若者の酒離れ、さらにいえばビール離れというニュースを見たり聞いたりしたことがある人は少なくないでしょう。背景には嗜好の多様化など様々な要因がありますが、斬新な手法で若者の心を射止めているケースがあるのも事実。そのひとつが今回紹介する「KIRIN BEER SALON(キリンビールサロン)」です。
そこで、運営の中心メンバーにインタビュー。スタートのきっかけ、注力ポイント、サロンの内容、今後の展望など、舞台裏を明らかにしていきます。
サロン化とnote発信で20~30代の応募が9割。600万リーチを達成
話を伺ったのは3人。サロンで講師を務めている、キリンアンドコミュニケーションズ・工場広報事業部企画担当の草野裕美さん、企画や運営に携わっている、キリンホールディングス・コーポレートコミュニケーション部の齋木万起子さん、同じくコーポレートコミュニケーション部でオウンドメディア・SNSを担当している平山高敏さんです。
「キリンビールサロン」がスタートしたのは2019年。第1期は11月~翌年3月までの全5回、月に1度キリンビールの横浜工場内のレストランに集まり、ビールの魅力を深めていくという内容でした(3月に予定されていた最終回は延期)。
このサロン、もともとは同工場で約20年前から開催されているビールセミナーから派生したもの。セミナーも世の中の流れとともに、より個人に向けた内容にシフトしているとのことですが、そこには課題もありました。たとえば、新規の参加者が年々減っていたこと。言い換えれば、リピーターが増える一方で新たに興味を持って参加する人が少なくなっていたということです。
同様に20~30代の参加率も減少していたそうで、どうすれば若年層にセミナーの魅力をアプローチできるのかを、齋木さんや草野さんは考えるようになりました。そこで齋木さんは、同じチームでキリンビールのnote公式アカウントやデジタルコミュニケーション戦略を担当していた平山さんに相談。
平山さんは受講者のひとりとしてセミナーに参加したことがあり、想像以上に楽しく勉強になるセミナーが行われていること、参加者に喜ばれていることを実感していました。その体験を思い出しながら、伝え方を工夫して若年層向けに強く届けるアイデアを発案。それが「キリンビールサロン」なのです。
「note自体がもっている、コミュニティの観点を取り込もうと考えました。リアルな場であるセミナーは1回だけのもので、つまりは点です。これを連続参加型のサロンという線にすることでコミュニティにし、サロンのメンバーで一緒に考えることを可視化することで、同心円状に新たな価値が生まれるのではないかと思いました」(平山さん)
また、noteは自分の暮らしや選ぶモノにストーリーがあり、他者と共鳴しながら消費したいという読者が多いメディア。コアユーザーが20~30代というのも特徴です。そこで「キリンビールサロン」のスタート時に、講師の草野さんとビアジャーナリストとの対談記事を掲載し、よりダイレクトに熱量を伝えました。
「また、参加者と同じ年代のなかから特にテーマへの共感度が高く、サロンに積極的に関与いただける方をスカウトしてオブザーバーとして参加してもらいました。そのうえで『これからのビールの楽しみ方を、わたしたちと一緒に考えてみませんか?』と同記事で呼びかけました。すると、広告は一切打っていないにもかかわらず、公開したその日に34名の枠に100人近い応募をいただける結果に。その約9割が20~30代でした。ビールセミナーの20~30代は約25%でしたから、差は歴然です。そして第1期は最終の第5回を延期していますが、メンバー発信で広がった『#キリンビールサロン』のTwitter投稿は約600万リーチを突破(Sprinklr調べ)し、多くの若い方にビールの魅力を感じていただく機会となりました」(平山さん)
サロンの内容には自信があったものの、募集が始まる2週間ほど前からは、熟睡できず胃が痛い毎日が続いたと草野さんは当時を振り返ります。
「参加料金は全5回で1万9000円。横浜・生麦までの交通費もありますし。でも若い方々にとって決して安くはない参加費でも応募をしてくださったことに、本当に感謝の気持ちで一杯になると同時に、身が引き締まる思いでした」(草野さん)