現在、世界中の人々が医療従事者に感謝しています。そんななか興味深い論文が12月上旬、アメリカで発表されました。手術室で仕事をする外科医の集中力について「プライベート」という側面から分析したこの研究は、執刀医の誕生日と手術結果の関係に着目。新たな事実が示されました。
手術後30日以内の死亡率が増加
手術室では、執刀医が臨床的な理由だけでなく、個人的な事情のために注意力散漫になることがよくあります。これまでの実験では、気が散った執刀医は手術がうまくできなくなってしまうことが明らかにされていましたが、実際の手術のデータを使った研究では、執刀医の注意力散漫が手術の結果にどんな影響を与えるのか、よくわかっていません。
そこで調査に乗り出したのが、慶応義塾大学の加藤弘陸特任助教とカリフォルニア大学ロサンゼルス校の津川友介助教授、ハーバード大学のAnupam B. Jena准教授の3人。この共同チームは、執刀医の誕生日に行われた手術を見てみることで、プライベートな事情による注意力散漫と手術結果にどのような関係があるのかを調べることができるかもしれないと考えました。執刀医の誕生日と患者の死亡率の関係は、これまで研究されていません。
彼らは、2011〜2014年の間にアメリカの救急病院などで65~99歳の患者に対して行われた98万876件の緊急手術に関するデータを使用。これらの手術を担当した外科医およそ4万7489人の誕生日とあわせて分析をしたところ、全体の0.2%にあたる2064件が執刀医の誕生日に行われた手術であったことが判明。そして術後30日以内の患者の死亡率について調べると、執刀医の誕生日以外の日に行われた手術では、患者が30日以内に死亡した割合は5.6%だったのに対して、執刀医の誕生日に行われた手術の後の死亡率は6.9%と、1.3ポイント高いことが判明。言い換えると、両者の間で死亡率が23%も異なることが明らかとなったのです。
執刀医が誕生日に手術を行うと、患者の死亡率がなぜ高くなるのか? 今回の研究ではその点は明らかにされていません。さらに今回のデータは65歳以上の高齢者を対象としたものなので、もっと若い世代でも同じような傾向が見られるかどうかも調べる必要があります。このような限界を踏まえて、津川氏は「患者は誕生日の執刀医を避ける必要はない」と述べています。目の前の大事な仕事に専念することは、外科医にとっても簡単ではないのかもしれません。
【出典】Patient mortality after surgery on the surgeon’s birthday: observational study. BMJ, 2020;371:m4381. https://doi.org/10.1136/bmj.m4381