日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、途上国で事業を実施する民間企業を後押しする「海外投融資」について取り上げます。
途上国でインフラ整備などの開発需要が拡大するなか、途上国政府向けのODA(政府開発援助)だけでなく、民間からの直接投資に期待が高まっています。しかし、途上国への民間投資は、さまざまなリスクがあり、そのニーズに対して十分に対応しきれていないのが実情です。そんななか、今、注目されているのが、JICAが途上国で事業を実施する民間企業などに向け、事業の開発効果などを審査したうえで出資や融資を行う「海外投融資」です。
JICAは今年、カカオ豆の生産・流通管理に向け、ガーナ政府が管轄する企業「Ghana Cocoa Board(COCOBOD)」に対して、1億米ドル(約110億円)の海外投融資を行いました。
この事例は、ガーナ政府の財政支援に頼らない、カカオ豆生産農家への支援やカカオ産業の中枢を担う企業による自立的な資金調達となります。同国の主要産業の持続的な成長を直接支援する形となり、高い開発効果が見込まれています。
海外投融資による長期の資金支援で、ガーナのカカオ産業の発展をサポート
「COCOBODは、政府の管轄下にありますが、財務的には国から自立しており、これまで民間金融機関からの短期の資金調達ができていました。しかし、農家のカカオ豆生産や関連産業の持続的な成長に向け、COCOBODは長期の資金支援を要望しており、民間金融機関だけでは対応しきれなかったことから、民間向けの資金支援スキームである海外投融資が使われることになったのです」とJICA海外投融資課の大和田慶職員は、今回の経緯を説明します。
ガーナは、チョコレートの原料となるカカオ豆で世界2位の生産量を誇り、日本が輸入するカカオの約70%がガーナ産です。COCOBODは、農家が生産するカカオ豆を国際市場価格ベースで買い取り、品質管理をした上で国内外に販売。JICAは、以前から技術協力プロジェクトや研修を通じてCOCOBODのカカオ豆の検査管理能力の強化に協力し、ガーナの安定的なカカオ豆の輸出を支援してきました。しかし、その生産や流通を維持するには多くの課題もあったのです。
今回の海外投融資によって、カカオ農家やカカオ関連産業の生産性が強化されます。融資された資金は、予算的な制約からカカオ農家にとって着手の難しいカカオの木の植え替えや、流通に必要な倉庫の整備などに使われる予定で、これにより、カカオ農家の所得向上や新規の雇用創出が期待され、現地で課題となっている貧困や雇用問題の対策にもなります。さらに、将来的には日本への高品質カカオの安定供給に貢献することも期待されています。
海外投融資を呼び水に、民間融資を引き出す
大和田職員は「民間事業は民間金融機関などから資金を調達し、事業展開できるのが理想です。しかし、途上国では、必要性や成長性が見込まれるにもかかわらず、さまざまなリスク要因から民間セクターの資金が受けられない民間事業があります。そんな場合には、JICAをはじめとする開発金融機関の投融資スキームを利用してもらうことで事業実施を後押しします。もちろん、海外投融資と民間資金とを組み合わせて利用することも可能です」と、JICAの海外投融資と民間金融機関との関係性を語ります。
そして、「JICAのような公的機関が出資・融資に参加することによって、支援先企業はJICAが長年蓄積してきた開発途上国政府とのネットワークなどを活用できます。さらには、その他の民間金融機関や投資家が、JICAの開発途上国でのプレゼンスを評価し、安心して出資・融資に参加できるといった「呼び水効果」も重要な側面になります」と続けました。民間資金、政府に対する円借款による支援、そして海外投融資、この3つ資金協力がバランスよく実施されることで、途上国の課題を解決へと導いていきます。
海外投融資の活用を進める
JICAの海外投融資は、現在、14ヵ国(4地域)で実施され、2012年からの累計承諾額は、2019年時点で約2,200億円に達しています。SDGsの達成に向けて、途上国での民間事業の開発資金需要は非常に大きくなるなか、海外投融資の支援ニーズも拡大しています。このような状況から、JICAは2020年以降も海外投融資の活用をさらに進めていきます。