新型コロナウイルスの感染に揺れる香港では、2か月以上にわたり幼稚園、小中学校、高校の休校が続いています。先が見えない新型肺炎の行方に緊張が高まりさまざまな情報が錯綜するなか、香港のどこで何が起きているかが怖いくらいわかるウェブサイトが登場しています。現地の人たちがどのように情報を入手しているかを紹介します。
香港で初の感染確認後、わずか5日で開設
現在、香港で話題になっているのが、武漢肺炎民間情報ウェブサイト「wars.vote4.hk」です。香港で初の新型コロナウイルス感染が確認されたのが今年の1月23日で、3日後の26日には若者のボランティアグループが、香港での新型コロナウイルスに関する情報収集とウェブサイトの開発に着手。
彼らは感染が急増する恐れがあるのではないかと危惧して行動を起こしました。2003年にSARSが流行した際、政府の発表や対応が遅すぎると危惧した4名の大学生によって作られたウェブサイト「sosick.org 」に感化されたそうです。
wars.vote4.hkがアップされたのは、開発に着手してからわずか2日後の1月28日。情報が錯綜するなかでウイルスという見えない恐怖に襲われ始めていた香港人にとっては救世主的な存在となり、開設後24時間でユーザーは約100万人、ページビューは330万PVを超えました。
さらに2日後には英語版もスタートさせ、香港に在住する多くの外国人にも同じ情報が行きわたるようになりました。また急激なアクセス数の増加にも、ウェブサイトがクラッシュすることがなかった点もエンジニアたちを賞賛すべきでしょう。
無料で各種情報を入手できることからwars.vote4.hkは一気に市民権を獲得。それに影響されたのか、香港政府も数日遅れで総合情報ウェブサイト「香港衛生防護中心」を開設しました。その内容はwars.vote4.hkとほぼ同じですが、wars.vote4.hkには香港衛生防護中心には掲載されていないような市民が求める生活に密着した情報が載っているのが大きな違いです。
感染者が住む建物までわかる
開設当初のwars.vote4.hkの機能は、各病院の救急外来の待ち時間、マスクを法外な価格で販売している薬局情報、予防対策や感染者数をまとめた程度のシンプルなものでした。その後、徐々に機能が追加され、詳細な患者情報 (症状、年齢、性別、居住地、入院日、病院名)も閲覧することができるようになっています。また、香港内での感染リスクの高いエリアや、団地やマンションのどの棟に感染者が住んでいるかなどの情報も、Google Mapsで見られるようになっています。
いまだにマスクや消毒液の品薄状態が続く香港において、自分が住む地域をスマートフォンなどに入力すると近所の薬局情報がリストアップされる機能はとても便利。また、ネット上で積極的に発言する人たちから寄せられた情報をもとに、法外な価格でマスクを販売していたり、信じられないことに使用済みマスクや犬用マスク、偽物の消毒液を販売したりしている薬局もリストアップされています。
そのほか、国境を超える鉄道サービスはもちろん、交通機関のルート変更や現在休止中の公共サービス、学校の休校などの情報も、それぞれの機関に問い合わせることなく、1か所でまとめて確認できるようになっています。
中国や香港政府から発信される情報が信頼できないと思っている人たちや、情報が届きにくいと感じている人たちにとって、wars.vote4.hkは、貴重な情報源のひとつと言えるでしょう。
プライバシーと風評被害
しかし、そのデメリットは無視できません。現在、掲載されている情報量はかなりのもので、個人情報の観点から考えると不安です。ユーザーが欲しがりそうな情報を網羅する同サイトは、感染者が使った宿泊施設や飲食した店なども感染者リストに掲載していますが、それによって風評被害に苦しんでいる事業者も。
最近は日本でもテレビで店舗名などが報道されるケースも出てきましたが、サイト上での掲載が続くインターネットの影響力は計り知れません。発症が確認された施設名の下にはユーザーが発言できるコメント欄もあり、各店舗は店の外に張り紙を出して弁解するなどの対応に追われています。
SARSの集団感染が起きた時は集合住宅の配管からウイルスが広がったということもあり、香港の人たちは、感染が起きた場所を含めて具体的な情報を求める傾向が――ときに必要以上に――強いのです。
wars.vote4.hkのように、人々が知りたがっている情報をリアルタイムで提供することは、注意を促して感染を防止するのに役立つほか、安心感を持つことでパニックを抑えられるというメリットがあります。ただその一方で、メディアとして行き過ぎた報道に留意する必要があり、ユーザー側にも個人情報保護に配慮した冷静な対応が求められるといえるでしょう。