パンデミック(世界的流行)になる可能性がある新型コロナウィルス。日本では最近デマが拡散し、トイレットペーパーや紙おむつなどが店頭から消えましたが、似たような現象はほかの場所でも起きています。それは、日本人に最も人気がある観光地の1つであるハワイ。メディアではあまり注目されていませんが、常夏の楽園は現在どんな状況になっているのでしょうか? 現地在住の筆者がレポートします。
アメリカの感染者は、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客を除いて15人で死者は1人、ハワイ州の感染者はゼロと、他国と比較しても低い水準です(2月29日時点)。しかし日本からの旅行客が多いハワイでは、深刻化している新型コロナウィルスの問題は決して対岸の火事というわけではなく、連日のようにニュースで取り上げられています。
特にハワイでの新型コロナウィルス感染への危機感が高まったと思われるのは、2月上旬に陽性と診断された60代の日本在住の夫婦が直前にハワイで旅行していたことが明らかになったとき。この夫婦は1月28日~2月3日にマウイ島、2月3日~2月7日までオアフ島に滞在しており、ハワイ滞在中にも風邪のような症状があったと報道されています。これによって、ハワイで周囲の人に感染させていた可能性が懸念され、滞在中の接触者の追跡調査や聞き取り調査なども行われてきましたが、大きなリスクはないと判断されるに至っています。
ただし、ハワイの空の玄関口であるダニエル・K・イノウエ国際空港では、2月初めからスクリーニング検査が実施され、2月29日時点までで96人の方がハワイ州保健局によって自宅待機を指示される結果になっています。
地元経済にも暗雲が漂う
ハワイの観光客が集まるワイキキでは普段と変わらない日常の風景があります。街を歩く人にマスク姿の方はほとんど見ることはないし、おだやかで明るいビーチリゾートの風景は変わっていません。
ただハワイの地元の人にとって心配なのは、ハワイ経済全体にしのびよる新型コロナウィルスの影。観光をメインとした経済で成り立っているため、観光客数に大きな影響を与える新型コロナウィルスの問題は、現地人の生活にもダイレクトに影響しかねません。
ハワイを訪れる観光客のうち、もっとも多いのはアメリカ本土の方で全体の66.5%、次いで多いのが日本で14.3%を占めます(ハワイ州観光局2019年12月のデータに基づく)。また日本よりも少なくなりますが、韓国や中国からの旅行客もいます。そんななか、アメリカは2月に入ると過去14日間で中国に渡航した外国人の入国を禁止する措置をとり、その後には中国東方航空が中国とホノルルを結ぶフライトの運行を一時休止にしました。
新型コロナウイルスが流行する前から、中国からハワイを訪れる観光客は減っており、もともとハワイにおける中国人観光客数も多くないことから、中国人観光客のさらなる減少はそれほど心配されていないように見えます。また、2月下旬における日本からの訪問客は2019年同時期と比べて、わずか1%減にとどまっており、ホテルなどでは一定数のキャンセルが発生しているものの想定内でおさまっている様子。しかし、今後アメリカの入国禁止措置の対象に日本も加えられたら、新型コロナウイルスの影響は深刻になるかもしれません。
おそらく、ハワイの現地で観光業や旅行客とつながりのある仕事に就いている方は、自分自身や仕事への不安は少なからず感じているでしょう。現段階ではハワイではそれほど大きな新型コロナウィルスの影響は見られておらず、SNSでも新型コロナウイルスの流行を不安視する現地の声もあまり見つかりません。しかし、先週あたりからハワイでも自宅待機などになった場合に備えて、トイレットペーパーなどを買いだめする人が急増。スーパーの棚からトイレットペーパーがなくなる店も出てきており、日本と同じような“コロナパニック”現象がちらほら見受けられます。デマが拡散しているわけではありませんが、日本と似た群集心理が働いていないとも限らないかもしれません。