生まれて初めて鉛筆を削ったときのことを憶えている人は、いるだろうか? タイミングとしてはおそらく、小学校入学直前の今頃。入学用品のひとつとして買い与えられた鉛筆と鉛筆削りを、親から「こう使うんだよ」と教えてもらう、というケースが多いのではないだろうか。
筆者もまさにそうで、当時の定番だったナショナルの電動鉛筆削り「ペンナー KP-55」を買ってもらったのである。水色ボディに尖り具合セレクターのついた、かっこいいやつだ。
ピカピカのKP-55をうっとりと眺めていたら、父親が「よし、じゃあ鉛筆の削り方を教えてやろう」と言う。で、父親に手を添えられつつ電動削り器に新品の鉛筆を差し込むと、瞬間、ズガガガガガガ! という爆音が上がり、凄まじい振動が手に響いたのである。
そのあまりのけたたましさにビックリした筆者が手を離そうとしたのに、あろうことか、父親が手をがっちり抑え込んで離さない。手がビリビリ痺れるほどの振動と音、そして、どんどん飲み込まれていく鉛筆。「このままでは手まで食われる!」と怯えてギャンギャン泣きわめき暴れる筆者。なぜかゲラゲラ笑いつつも手をガッチリ離さない父親。おそらくあの頃には、全国各地で同様に繰り広げられていたであろう、軽い惨劇の現場である。
その後どうなったのかは、あまり憶えていない。ただ、それ以降はけっこう平気でKP-55を使って鉛筆を削っていたはずで、あの初体験が幼いきだて少年のトラウマにならなかったのは幸いだった。
もちろん、近年の電動鉛筆削りは昭和の製品よりもずっとマイルドになっているが、それでも、振動と音に怯える子どもはまだいるのかもしれない。
ハシレ! エンピツケズリ! 走れ!
そもそも、なんで鉛筆削りごときにそこまでビクビクせねばならんのか。楽しく削ることはできないのか。
音と振動の少ない手回しの削り器だって、ハンドルの回転半径がまだ体の小さな子どもには大きすぎて、上手く回すのは一苦労だ。もっとラクに、かつ怯えることなく楽しく鉛筆が削れたっていいはずだろう。
プラス
ハシレ!エンピツケズリ!
3000円(税別)
だから、プラスの新しい鉛筆削り「ハシレ!エンピツケズリ!」を一目見た瞬間に、そうそう、こういうやつだよ! と思ったのだ。
もしかしたら開発担当者は、同じく電動鉛筆削りでギャン泣きした経験を持つ人なのかもしれない。コンセプトカー的な未来感溢れるフォルムが超カッコイイし、さらにこれ、手に持ってコロコロと走らせるだけで鉛筆が削れてしまうというのだから、この時点で早くも最高と言わざるを得ない。
もちろん、つらい振動とか怖い爆音もなし。ただトップレーサー気分で車を走らせているだけで、だ。
まず、後部のジェットノズルめいた穴に鉛筆を挿したら、レバーを左に倒してロック。あとは手を車体上部に添えてコロコロと走らせれば、前輪の回転に連動して車体内部の削り器が回転し、鉛筆を削り上げていくという仕組み。
エラストマー製のタイヤはグリップ力があり、フラットな路面でもしっかり食いついて空転にくいのも、いい感じだ。もちろん、走らせることで机や床を傷つけるようなこともなさそう。
ここで面白いのが「1Wayギア」と名付けられた構造で、本体が前進しても後進しても、削り器はずっと同じ方向に回り続けるのである。
おかげで、鉛筆を削るためにどこまでも走らせる必要はない。途中で机から飛び出しそうになってバックしている間も、きちんと仕事をしてくれるのだ。
つい延々とコロコロ走らせ続けそうになるが、内部からカチ! カチ! と音がしたら、ドライブ終了の合図。ロックを外して鉛筆を取り出せば、ピンピンに削り上がっているわけだ。
ロックレバーは強めのバネが入っているので、レバーを引き戻しつつ倒すという動作は、小さい子どもにはちょっと難しいかもしれない。もしかしたら、このあたりをチャイルドロックとして機能させようとしているのかもしれないのだが。
削りカスを捨てるときは、ガラスルーフ(っぽい部分)の先端にあるスライダを引いて持ち上げる。するとルーフがパカッと外れるので、そのまま車体内部に溜め込まれたカスを捨てるだけ。
ちなみに削り刃が摩耗して交換する、もしくは芯詰まりの解消も、ルーフを外した状態で行う。この時は、削り刃近くの固定ネジに、指先をかけてユニットを引きずり出すことになるので、必ず専門のメカニック(保護者)が行うこと。日常メンテナンスはカス捨てまで、とドライバーにも伝えておこう。
良くできているなーと感じたのは、サイズ感だ。
全長155mmは、いわゆるミニカーの1/32スケールに近く、さらに全高のボリュームもあるため、トミカの1/60スケールに慣れている子どもにはかなり大きく感じられるはず。このデカさがいいのだ。
大人の手でコロコロ走らせても問題ないサイズなので、子どもの手には少し余るぐらい(幅を削っているので、持つのに問題はない)。この大きめサイズは、ただのミニカーじゃない特別な車なのだ、という気持ちの盛り上がりにつながるのではないか。
実際、構造的にはもう少しコンパクトにだって問題なく作れただろうから、これは運転するドライバーのテンションまで考慮したサイズだと思う。
もちろん、削る効率の良さとかスピードとか、そういった点で便利な削り器では絶対にない。ないんだけど、でも、必ずしも「高効率=優秀」というわけじゃないのが、文房具の面白いところだと思うのだ。
使う楽しさとか、削れるまでの作業を退屈に感じないという意味で言えば、「ハシレ!エンピツケズリ!」はなかなかに優秀なものなんじゃないだろうか。これ、大人だって削ってみたくなるし。
「きだてたく文房具レビュー」 バックナンバー
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