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2019/12/5 18:45

「セックス依存症になりました。」著者が語る、マンガを通して「性依存症と向き合う」こと

週プレNEWSで連載中の『セックス依存症になりました。』が話題だ。作者の津島隆太さんは、これまで認知度が低かったセックス依存症について、自身の体験談を赤裸々に漫画で描いた。その衝撃的な内容が話題となり、月間200万ビューを超す人気作となっている。

 

女性の多くは、軽微なセクハラを含め性被害に遭ったことがあるのではないだろうか。筆者も何度も怖い思いや不快な経験をしたことがある。そのため「セックス依存症です」と言われるだけで嫌悪感が湧く人も多いようだ。犯罪やセクハラを許す必要はないと思う。しかしそうした依存症があり、それがどんなもので、どんな症状なのかを知ることは、とても重要だ。自身が依存症患者を作ってしまわないようにケアすることや、パートナーが依存症である場合にどうしたらいいのか考えることができるからだ。もしかしたら、自分自身もセックス依存症だと気付くかもしれない。筆者自身に関していえば、痴漢の加害者を許す気持ちにはならないが、男性全体を憎いと思う憎悪の気持ちはだいぶ減ったように思う。

 

これから2回にわたり、津島隆太さんにお話を聞いていく。セックス依存症とはどんなものか、依存症になる原因はなんなのか、そして依存症者の多くが虐待経験があるという問題について考えたい。

 

↑「セックス依存症になりました。」著者の津島隆太先生。自身の経験をもとに、性依存症についての考えを語る

 

ーーTwitterや取材などで、マンガの反響をダイレクトに感じることがあるかと思いますが、多くの方の声を実際に聞いてみて、どう感じられますか?

 

反響があって嬉しいです。でも読者からの反響を聞いていると、まだまだ依存症の認知広まってないなと、実感します。病気だと思ってくれる方がほとんどいないというか……性欲と結びついているので、みんな性欲のせいにしちゃうんですね。「自分がだらしない人間だから」「自分がエロいから」そういう考え方で捉えてしまうので、「病気だ」という説明が難しいです。性依存症の人をパートナーに持つ人も単純に「彼は性欲が強い」「変態的な趣味がある」という考え方になってしまう人が多いようです。

 

ーー確かに、マンガを知らない人に、セックス依存症について説明するのがとても難しいです。セックス依存症と、性欲が強いだけの人、どう違うのでしょう?

症状が出ているときは、自分でコントロールできなくなります。そしてその度合いが、かなり激しい。自分の人生や健康を激しく損失するくらい、コントロールできなくなっていくんです。それは「エッチな気分になっちゃった」というレベルではありません。強迫的な性衝動に駆られるため、性犯罪に発展することもあるし、避妊ができなかったり、女性の場合は望まない妊娠してしまったり、援交がやめられなかったりします。頭では常識的な判断ができているのに、止められないんです。

 

 

ーーかなり衝撃的な内容のマンガですが、連載開始までの経緯を教えてください。

マンガ家を目指して「ヤングジャンプ」に持ち込みをしていましたが、そこではなかなか芽が出なくて……。当時の担当さんから、週プレの担当さんを紹介してもらいました。そこで打ち合わせしている中で、性依存症なんですって話をしたら「それを描いてみたら?」と勧められました。

 

ーー自分の弱みをさらすことに抵抗のある人は多いと思います。自分の生活を切り売りするライターやエッセイマンガ家さんなどは、すべてが飯のタネという感覚もありますが、連載を始められる前に葛藤などはありましたか?

マンガ家を目指していたので、芸人根性じゃないけど、自分を売るのには抵抗はありませんでした。でもセックス依存症の場合、周りの人についても描かなければいけないので、自分のイメージが損なわれたと傷つく人がいないように気を配っています。もちろんかなりフィクションを加えていますが、葛藤は今でもあります。元カノのハンマーちゃんもそうですが、一番は親のことです。親から虐待をされていたことを描くのは、加害者である親自身がどう思うか……。親に不幸になってもらいたいわけじゃないので、親に精神的なダメージを与えてしまう可能性が高いので、そこはすごく抵抗がありました。でも私自身が依存症から回復していきたいという思いがあったので、このマンガを書くのは自分のためにもなる、世の中のためになるという思いで乗り越えました。

 

 

ーー描くことは治療に役立っているとおっしゃっていましたが、マンガを描き始めて変わったことはありますか?

一番変わったのは、正直になったことです。今までは、自分の心を守ろうとして本心を言わなかったし「周りは敵だ」くらい思っていましたし、心に鎧を被せて、ずっと武装をしていました。セックス依存症になると、自分の悪いところはひたすら隠すんですね。そうやって裏で悪いことをし続ける二面性があります。

 

ーー津島さんはとても穏やかで、言葉を慎重に選んでいる風でもあるし、話をよく聞いてくれるのでとても素敵な人だなという印象です。

セックス依存症者って、嘘つきになって、嘘がうまくなっていくんです。嘘をつかないと、嗜癖行動ができなくなるので、外面のいい人は多いと思います。極端な例かもしれないけど、少し前に、1万2660人のフィリピン女性を買春していた校長先生が逮捕された事件がありました。そのかたも一見、人格者だったそうです。それがフィリピンに行くと人格が変わるという。そういう二面性は私にもあるみたいなんです。自分では気付いていなかったけれど、付き合う女性からはよく「豹変する」と言われました。

 

 

ーー確かに、マンガでも豹変していました。二面性があるのは虐待の経験も関係がありそうでしょうか?

いい子を装わないと生きていけないですから。そういうことをずっとしてきたから、嘘が上手くなったのかもしれません。依存症になると、自分を守るための言い訳をたくさん用意して「嗜癖行動をやめずにうまいことやっていこう」となってしまう。回復するのはホントに難しいんです。

 

ーー質問箱というサービスで、よくフォロワーの方からの相談に答えていますが、とても親身なので、精神的に辛くないのかと心配になってしまいます。

マンガを描くようになってから、自助グループに通えなくなっています。そこは匿名性が大事で、それが保たれているからこそ自分のことを素直に話せるんです。でも私が参加して「マンガのネタにされる」と思ったら、正直に話せなくなり、回復が遅れてしまいます。私が邪魔をするわけにはいかないですが、そうすると今度は私が辛い。質問箱はその代わりになっています。依存症が重症化すると、人の気持ちが考えられなくなってしまい、頭の中が自分のことでいっぱいになってしまうんです。人のことを考えるのはとても回復に役に立ちます。

 

後編は、津島氏が父から受けた虐待の記憶と性依存症の関係性について聞いていこうと思う。

【後編】

虐待、抑圧の連鎖が「性依存症」を生み出す――マンガ「セックス依存症になりました。」著者に聞く、性依存症を取り巻く現状

 

人物撮影/我妻慶一