スマホアプリとの連携で実現している。
こうした機能の実現にはスマホアプリの開発能力が必要だ。イヤホンを売るだけなら、製造を担当する企業と連携して事業展開すれば難しくはないが、アプリ連携が必須となると、自社内にハードとソフトの両方をよく知るチームを抱える必要が出てくるので、ハードルが上がる。イヤホン側にはあまり付加価値がなくとも、ソフトによる差を産む能力が「付加価値」となるだろう。
アプリ連携は売り場などではわかりにくい機能でもある。そのため、量販店などで広く訴求して売っている周辺機器系メーカーは重視しない可能性が高い。「指名買い」されるベンチャー系やソニー・アップル・BOSEなどの実績のあるブランドが選ぶ差別化ポイント、といえるかもしれない。
結果として、同じようにみえる「ヘッドホン」だが、市場によって商品の性質が分かれていく可能性は高い、と筆者は考えている。
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