ウイスキーは秘密が溶け込んだロマンティックな酒だ。その誕生からして、まさに「不思議発見!」の世界である。4世紀頃、エジプトで盛んになった錬金術がスペインに伝わった。そのとき、錬金術用のるつぼに何かの発酵液が入り、アルコール度数の高い蒸留酒が生まれたという。錬金術師たちも驚く偶然の産物であった。彼らはできあがった酒を不老長寿の秘薬として珍重し、ラテン語でAqua-Vitae(生命の水)と、呼んだのだそうだ。
■ウイスキーの3つの条件
こうして生まれた生命の水Aqua-Vitaeは、やがて世界中の人に愛されるお酒ウイスキーとなった。ただし、そこには厳格なルールがあり、ウイスキーをウイスキーとして定義づけるのは、以下の3つの条件を満たしていなければならない。
1.穀物を原料とすること
2.蒸留酒であること
3.樽で熟成させたものであること
『FOOD DICTIONARY ウイスキー』(エイ出版社・刊)は、こうしたウイスキーのウンチクが満載だ。ちなみに、穀物とは大麦、トウモロコシ、小麦、ライ麦などだ。それらを発酵させ、特徴のある形をしたポットスチルという機械で蒸留した後、樽の中で熟成させる。木の樽の中で寝かせることによって、あの独特なオーク色をした液体に変身するのだ。
■ウイスキー主要生産国はたったの5カ国
ウイスキーの主要生産国は意外なほど少ない。アメリカ、カナダ、スコットランド、アイルランド、そして、日本の5カ国だ。もちろん、それぞれに独自の味わいがあり、物語がある。
ウイスキーグラスを傾ける前に、これらのちょっとした知識を頭に入れておくと、夜更けのバーがさらに薫り高く感じられるだろう。もし、隣に恋人がいたら、なおさらのこと。バーカウンターで見る好きな人の横顔は、まさに魔術的な美しさとなって、あなたを酔わせるに違いない。
■5つのウイスキー主要生産国
「ウイスキーを生んだ5つの国ってどこなの?」と、聞かれたら、答えは以下の通り。
まずは、アメリカ・・・
アメリカといえば、トウモロコシを原料とするバーボンウイスキーが有名だ。内側を焦がした新しいオーク樽で熟成させるから、ほろ苦く、甘く香ばしい。
次に、カナダ・・・。
軽くて、癖がないから、カクテルにもよく使われる。アメリカが禁酒法の時代も、カナダ政府は輸出を禁止しなかった。 当然、アメリカ人はこぞってカナディアンウイスキーを飲むようになった。きっと禁断の味がしたことだろう。
さらには、スコットランド・・・。
ウイスキーのすべてはここから始まるとまで言われるスコットランド。まさにウイスキーの聖地だ。それぞれの地域によって、実にたくさんの種類のシングルモルトがあり、独特の香りがウィスキーファンを魅了する。一方、モルトウイスキーをブレンドしたブレンデッドウイスキーもあり、シングルモルトにはないまろやかな味を楽しむことができる。
そして、アイルランド・・・。
「最古の歴史」を持つと言われるのが、アイルランドで作られるアイリッシュウイスキー。
スコッチよりも軽く飲みやすい。
では、日本は・・・。
2014年に放送された朝の連続ドラマ「マッサン」で、その名をさらに広く知られるようになった竹鶴政孝。彼はスコットランドで学んできたウイスキー作りの技法をもとに、初めての国産ウイスキーを作りあげる。始めのうちは、日本人にはなじまないのではないかと危惧されたものの、今では外国でもその名を知られるようになった。
■イチローズ・モルトをご存じですか?
さて、最後にもうひとつ、日本が誇る新しいウイスキーを紹介したい。イチローズ・モルトと名付けられたウイスキーだ。イチローといえば、メジャーリーグで活躍するイチロー選手を真っ先に思い出す日本人が多いだろう。しかし、ウイスキーの世界にも「世界のイチロー」がいる。
現在、日本で一番新しく、一番小さなウイスキー蒸留所が埼玉県秩父市にある。その名は『ベンチャーウイスキー秩父蒸留所』。2004年に会社設立、2008年に蒸留所が稼働したばかりだ。(『FOOD DICTIONARY ウイスキー』より引用)
造り酒屋に生まれた肥土伊知郎氏が、数々の困難を乗り越えて創り出した「イチローズ・モルト」。海外でも高い評価を受けているウイスキーだ。イチローズ・モルトをイチロー選手が味わったかどうかはまだわからない。けれども、日本で生まれ、世界で認められたウイスキーである。是非ともイチロー選手に味わっていただきたいと、夢みないではいられない。(文・三浦暁子)
【参考文献】
FOOD DICTIONARY ウイスキー
著者:ムック編集部
出版社:エイ出版社
食に関する知識と、プロが教える実用的なテクニックを徹底的に詰め込んだシリーズ「FOOD DICTIONARY」は、寿司、日本酒、ウイスキー、コーヒーなど、 常に人気の高い食コンテンツをワンテーマで続々刊行。「ウイスキー」では、シングルモルトやブレンデッド、バーボンなど、様々な種類とともに幅広い飲み方があるウイスキーの基礎知識から、知る人ぞ知る情報まで紐解いていきます。