3年前ごろから人気に火がついた完全ワイヤレスイヤホンは、2020年には多くのブランドが出揃い、機能や価格帯も幅広い製品から選べるようになりそうです。数あるイヤホンのなかで、自分に合う1台を選ぶためにはやはり「サウンドの好み」を基準にすることが得策だと筆者は思います。日本のブランドNUARL(ヌアール)から新規にドライバーユニットを開発して、サウンドにこだわり抜いたN6シリーズが発売されました。今回はシリーズの「N6 Pro」と「N6」をレビューしたいと思います。どちらも面白い選択肢になりそうです。
NUARL
N6 Pro
N6
独自開発ドライバー[N6]を完全ワイヤレスイヤホンのためにカスタマイズ
NUARLを展開するエム・ティ・アイは、2019年の春に「NUARLドライバー [N6]」と名付けた独自のイヤホン用ダイナミック型ドライバーを開発。ハイレゾ対応の有線イヤホン「NX30A」「NX310A」に搭載してリリースしています。
ユニークな製品とサウンドを提案することをテーマに開発したという6mm口径のドライバーには、高い磁束密度を持つネオジム磁石とチタン合金蒸着振動板を採用。すべての帯域の音がバランスよく鳴らせて、レスポンスの良い立ち上がりを実現したことを特徴にうたっています。
この自社開発の6mm口径ドライバーを土台にして、今回の新製品のためにカスタマイズを加えています。上位の「N6 Pro」は単層カーボンナノチューブとPEEK、2枚の振動板を真空蒸着により貼り合わせた「SWCNT複合振動板」を搭載。N6には PEEK振動板の表面にTPE(エラストマー樹脂)とチタンを皮膜蒸着した「PTT多層皮膜振動板」が採用されています。音のバランスはN6 Proがフラット志向なチューニングとし、N6は低音の量感も重視したそう。さらに両機種ともに米T.B.I社が特許を持つHDSSテクノロジーにより、イヤホン再生でありながら自然な広がりと立体感を再現します。
SoCには定番のクアルコム「QCC3020」を搭載してaptXのコーデックに対応したことや、SBC/AACコーデックを選択時に最長約11時間の連続音楽再生ができる点など、エレクトロニクスに起因する使い勝手はN6シリーズ2機種でほぼ変わりません。
本体はともにIPX4相当の防滴設計。内部にもナノコーティングによる撥水処理が施されています。コンパクトなケースによる充電はUSB Type-Cケーブルで行います。
デザインはマット仕上げのN6 Proに対して、N6は光沢仕上げのハウジング。オーナメントの色も変えています。
さらに、N6 ProにはSpinFit CP360イヤーピースが付属します。
装着感はシリコン製のイヤーピースのほか、外耳のくぼみにフィットさせるイヤーループ(スタビライザー)と両方で調整できるため安定感があります。購入から1年以内であれば片側を紛失しても、もう片側のイヤホンが手元に残っていれば有償で新品1ペアと交換できる安心の紛失サポートも用意されています。
リモコン操作はハウジングの上部に搭載する3ボタンで音量のアップダウンが可能。左右どちらのイヤホンにも同じ操作が割り当てられているため、すぐに使い慣れて迷わなくなると思います。
豊かな解像感。広々とした音場を描く
N6シリーズのサウンドはaptX再生とクアルコムのTrue Wireless Plusによる左右同時接続に対応するXperia 5をメインに、Amazon Musicの音源を聴いてみました。
N6シリーズはどちらの機種もBluetoothワイヤレスイヤホンであることを忘れてしまうほどに歪みがなく、音楽のディティールを浮き彫りにする解像感の高いサウンドを特徴としています。空間の広がりがとても豊かであることにも驚くはずです。女性ボーカル、ビッグバンドジャズのトランペットやサキソフォンのハイトーンが鮮やかに突き抜ける心地よい感覚は、ほかの完全ワイヤレスイヤホンではなかなか味わえないレベルです。
