日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、東京2020オリンピック・パラリンピックに向けたホストタウンの取り組みを紹介します。
2020年、東京オリンピック・パラリンピックイヤーが幕を開けました。JICAは、開発途上国との長年の関係をいかして、大会に参加する国や地域と地方自治体が交流を行い、関係を深めていく「ホストタウン」の取り組みに、さまざまなかたちで協力しています。
各自治体がホストタウンになることは、練習環境が整っていない途上国からの選手たちにとってトレーニングの手助けになるだけではなく、地域の人々にとっては選手との国際交流など、いくつもの友好の芽を育むことになり、日本の国際協力の取り組みを知るきっかけ作りにもなっています。
青年海外協力隊員が懸け橋に:ソロモン 水泳チーム×八重瀬町(沖縄県)
「ソロモン水泳チームの選手たちは、初めて見る競泳用プールに感動していました」——そう話すのは、青年海外協力隊経験者の與那原祥さん(沖縄県・那覇商業高校教員)。元水泳競技者の與那原さんは、かつて年齢別日本代表候補になった経験があり、2016年の夏から青年海外協力隊員として、南太平洋に浮かぶ島国ソロモンで水泳・水球の指導をしていました。
しかし、ソロモンではスポーツを行う環境が整っておらず、競泳用プールがありません。海や川で、楽しみながらも真摯に練習に取り組む姿に感銘を受けた與那原さんは、「彼らが練習の成果を披露できる場を設けられないか」とJICA沖縄と沖縄県庁(文化観光スポーツ部スポーツ振興課)に相談。度重なる協議の上、八重瀬町がソロモン水泳代表チームの合宿候補地として選ばれることになりました。
2017年に八重瀬町がホストタウンに登録されてから実施された合宿では、水泳のトレーニングをはじめ、県内学校への訪問、町内イベントへの参加、県高校総体にソロモン選手がエキシビション参加するなど、交流を深めています。
「選手の一人は、合宿中に50メートル泳のタイムが約7秒も縮まりました。整った練習環境を開発途上国の選手たちに提供できるのが、ホストタウン締結の意味の一つ。練習を受け入れてくれた水泳強豪校の那覇西高校の選手たちも、一緒に練習した選手がオリンピックに出るかもしれないと知り、刺激を受けていました。次の合宿は東京オリンピック直前。沖縄の気候や豊かな自然環境はソロモンに通ずる部分があるので、大会前にリラックスしてほしいと思います」と、與那原さんの期待はふくらみます。
JICA草の根技術協力事業がきっかけ:ラオス・パラ陸上チーム×伊勢市(三重県)
東京パラリンピックへの出場を目指すラオスのパラ陸上チームのホストタウンを務めるのが三重県伊勢市です。交通バリアフリー施策やバリアフリー観光、障害者サポーター制度など「人にやさしいまちづくり」を進める同市がホストタウンに登録したのは、JICA草の根技術協力事業でラオスのパラスポーツ界とつながりが深いNPO法人「アジアの障害者活動を支援する会」(ADDP)の仲介サポートが背景にあります。
ADDPによる「ラオス障害者スポーツ普及促進プロジェクト」や障害者と健常者が共に指導を受けてオリンピック・パラリンピックを目指す「インクルーシブ陸上講習会」などの活動は、共生社会の実現を目指す伊勢市の理念と合致。伊勢市はパラリンピアンとの交流をきっかけに「共生社会ホストタウン」登録をしています。
今後、伊勢市では、東京パラリンピックに向けた事前合宿の受け入れをはじめ、ラオス・パラ陸上選手やチームスタッフと伊勢市の子どもたちとの交流事業、ラオス関係者を招いての文化交流事業などを実施予定です。
長期にわたる農業研修で交流を重ねる:ザンビア 選手団×丸森町(宮城県)
宮城県の丸森町は、アフリカ南部の国・ザンビアの選手団のホストタウン。2010年以来、丸森町はJICAの農業研修プロジェクトを通じて、ザンビアから多くの農業研修員を受け入れてきました。現在も、草の根技術協力事業や高校生の農業交流は継続されており、その長い交友関係が今回のホストタウン登録の背景となっています。
丸森町は、2019年10月の台風19号で被災。河川の氾濫、土砂災害などの被害が発生し、11月には仮設住宅の建設が始まりました。台風被害を受けてもなおザンビア選手団の受け入れを諦めない姿勢に同国が感謝し、12月には、ザンビア駐日大使のヌディオイ・ムリワナ・ムティティ氏が丸森町をお見舞いに訪れました。長年、ザンビアとの交流を担当してきた大槻康浩さん(丸森町耕野地区まちづくりセンター)は、次のように話します。
「丸森町は東北にある小さな町。海外の方と触れ合う機会は、通常ならまずないと言っていいでしょう。しかし、JICAの農業研修やホストタウンでの交流を通じて、他国の文化を知り、海外の人を身近に感じる機会が生まれます。オリンピック後に予定されているザンビア選手団のみなさんとの交流を、町の子どもたちには楽しんでもらいたいです」。
ホストタウンとなることによって、各自治体では世界の国々との交流が広がり、国際協力が身近となるきっかけになっています。JICAは東京オリンピック・パラリンピック開催まで、日本各地の自治体がさまざまな国・地域と交流を図り、ホストタウンの取り組みを進めていけるよう、サポートを続けていきます。
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