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2019/10/1 10:30

「人生100年時代」を生き抜くために知っておきたい!得する損しないお金のハナシーー相続編

私たちに一生つきまとう“お金”の問題。今回は、お小遣い稼ぎとして手軽に使える「ポイ活」のほか、「投資信託」「相続」など硬派な最新情報もお届けします!

 

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【解説してくれる人】

弁護士

長 裕康さん

イージス法律事務所・代表弁護士。東京弁護士会所属。相続問題や離婚問題など、家族間の紛争を数多く手がけます。

 

約40年ぶりの相続法改正により相続人や遺言書の規制が緩和!相続のハナシ

親族が亡くなった際、悲しみに暮れる間もなく遺族にのしかかるのが相続問題。余計な揉めごとや損を招かないために、約40年ぶりに改正された相続法のポイントを学びましょう。

 

相続の新常識

□現代の高齢化社会に合わせて遺された配偶者の生活保障が手厚くなった

□相続人以外の親族でも介護などの貢献で金銭を取得できる場合がある

□自筆証書遺言に関わる書類作成が簡単になり法務局での保管も可能に

 

約40年ぶりの大改正は現代社会に対応するため

昨年7月6日に「改正相続法」が成立し、同月13日に公布、今年7月1日に施行されました。1980年に配偶者の法定相続分の引き上げなどが行われて以来、約40年ぶりの改正。その背景や目的について、弁護士の長 裕康さんに聞きました。

 

「円満に相続を行うための法改正であると同時に、今回の大きな目的は社会環境の変化に対応すること。

 

『配偶者居住権』や『遺言書に添付する財産目録などのPC作成』が認められるようになったのは、高齢化社会における“老老相続”の増加を考慮しています。被相続人の介護を行うと、相続人以外の親族でも金銭要求が可能になったのも、現代社会の家族構成などに対応した改正と言えるでしょう。相続額が減ったり、余計な税金を支払ったりしないためにも、これを機に事前の相続対策をオススメします」

 

[用語集]

特別受益生前贈与(住宅の頭金、婚姻・養子縁組のお祝いなど)や遺贈のこと。基本は相続財産額に加えて算定されます。
持ち戻し免除の意思表示被相続人が「特別受益を相続財産から除く」旨の意思表示をすること。遺言書に明示しておくと認められやすい。
遺留分被相続人が有していた相続財産について、その一定割合(最低限)の承継を一定の法定相続人に保障するもの。
法定相続分民法の定める相続分。遺言書などで具体的な明示がない場合、法定相続分に従って相続財産を分配します。

 

【法改正のポイント1】 「配偶者居住権」を取得すれば自宅も現預金も確保できる!

配偶者が相続開始時に居住していた建物が相続財産の一部である場合、「所有権」とは別に無償で一定期間~終身住み続けられる権利「配偶者居住権」が認められるようになりました。自宅の権利を分けることで、配偶者は住居・現金のいずれも確保できます。

★2020年4月1日に施行

 

【事例】

相続人は妻Aと子Bで、相続財産は自宅(5000万円)と現預金5000万円。Aは配偶者居住権と現預金2500万円、Bは負担付の所有権と現預金2500万円を取得できます。

 

【法改正のポイント2】 相続人以外の親族でも介護などの貢献を考慮される!

相続人以外の親族が、費用を支払って利用する施設やヘルパーなどと同等の介護を行っていた場合、その貢献が考慮されて相続分に反映されるようになりました。介護の貢献による被相続人の財産の維持または増加が認められると、相続人に対し「特別寄与料」として金銭を請求可能。特別寄与料の金額は、原則として当事者間の協議で決定します。

 

【事例】

相続人は長男Aと次男Bの2名だが、被相続人Cの介護はAの妻Dが無償で行っていました。これにより、介護施設に入所した場合にかかったと想定される総額300万円は財産として維持されています。したがってDはA・Bに対し、「特別寄与料」として両者に合計300万円を請求できます。

 

【法改正のポイント3】 相続人全員の同意がなくても被相続人の預貯金を引き出せる!

これまで預貯金口座は、名義人が亡くなると凍結され、遺産分割協議が行われるまでは凍結解除が不可能でした。今回の改正で「預貯金の払戻し制度」が創設され、遺産分割の成立前でも、「預貯金額×3分の1×法定相続分」は単独で引き出すことが可能に。ただし、ひとつの金融機関で引き出せる額は150万円が上限のため、注意が必要です。

 

【事例】

相続人は長男Aと次男B。Aは葬儀費用などのために被相続人の口座から預貯金を引き出したいが、Bとは不仲で連絡が取れません。しかし、預貯金全額(1500万円)×3分の1×Aの法定相続分(2分の1)の250万円であれば、家庭裁判所の関与なく単独で引き出せます(※)。

※:この場合、被相続人がふたつ以上の金融機関を利用していなければ250万円全額は引き出せません。

 

【法改正のポイント4】 財産目録や現預金の口座といった遺言書の一部は自署でなくてOK!

