熱帯魚のなかには黄色やオレンジ、水色など鮮やかな色を持つ魚も多いですが、自然界にはピンク色の身体をもつ生き物もいます。そのひとつがオーストラリアの海にひっそりと暮らすマンタ。世界で唯一と考えられている、このピンク色のマンタが人前に現れることは滅多にありませんでしたが、今年1月下旬、その姿が偶然にもカメラに収められました。ピンク色のマンタとはどんな生き物なのでしょうか?
マンタとは、トビエイ目トビエイ科に属する世界最大のエイのこと。世界中の温かい海に生息し、日本近海では石垣島や西表島の間に広がるサンゴ礁周辺でも生息が確認されています。マントを広げたような大きな身体で、まるで空を飛んでいるようにゆっくりと水中を優雅に進んでいく様から、ダイバーにも人気があります。
2015年に初めて目撃された「クルーゾー警部」
マンタの色はたいてい黒色や灰色で腹側は白色ですが、2015年にオーストラリア北東にある世界有数のダイビングスポット、グレートバリアリーフの最南端にあるレディー・エリオット島の海でピンク色のマンタの存在が初めて目撃されました。ダイビングインストラクターが海に潜っていたところ、腹側がピンク色をしたマンタが出現。このダイビングインストラクターはこの場所でダイビングをするようになって5年間で数千回は海に潜った経験がある人物ですが、このピンクマンタに出会ったのは初めてのこと。さらに、このピンクマンタに遭遇した数日後に、また同じ場所に海に入ったものの、もう出会うことはなかったそうです。
2015年の目撃以来、映画ピンク・パンサーに登場する「クルーゾー警部」と呼ばれるようになったピンクマンタ。その目撃情報は2015年から10回もなかったと言われています。
しかしそんなクルーゾー警部が、また再びある写真家の前に姿を現したのです。写真家クリスチャン・レイン氏がレディー・エリオット島の海でダイビングしていたところ、このピンクマンタが出現したそう。このマンタについて何も知らなかった彼は、はじめはカメラの調子が良くないせいで、ピンク色に見えていたのだと思っていたとか。写真家がインスタグラムに投稿した、およそ3.3メートルのピンクマンタの写真は感動とともに、またたく間に世界中に広まっていきました。
謎のピンク
なぜピンク色になっているのか? その理由についてはさまざまな説が挙げられていますが、白い母斑がはっきりと見えることや何年にもわたりピンク色が維持されていることから、食べ物が原因ではなく、メラニン色素の変異が起きた可能性が考えられています。しかし、はっきりとしたことはまだ分かっていません。
自然は人知を超えた世界ですが、海のブルーとマンタのピンクのコントラストは、まるでおとぎ話の世界に入り込んでしまったような錯覚すら覚えます。このマンタと人間は、またどこかで出会えるのでしょうか――?