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2021/1/23 19:30

ホストが短歌!? 31文字に込められた彼らのホンネが楽しく切ない−−『ホスト万葉集 巻の二』

コロナ禍でしばしば話題にあがるホストクラブ。苦境に立つ彼らのなかに毎月短歌を詠み続ける集団が。歌会での出来は、ホストならではの言葉のセンスが光ります。彼らはなぜ凄い歌が詠めるのかを考察してみました。

 

コロナ禍に生きるホストたち

 

「コロナかもだから会わない好きだから コロナ時代の愛なんてクソ」

 

これはホストの歌会を主宰する手塚マキさんが詠んだものです。「だから会わない/好きだから」と「だから」をあえて2度使う美しい歌を、最後「クソ」で締めるのがすごくホストらしく、姫(お客様)に来てもらわなくては稼ぐことができないホストの心の叫びも込められている気がします。

 

ホストクラブSmappa!グループでは、毎月歌会が行われ、80人の在籍ホスト達は短歌を詠んでいます。代表の手塚さんは歌舞伎町で清掃活動をしたり、歌舞伎町ブックセンターという書店を経営してホスト達に読書を勧めるなど、普段から文化や社会とホストとの接点を考えているかた。

 

2020年7月に出版した『ホスト万葉集』(講談社・刊)が大好評で、12月に早くも『ホスト万葉集 巻の二』が刊行されました。そこに収録された375首の中にはコロナを題材としたものも多くあります。

 

ホストにとって言葉は商品

ホストクラブのホストは、まずお客様から指名をいただく必要があります。指名客の飲み代のうちの何割かが彼らの収入となるからです。店を訪れる女性客は、大勢のホストのなかからひとりだけを選びます。つまり彼らは選ばれしものになる必要があるのです。

 

どうやって女性客の気を引くか。もちろん見かけをカッコ良くする努力もしていますが、大切なのは会話なのです。他のホストに勝つためにも、その女性客はどんなセリフを喜ぶかを常に考え、言葉選びをしています。目立つためには流行語をアレンジするなどの言葉遊びをすることも。実は日々、言葉のセンスを磨いているようなものなのです。

 

ホストは切磋琢磨する

ホストクラブで有名なのは集団でのシャンパンコールの光景。あれは何度も練習し、息を合わせているからできる素晴らしいショーなのです。彼らはライバルであり、そして協力し合う仲間でもあり、結束力はかなりのもの。歌会でも自然と彼らは競い合うようになったのでしょう。

 

「ギラギラと偏見の視線浴びながら 俺はホストでキラキラするよ」

 

これはホストの流石 翼さんが詠んだ歌ですが、「ギラギラ」と「キラキラ」の対比がとても美しいです。ホストクラブのシャンパンコールは韻が綺麗に揃い、ラップのようなひとつの作品に感じさせられるのですが、彼らは普段からこうした言葉遊びに慣れているので、短歌でも自然とそれが出てくるのでしょう。

 

ホストの毎日はドラマ

そしてホスト達の毎日は、愛とスリルに満ちています。姫に愛されたり、嫉妬されたり、驚くほど高額のシャンパンを開けていただいたり、ある日突然姫が店に来なくなったり。そして夜の歌舞伎町を歩けば、ケンカをしている人がいれば泣いている人もいて、ドラマがそこかしこに散らばっているのです。

 

彼らは姫やホスト仲間など色々な人との出会いと別れを日々繰り返しています。めまぐるしくいろいろなことが起きるなかで、目の前の姫を喜ばせるためにより良い言葉を選び続けている、そんな彼らの日常が31文字に凝縮されるからこそ、こちらの心にも響くのではないでしょうか。

 

手塚さんは、起業家として鋭い着眼点を持ち、ホストが握る寿司屋やホストクラブの内勤スタッフがお世話する介護事業などを実現してした人です。今回の周囲をあっと言わせる鮮やかな歌会企画も、一連の異業種マッチングの流れのひとつなのでしょう。ホストたちの言葉のキレの良さがこの歌集で知れ渡ったことで、新たな活路が開かれる予感もします。

 

【書籍紹介】

ホスト万葉集 巻の二

著者:手塚マキと歌舞伎町ホスト80人 from Smappa! Group
発行:講談社

NHK「クローズアップ現代+」、朝日新聞夕刊一面トップほか、マスコミ&ネット・メディアで大反響の前作『ホスト万葉集』発売から半年足らず。コロナ禍直下の7月から11月まで6回の歌会で作った合計591首から375首を厳選! 今度は「姫」と「母」の、感動の短歌も収録!

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