『セックス依存症になりました。』という、自身の体験をマンガとして描いている津島隆太さん。作品の中では、父親から虐待されていたシーンも描かれている。前回では、セックス依存症とはどんなものかを聞いてきたが、今回は、虐待や、性依存症をなくすためにどうするべきかを考えていきたい。
【前編】
「セックス依存症になりました。」著者が語る、マンガを通して「性依存症と向き合う」こと
このところTwitterを覗いていると「子どもの教育に適度な体罰は必要だ」という意見が多く見られる。「適度」かどうかを誰が判断するのか、子どもが辛いと思えば、それは「適度」ではない。各種研究によって体罰には意味がないことが示されている。ではなぜ、「体罰は必要だ」という人が存在し、虐待をなくせないのだろうか。虐待やセックス依存症患者を減らすためには、どうしたらいいのだろうか。
ーー津島さんが父親からされていたことを、虐待だと思っていなかったというくだりは胸が痛みます。
自分が虐待されていたと認めるのが難しいところがあります。その認識が持てなかったですし、持ちたくないという思いもあります。「私は虐待されてました!」って堂々とは話しにくいんです。身体にケガの後遺症が残っているわけじゃないですから、目に見えません。心が傷ついているなんて情けないじゃないですか。それを認めて話すのは、とても難しいんです。情けないって思われるのも、知られるのも嫌なんです。男性だから被害者になれないというか。
ーー子どもは親を選べないですし、津島さんのせいではないと思います……。
そんなことを気にする自分は情けないと思っちゃうんです。それに昔のことじゃないかと。でも治療を通して医者に「トラウマは昔の傷ではなく現在の傷だ、現在も苦しみ続けている。だから治しましょう」と言われました。その言葉でEMDRという治療を受けるようになりました。……自分は実際にそれでトラウマがあることを受け入れられるようになったんです。……少しずつですが回復することはできているのかなと思います。
ーー少し言葉数が少なくてお辛そうですが、大丈夫ですか……? もし、お話しするのが辛いなら、ここまでで……。
……虐待の話になると、上手く話せなくなってしまうんです。思考が止まってしまうというか。お世話になっているクリニックで、依存症者の前で話すことがあるのですが、今までスラスラと話していたのに、虐待のところで止まってしまうこともあります。無意識かもしれないですが、喋りづらくなってしまうんです。もしかしたら、まだ心の整理がついていないのかもしれません。
ーー子ども時代に安心して保護されるべき場所が奪われていたのですから、なかなか整理がつかなくて当然だと思います。
子どもの頃から「親なんか死んでしまえ」とか「いつか自分で殺してやるんだ」とまで思っていました。誰でも、親のことを死んでほしいと思ってると思っていたんです。ずっとそれは当たり前の感情だと思っていたので、かなり大人になってから、そうじゃないんだと知って衝撃でした。親に対しては同時に、すごい恐怖がありました。でもなんとか仲良くなれないかなという思いはあったんです。それがずっと残っているので、例えば、親と彼女が仲がいいと、すごく嫉妬してしまいます。彼女もこっちに落ちてくれないかなと思う。
ーーすごくよく分かります。私も、家族関係が良好なわけではないので、うらやましさをひっくり返して腹が立ってしまい、家族仲がよい人とは付き合えません。
かといって親を恨みきることは難しいんです。昔は「子どもは殴って育てるものだ」という風潮があったから、私が子どもの頃は、親がお酒に酔って子どもを殴るのは割と当たり前のことでした。親もそういうつもりだったと思うし、100%悪気があったわけじゃないと思うんです。それに父親は、酒に酔ったときに虐待をするので、ほとんど覚えていないんです。恐らくアルコール依存症だったのでしょう。だから親に関しては、よくなって欲しい。会いたくはないけど、幸せになって欲しいとは思います。
ーー親ってほんとうに子どもにとってあらがえない存在なのだとしみじみ感じます。
子どもって、親になにをされてもかばいたくなるから、親からされたことを虐待だって思いたくない気持ちがあります。でも私がきちんと「暴力は教育ではない」と自覚しておかないと、私に子どもができたら、私がまた子どもに「これは教育だから虐待ではない」と父と同じことをするんです。自覚を持てば、少なくとも自制を試みることはできる。
ーー連鎖を止めるには、虐待がなんなのか知ること、そして自覚することが必要なんですね。
父は外面がすごくいいので、ほかの方から見たらすごく大人しくていい人ですが、絶対父親からかなり激しい暴力的な教育受けてきたと思うんです。性的虐待を含め、虐待は連鎖します。子どもの頃の性被害が原因で、セックス依存症になることがあります。加害者もかつての被害者だったことを知って欲しいんです。
ーー周知させるためにもこのマンガの意義は大きいと思いますが、性を扱うと、反発も大きそうです。
性的な話をクローズにしないで、オープンにしていくべきです。性の規制は悪循環しかないんじゃないかなって思っています。マンガの中では自慰依存症のかたを描きましたが、かなり抑圧されて育ち、それが爆発してしまったというのです。おっぱいを丸出しにしてる部族が、性的に狂ってるかというと、そうではないですよね。性的な抑圧って効果あるのかな疑問に思っています。
ーー『性依存症の治療―暴走する性・彷徨う愛』でも、抑圧が原因のひとつになり得るとあります。少し前に話題になったドラマ『全裸監督』でも、AV女優になった黒木香さんは、母親から抑圧されていたと描かれていました。学生のうちは親や教師が性に関して「いけないことだ」と教えられ、社会に出たらいきなり「早く結婚して子どもを作れ」って、無茶な話ですよね。劣情をあおるのではなく、真面目に性について考えることはとても重要です。
読者は女性が多いのですが、批判をされるのも女性が多いです。一番多いのは「性犯罪を正当化しようとしている」というものです。そうではなくて、それを防ぐための知識を得てほしいと思って描いているのですが……。
ーーずいぶん的外れな批判ですね。
あまり主張したくはないですが、自分自身も被害者です。それなのに「被害者の気持ち考えたことあるんですか」と責められることもあります。男性=加害者という考えのかたが多くて、それはちょっと辛いです。
ーーそれはすごく理解できます。私もこのマンガを読むまでは、男性は圧倒的に加害者だと思っていました。
そのギャップを埋められたらと思います。マンガで伝えていきたいテーマです。
犯罪者だけではなく、浮気不倫、そういう方々も依存症の可能性はすごく高いと思っています。自分が依存症だと自覚して治療できたら、苦しい思いをすることも減りますし、依存症の知識が広まることで、多くの問題を未然に防げるんじゃないかなと思ってているんです。
ーーこの先、どんなことを描いていく予定でしょうか。
きちんとエンタメとしてやらないと、読んでいるだけで辛いことばっかりなので、なるべくバランスとりつつ描いています。マンガは広く読んでもらえるところがいいですね。真剣な話を、どれだけ読みやすいかたちにできるかが、私の役目かなと思います。あとは、今のところ絶望しか描いていないので、回復していっている人の例を。どうしたら回復できるんだっていうのは、悩みでもたくさんいただくので、描いていけたらいいなと思っています。長く作品を描いて世間に問い続けていきたいです。
人物撮影/我妻慶一