本・書籍
2019/12/28 17:30

真冬の都市伝説・怪談はいかが?――年末&正月休みにあえて「オカルト」を楽しむための5冊

筆者はこれまで、ノンフィクションを何冊か執筆している。ジャンルはサブカルチャー系が多く、特に都市伝説関連本は9冊手がけた。そこで今回は、筆者が大好きな「都市伝説」という言葉をキーワードにした3冊、そして「ノンフィクション」をキーワードにした2冊の本を紹介していきたい。

 

週刊誌記者が本気で追いかけた「本当かもしれない都市伝説」

「本当にあった都市伝説」みたいなタイトルの本があふれていた時期がある。筆者としては「友だちの友だちが体験したという体で語られる、本当には起きていない話」が都市伝説だと思っているけれど。この本の「本当かもしれない」というタイトルはキャッチーだし、絶妙な言い方だ。

 

週刊誌記者が本気で追いかけた「本当かもしれない都市伝説」』(ミステリー特別取材・著/双葉社・刊)の著者は『週刊大衆』編集部の現役記者で構成されたミステリー特別取材班。都市伝説とは何かを厳密に定義することは難しい。この本の存在意義は、その難しさを伝えることにもあるような気がする。ロズウェル事件、ネッシー、NASAの陰謀、イルミナティなど、ネタのラインナップもオーソドックスだ。

 

オカルトジャンルのネタが多いところも気に入っている。都市伝説という言葉のとらえかたの間口を広げ、イルミナティや仮想通過がらみのブラック・プロジェクト、人気ゲームとCIAの関係、そしてアンタッチャブルな“真の権力層”など、陰謀論とのリンクが感じられるあたりも読み応え十分。

 

【関連記事】
本職の記者たちが追いかける噂の裏側――『週刊誌記者が追いかけた「本当かもしれない都市伝説」』

あなたの知らない都市伝説の真実

“ディバンカー”という役割を担う人たちがいる。ざっくり説明するなら、都市伝説として伝えらえている話の一つひとつの要因をくまなく検証し、「だからこの話は本当には起きていない」という結論へ持っていく人たち、ということになるだろうか。

 

あなたの知らない都市伝説の真実:だまされるな! あのウワサの真相はこれだ!』(皆神龍太郎・著)の著者、皆神龍太郎さんはスケプティック=懐疑論者であり、完全なディバンカーだ。でも都市伝説的な話をただ疑い、ディスって終わるだけではない。疑うという行いは、地道で緻密な検証作業を積み重ねていく過程にほかならない。フリーメイソン、UFO、超常現象、陰謀論。大多数の人たちが安易に取りがちな“ビリーバー”という立場ではなく、都市伝説的な話を別の角度から見る本書のアプローチは、ライフハック的な意味合いでのバランス感覚を保っていく上で重要だろう。

 

奇妙な噂を簡単に信じ込み、それを不特定多数の人たちに意図的に伝えることで自らの情報リテラシーのなさをはからずもさらしてしまう人がいる。少し前Facebookで流行した「Jayden K. Smithの友だちリクエストを受け入れないでください」というチェーンメールの内容を信じ込んでしまった人たちがよい例だ。SNSへの依存度がさらに高くなることが考えられるこれから先の時代は、ディバンカーあるいはスケプティック寄りの姿勢が大きな意味を持ち始めるかもしれない。

 

 

月の都市伝説

月の都市伝説』(並木伸一郎・著/学研プラス・刊)は、月をモチーフにした都市伝説的な話を集めた一冊だ。月にまつわる都市伝説に特化した本書も紹介しておきたい。

 

月にまつわる都市伝説的な話の数々を集めた定点観測的な性格の一冊で、「月と神話」といったトラディショナルなネタから月面の異常構造―ピラミッドや巨大な塔―を紹介する「月面都市」、いまだに疑念が絶えることがない「アポロ計画の疑惑」まできちんとおさえている。

 

筆者のおすすめは「月面都市」。月面には人工建造物としか思えない構造がいくつもある。ギザのピラミッドとまったく同じ形をしたもの。古代メソポタミア文明の遺跡を思わせるジッグラト構造。そしてグーグルムーンに写り込んだ完全な“V字型”構造。衛星写真技術および画像解析技術がこれだけ進んでいる現代で、何ら具体的な調査が行われていないことが不思議に思えてくる。それが“知られたくない”ものだからなのか。

 

ちなみに2020年最初の満月は1月11日、スーパ―ムーン(月が最も地球に近づいた状態での満月)は4月8日だ。

 

 

ほぼ日の怪談。

ノンフィクション怪談集の編さんは、実はかなり昔から行われていた。たとえば江戸時代に作られた『耳嚢』は、南町奉行の根岸鎮衛が30年以上にわたってこつこつ集めた1000編の奇妙な話やちょっと怖い話をまとめたものだ。

 

1990年、根岸鎮衛の手法をそのまま踏襲し、フィールドワーク―多くの人たちから話を聞き、その裏付け調査を行う―を通して実話怪談を集めた『新耳袋』が刊行され、大きな話題となった。そして時は流れて2004年。『ウェブサイトほぼ日刊イトイ新聞』で、読者の「自身が体験した怖い話」「体験者本人から直接聞いた怖い話」を紹介するという連載が始まった。この連載から120本を厳選して紹介する『ほぼ日の怪談。』(ほぼ日刊イトイ新聞・著/ほぼ日・刊)は、ただひたすら怖い。ストレートな恐怖、ハリウッドのブラッドスプラッター映画的な恐怖、そして不条理な恐怖。ありとあらゆる種類の恐怖が、誰かの実体験を通して紹介される。

 

ごく普通の人たちがごく普通の日常の中で出くわす怪異。どの話も、淡々とした口調で語られるからこそ怖い。冬の夜に読む怪談は、空気が澄みきった冬の夜の花火のように、読む人の心に鮮烈な印象を残す。怪談が本当に響く季節は、冬なのかも。

ぼくらの昭和のオカルト大百科 70年代オカルトブーム再考

今の仕事に就いた理由のひとつは、小学校高学年から中学校時代に訪れたオカルトブームにあるかもしれない。メジャーな意味でのオカルトブームは、70年代が第一波だったと思う。『ぼくらの昭和のオカルト大百科 70年代オカルトブーム再考』(初見健一・著/大空出版・刊)は、70年代に小学生や中学生だった人たちなら、必ず“ささる”項目が見つかる一冊だ。

 

ノストラダムス。オリバー君。ユリ・ゲラー。70年代に小中学生だった人なら、特にオカルト好きではなくても、何らかの形で当時の記憶が甦るキーワードであるはずだ。この時代は夏になるとお昼のワイドショー的な番組であってもオカルトを取り扱うコーナーが組まれ、夜は2時間もののオカルト特番が放送されていた。ビデオがなかったので、ずーっとテレビの前に座っていた気がする。オカルトが日常の一部だったといっても過言ではないのだ。

 

日本のオカルト文化が定着し始めた1970年代。この本は懐かしさと共に、その後長く続くことになるオカルトブームの発火点にまつわる要素を、一つひとつていねいに検証している。リアルタイムで体験した人も、未知のものとして読む人も、同じ熱量で向かい合えると思う。