月がサビてる——。そんな不思議なニュースが先日報道されたのをご存知でしょうか? そもそもサビるというのは鉄などの金属が腐食していく現象のことで、サビが起きるためには酸素または水が不可欠です。でも月には水が存在した可能性は示唆されているものの、酸素はほとんどないはず。では、月がサビているとは一体どんな現象で、何が原因なのでしょうか?
月にサビが見つかったというニュースは、ハワイ大学マノア校海洋地球科学技術学部の研究チームが月でヘマタイト(赤鉄鉱)が見つかったと発表したことで明らかとなりました。
赤鉄鉱は、鉄が酸化してできる鉱物のひとつ。金属は酸素や水と反応して酸化し腐食するもので、特に鉄は酸素に反応しやすく、サビた鉄は地球上でよく見られます。しかし、月がある宇宙空間に酸素はほとんど存在しないうえ、月の表面や内部にも酸素がないと言われています。そのため月には酸化されていない鉄が多く存在し、アポロ計画で採取された月のサンプルにも酸化鉄は確認されていませんでした。
おまけに、太陽から電気をもった高温の粒子が惑星空間を飛ぶ「太陽風」が月の表面には吹き付けており、その太陽風に含まれる水素は酸化とは逆の働きをします。だから、赤鉄鉱が月で見つかった事実は科学者たちに大きな驚きをもたらしたのです。
では、なぜ月で酸化鉄ができたのでしょうか? この研究チームはその理由について、数十億年もの年月にわたって、地球の大気が太陽風によって月の表面に吹き付けられてきたことが関係するのではないかと仮説を立てました。
そして月の鉱物組成をマッピングするNASAの装置「M3」のデータを解析したところ、月の北極や南極に近い高緯度の地域では、低緯度の地域やアポロ計画で得られたサンプルとは異なり、赤鉄鉱が多くみられることがわかりました。さらに赤鉄鉱が多く発見された場所は常に地球に面しているエリアだったのです。
2017年、日本の月周回衛星「かぐや」の観測によって、月が「プラズマシート」と呼ばれる磁気圏を通過したときに、地球の大気から流出した酸素イオンを検出することが判明しました。つまり、地球の大気が月まで到達することがあるのです。
そのため、今回発見された赤鉄鉱の原因に、地球の大気による影響が関係ある可能性が浮上。また赤鉄鉱が見つかった場所は、以前に同研究チームが月に水が存在していた証拠を見つけた付近と重なることから、その水の存在も関係している場合があるそうです。
ただし、地球の大気が届かなかったと思われる月の裏側でも、赤鉄鉱がまったく見つからなかったわけでもありません。高緯度で発見されたごくわずかな水分が、この赤鉄鉱に関連していたのかもしれないそうです。
NASAは、月面探査を行うアルテミス計画を2024年の打ち上げ予定と発表しています。この研究チームでは、そのアルテミス計画で実際に赤鉄鉱のサンプルを地球まで持ち帰ることができれば、さらなる研究の前進に役立つと期待しているそうです。地球から遥かかなたに存在する月に、地球の大気が影響しているとは、なんだか不思議な気がしてきますね。