ビートのスピード感とキレ味の良さも際立っています。例えばテイラー・スウィフトの「Shake It Off」ではアップテンポなスネアのビートが鋭く炸裂します。ベックのアルバム「Saw Lightning」ではパワフルでスピード感にもあふれる低音がうねり、演奏の情景が目の前に立体的に浮かび上がりました。
中高域の肉付きの良さもN6シリーズの醍醐味です。特にaptX対応の音楽プレーヤーで聴くとボーカルのふくよかさが一段と増してきました。ビージーズの「How Deep Is Your Love」は前奏のエレクトリックピアノのハーモニーがとても柔らかく重なり合い、温かみのあふれる余韻に包まれます。
NUARLドライバー[N6]を搭載する元祖、有線イヤホンの「NX30A」のサウンドをShangling「M0」をリファレンスにしてイヤホンの「N6」と聴き比べてみました。有線イヤホンの方も音の軸がブレないしなやかさを共通の特徴としていますが、ワイヤレスイヤホンの方はSoCに搭載されているDSPやアンプと一体の音作りができているため、よりいっそう力強く華やかで聴きごたえがありました。
N6 ProとN6、サウンドの違いは?
N6 ProはN6に比べると上品なチューニングにサウンドを整えています。MISIAのボーカルは声の抑揚感の繊細なニュアンスにも自然とフォーカスが定まる手応えがありました。楽しく聴けるN6に対して、落ち着いて長い時間リスニングに身を委ねられるサウンドがN6 Proの持ち味。上原ひろみのピアノは中低域の器が広がり、音のアタックに鋭さだけでなくしなやかなスナップが効き、指先の表情が柔らかくなる印象を受けました。
大編成のオーケストラなどを聴くと違いがより鮮明に浮かび上がってきます。N6 Proは演奏を構成する楽器の音色がとても丁寧に描き分けられ、微小な音にまでフォーカスがぴたりと定まります。音場が立体的で没入感に富んでいます。ダンスミュージックも色彩豊かなビートの表情が描き分けられる楽しさがあります。
SpinFitのイヤーピースに交換すると高域が軽やかに、見晴らしもよりクリアになるぶん、中低域の音の線が少し細く感じられる楽曲もありました。聴く音楽に合わせてイヤーピースを付け替えながら楽しむのが良いかもしれません。N6シリーズのノズルの先端口径は6.1mmというデータが公開されています。あるいは市販のイヤーピースを装着してみて、自分の好みに合うサウンドを探求してみるのも良いかもしれません。
N6シリーズは独自開発のドライバーを搭載したことでNUARLらしい音を確立させた、ほかにない完全ワイヤレスイヤホンに仕上がっています。通勤・旅行時など公共交通による移動が増える時間帯にはアップルのAirPod Proのようなアクティブ・ノイズキャンセリング機能を搭載するイヤホンを選ぶのも良いと思いますが、音楽を集中して聴きたい時間にはNUARLのN6シリーズを選ぶべきです。2020年は完全ワイヤレスイヤホンをリスニングシーンによって選び分けて使う楽しみ方をおすすめします。
【N6 ProとN6の主な違い】
1.「ドライバー」:N6 Proは単層カーボンナノチューブとPEEK素材の2枚の振動板を真空蒸着により貼り合わせた「SWCNT複合振動板」、N6はPEEK振動板の表面にTPE(エラストマー樹脂)とチタンを皮膜蒸着した「PTT多層皮膜振動板」
2.「チューニング」:N6 Proは細部まで繊細に表現するフラットなサウンド、N6は低域から高域までメリハリのあるパワフルなサウンド
3.「質感」:N6 Proはマットな質感にゴールドのオーナメントの組み合わせ、N6は光沢のある質感にシルバーのオーナメントの組み合わせ
4.「イヤーピース」:N6 Proのみ、通常のイヤーピースに加えSpinfit CP360が同梱される
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