食後の満足感が低いと、おかわりをしたり、ほかの食べ物に手を出したりしてしまい、結果として食べ過ぎになってしまうことがあります。逆説的に、同じカロリーの食べ物でも満足感の高いものを選んで食べれば、減量しやすいかもしれません。そんな少量でも満足度の高い食べ物を作る技術として期待されているのが、3Dプリント。その発展は私たちの食生活やダイエットにも影響を与える可能性があります。
3Dプリントで食べ物を作る3Dフードプリンターは、人間の手作業では短時間で作れない複雑な形状の食べ物を作ることができます。スイスの有名チョコレートメーカーが3Dプリントを使ったチョコレート製品の生産を始めたことを以前ご紹介しましたが、3Dフードプリント技術は見た目に美しい食べ物を作るだけではありません。新しいダイエット食品への利用としての可能性もあります。
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そんな3Dフードプリンターと食べ物の満足度に注目しているのが、マサチューセッツ工科大学のコンピュータ科学および人工知能研究所(CSAIL)です(※)。研究チームは、まず3Dフードプリンターを作って、同じカロリーと重さで充填パターン(ここでは内部の構造)だけを変えた3種類のクッキーを用意(それぞれハチの巣〔a〕、ヒルベルト空間〔b〕、格子状〔c〕になっている。下の画像を参照)。それを30人の被験者に食べてもらい、咀嚼にかかる時間と食べた後の満足度について調べました。その結果、内側の形状がハチの巣になっているクッキー(a)が、この3つのなかで最も咀嚼時間が長く、満足度も高いことが判明。
そこで次は、内部構造は同じで充填率(体積のうち原子が占める割合)だけを変えた3種類のクッキー(〔a〕充填率は70%・大きさは25×25×5mm 〔b〕55%・35×35×5mm 〔c〕39%・40×40×5mm)を用意(下の画像を参照)。クッキー全体の重さとカロリーはすべて同じため、充填率が低いものは見た目が大きくなります。これを20人の被験者に食べてもらい、同じように咀嚼時間と満足度を調べたところ、充填率が低く、見た目が大きい(c)のクッキーは、この3つのなかで最も咀嚼時間が長く、満足度も高いことが判明。逆に充填率が高いクッキーほど咀嚼時間が短くなり、満足度も低いことがわかりました。
つまり、この2つの実験結果から、カロリーと重さはまったく同じなのに、3Dフードプリンターを使って食べ物の充填パターンと充填率を変えることによって、咀嚼時間と満腹感を変えられることが明らかになったのです。
今後3Dフードプリンターが食品業界などに導入されていけば、その働きは私たちの食事や健康、ダイエットにも及ぶ可能性があるでしょう。
※Ying-Ju Lin*, Parinya Punpongsanon*, Xin Wen, Daisuke Iwai, Kosuke Sato, Marianna Obrist, Stefanie Mueller.
[* equal contribution] FoodFab: Creating Food Perception Illusions using Food 3D Printing https://hcie.csail.mit.edu/research/foodfab/foodfab.html