自筆証書遺言はこれまで全文の自署が必須でしたが、高齢者や身体が不自由な人のように、たくさんの筆記が困難な場合もあります。そこで方式が緩和され、財産目録はPC作成が可能になり、預貯金の口座も通帳コピーの添付が認められるように。ただし、自署による署名と捺印は必要です。

 

【事例】

被相続人Aは病気の後遺症により右半身に麻痺が残っていて、筆記には非常に困難を伴います。そのため、財産目録は家族のサポートのもと、PCで作成しました。

 

【法改正のポイント5】 自筆証書遺言を法務局で保管してくれる!

被相続人が自筆証書遺言を自宅や銀行の貸し金庫で保管した場合、相続人に気づかれず放置される恐れがありました。また、災害などでの消失、不利益を被る相続人による隠匿や破棄の恐れもありますが、法務局の保管により、これらのリスクも回避できます。検認手続きが不要となるメリットも。

 

遺言書の検認手続きとは……?

検認手続きは家庭裁判所で行われるもので、裁判官がその場で遺言書を開封し、申立人を含む相続人などに対して被相続人の筆跡かどうかといった形式面の質問を尋ねます。遺言書の内容に異議がある場合は、遺言無効確認訴訟などを起こすことができます。

 

【法改正のポイント6】 被相続人の意思表示がなくても生前贈与の持ち戻しを免除できる!

生前贈与などの特別受益は通常、相続分の一部として計算されます。「持ち戻し免除の意思表示」は書面に残しておくことで効力を発揮しますが、意思表示がない場合でも「婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が他方に対し、居住用の建物やその敷地を贈与した」という条件が揃えば「意思表示の推定」が適用され、配偶者は持ち戻しを免除されます。

 

【事例】

相続人は妻Aと子Bの2名で、相続財産は現預金2000万円。被相続人CはAに自宅(3000万円)を生前贈与していましたが、持ち戻し免除の意思表示がないまま亡くなりました。CとAの婚姻期間は40年のため、Aは自宅のほか、相続財産の2分の1(1000万円)を相続できます。

 

【法改正のポイント7】 遺留分の権利行使は金銭の支払い請求のみ可能!

相続人が自身の遺留分を侵害された際は、権利行使が可能。従来は「遺留分減殺請求」により目的物の返還請求を行うこととなっていましたが、これでは不動産の共有状態などが生じ、トラブルの元となっていました。今回「遺留分侵害額請求」へと改正されたことで、遺留分権利者は金銭の支払い請求のみ可能となったため、目的物の共有は生じなくなりました。

 

【事例】

相続人は子Aの1名で、相続財産はマンション(5000万円)。しかし、被相続人Bの遺言書には「マンションは第三者Cに遺贈する」と書かれています。Aは遺留分侵害額請求により、Bに2500万円の支払いを求めることができますが、マンション自体(2分の1)の返還請求は不可。

 

【法改正のポイント8】 第三者や相続債権者に対して相続の効力を主張できない場合がある!

今回、相続の効力についても見直しが行われました。ひとつ目に、法定相続分以上の権利を取得した相続人は、登記などの手続きをしていない限り、法定相続分を超える部分を第三者に対抗できません。ふたつ目に、相続債権者について「遺言や遺産分割協議による相続の割合に縛られず、各相続人に法定相続分に応じて請求できる」旨が明文化されました。

 

【事例】

相続人は長男Aと長女Bの2名で、相続財産はマンション(5000万円)。被相続人Cの遺言書には「マンションはAに相続させる」とありますが、Bはそれを知りながら自分の法定相続分を登記し、その事情を知らない第三者Dに売却しました。Aは登記を行っていないため、Dに権利取得を対抗できません。

 

こんなときどうする?相続のQ&A

Q 遺産相続の優先順位と遺産割合はどのくらい?

A 配偶者+子→直系尊属→兄弟姉妹の順

「配偶者が最優先で、1.子、2.直系尊属(父母や祖父母)、3.兄弟姉妹の順に相続します。先順位の相続人がいれば、後順位の親族は相続人となれません。遺産割合は、配偶者と子の場合は1:1、配偶者と直系尊属の場合は2:1、配偶者と兄弟姉妹の場合は3:1です」(長さん)

 

Q 相続人のなかに音信不通の人や意思疎通ができない人がいる場合はどうすればいい?

A 家庭裁判所に申し立て、代理人が協議を行う

「音信不通の人がいる場合、不在者財産管理人(代理人)の選任を家庭裁判所に申し立て、不在者財産管理人が遺産分割協議に参加する方法があります。意思疎通ができない人の代理人としては、成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立てる方法があります」(長さん)

 

Q 被相続人の生命保険金を自分にかけているが、これも相続財産になってしまうの?

A 原則として保険金は相続財産とはならない

「指定された受取人は保険契約に基づき、“固有の権利”として保険金請求権を取得するので、原則として保険金は相続財産とはなりません。しかし、例外的に遺産と比較して保険金の金額が過大である場合には、相続人間の公平性を期すため、特別受益と同様に考えるという裁判例が過去にあります」(長さん)

 

Q 被相続人に債務がある場合、放棄はできないの?

A 放棄は認められているが、期限に注意

「債務についても、相続放棄は可能です。しかし相続放棄は、相続の開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所への申し立てが必要。この期間を過ぎると単純承認したものとみなされ、プラス・マイナスいずれの財産も相続してしまいます。放置せず、迅速に債務整理などを行いましょう」(長さん)

 

文/平島憲一郎、保谷恵那(本誌) イラスト/勝間田しげる