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2020/11/4 16:00

衛星技術で途上国の生活を便利に――電子基準点の利活用を進め、インフラ整備の効率化や自動運転技術の向上を図る【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、衛星技術を活用した途上国の生活を便利にするための取り組みについて取り上げます。

 

最近よくニュースで耳にするドローンやトラクターなどの自動運転は、米国の「GPS」や日本の「みちびき」といった衛星からの電波を地上で受け取り、位置情報が得られることで可能となります。衛星の電波から精度の高い位置情報を得るためには「電子基準点」という地上に設置された観測装置が欠かせません。

 

この高精度な位置情報とデジタル地形図を活用することで、道路や上下水道などのインフラ整備をより迅速に、かつ効率的に行えるようになります。

 

人々の生活を豊かにし、都市開発を効率的に進めるため、JICAはミャンマーやタイなどで、電子基準点の整備や活用の促進に取り組んでいます。

↑ヤンゴン市内に設置された電子基準点

 

↑衛星データを活用した測量実習の様子(ミャンマー)

 

ミャンマー:電子基準点の設置から運営維持管理までサポート

ミャンマー最大の都市ヤンゴンにて、JICAが2017年から実施しているのがデジタル地形図や電子基準点の整備を目的とした「ヤンゴンマッピングプロジェクト」です。ミャンマーでは、これまで電子基準点が設置されていなかったため、まずヤンゴン市および周辺エリアに5点の電子基準点を整備しました。

 

この電子基準点から得られた高精度な測位データとデジタル地形図によって、今後ヤンゴン市で計画されている道路や上下水道などのインフラ整備をより迅速に、かつ効率的に行えるようになります。

↑ミャンマー最大都市・ヤンゴンのデジタル地形図

 

さらに、デジタル地形図と土地利用・統計データを活用することで、「現状の建物用途を地形図上で可視化し、将来の土地利用計画を検討する」「学校、病院などの社会インフラの配置を適切に計画する」といったことが期待されます。多様な情報が地図上で可視化され、政策決定が迅速に進められるようになるのです。

 

電子基準点の利活用に向け、設置した後の適切な運営維持管理や利活用の促進も重要です。JICAはミャンマー政府の職員を日本の国土地理院に招き、安定的な運営維持管理手法や予期せぬトラブルが発生した際の対処方法などの研修を実施しています。

↑国土地理院で研修を受けるミャンマー政府の職員ら

 

電子基準点から得られる高精度な位置情報を利用する際、位置座標の補正が重要となります。その補正が必要となる代表的な理由は地殻変動です。大陸は1年に数センチメートルほど移動しますが、地図の位置座標は過去のある時点のまま変更されません。年月の経過と共に現在の正しい位置と、過去の地形図上の位置とのずれが大きくなっていくことから、座標の補正・更新を行い続ける必要があります。

 

研修に参加したミャンマーの職員からは「電子基準点を維持・管理していくための解析方法を目の前で学ぶことができた。今後の業務に活かしていきたい」といった声があがっています。

 

タイ:トラクターや建設機械の自動運転技術の実証実験を進める

JICAは昨年、タイにおいて、日系企業とタイ政府機関・現地企業と協力し、トラクターや建設機械の自動運転のデモンストレーションを実施しました。

↑タイで実施されたトラクターの自動運転のデモンストレーション

 

タブレット端末などで専用のソフトウェアを操作し、電子基準点と衛星技術を活用することで、センチメートルレベルの精度でトラクターの走行経路を設定することができるという実証実験です。通常、衛星からの位置情報だけでは誤差が数メートルレベルとされていますが、電子基準点があることで誤差がセンチメートルレベルにまで向上するのです。

↑左:無人で走行するトラクター(株式会社クボタ)/右:デモンストレーション会場では、自動運転に関する説明も行われた(ヤンマーアグリ株式会社)

 

さらに、今年9月からは、タイ政府が新たに設置する国家データセンターの運営維持管理能力の強化など、電子基準点から得られる高精度な測位データのさらなる利活用促進に向けた取り組みを進めていきます。デジタルエコノミーの拡大や新規ビジネス・イノベーションの創出に寄与することが目的です。今後、複数の民間企業と協力して、衛星と電子基準点を活用したさまざまな分野でタイにおける社会実装を目指していきます。

 

JICAの電子基準点の利活用は、民間企業から熱視線

JICAが途上国で進める電子基準点の利活用は、民間企業からも高い関心を集めています。電子基準点を活用したビジネスを展開している総合商社の三井物産の担当者は、JICAの取り組みについて、次のように話します。

 

「電子基準点の活用によって、途上国でさまざまなビジネスの可能性が開かれる点に注目しています。JICAが電子基準点から得られる空間情報を活用したインフラ整備を進めているのは、産業創出を促進する面でも大変意義深い取り組みです。日本をはじめ先進国では農業、建設分野に限らず、鉱山、運輸等、多岐にわたる分野で、電子基準点を活用したビジネスが広がっています。JICAが途上国で電子基準点の利活用を進めることで、さらに日本の民間企業の知見が途上国の開発とビジネス展開に寄与していくことが期待されます」

 

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