2019年の「NHK紅白歌合戦」でAIの美空ひばりが登場したように、いまは亡き人の声を現代テクノロジーで再現する試みが行われています。そして、3000年前のミイラから再現された声が公開され、その奇妙な声を聴いた人たちから驚きの声が広がっています。
CTスキャンで声道の3Dモデルを実現
イギリスのロンドン大学の研究者たちが、3000年以上前のエジプトのミイラから声を再現するというプロジェクトに挑み、それに成功したことがサイエンス誌ネイチャーで発表されました。
その内容によると、まず研究チームはイギリスのリーズ市立博物館より、「ネシャムン」と呼ばれるミイラを借り出し、ネシャムンをCT検査(コンピュータ断層撮影法)することから始めました。
人の声が性別や年齢によって違うのは、発声器官の形が違うことによるものです。日本音響学会によると、声道の長さは男性に比べて女性のほうが約20%短く、成人と子どもで比べると子どものほうが約24%短いそう。さらに人が声を発生するとき、声道の形をすぼめたりして音が調整されますが、この調整の仕方によって、声の高さや大きさも変わってくるのです。そのため、このミイラの声を再現するためにはまず声道の形を正確に把握することが必要だったのです。
そして、CTスキャンで計測された声道の形を3Dプリントして、このミイラの声道を忠実に再現。それを人工音声装置につなぎました。「エー」というごく短い声ですが、SOUNDCLOUDでその音声が公開されています。
現代人の声と比較できるように母音を発生しているネシャムンの声。男性の声としては高く、女性の声のようにも感じますが、ネシャムンの声道の大きさは、現代の成人男性のものよりとても小さく、舌の筋肉は長い年月を経てなくなり、軟口蓋(口の中の天井部分)がないこともわかっています。
ネシャムンは、紀元前1099~1069年頃のラムセス11世紀の時代にエジプトの古代都市テーベ(現在はルクソール)で司祭として働いていました。この声で様々な儀式で歌や祈りがささげられていたものと考えられます。
3000年以上にも前に生きていた人の声と思うと、不思議な響きさえ感じられます。さらに技術が進んでいけば、今博物館に展示されているミイラの声がさらにリアリティあふれて再現されるようになっていくのかもしれません。