2020年4月の正式サービス開始から、まもなく1年を迎える楽天モバイル。4月1日からは現在の料金プランを「Rakuten UN-LIMIT VI」にアップグレードし、1GBまでは0円で使えるようになります。300万名限定で1年無料になるキャンペーンも4月7日で受付を終了することが発表されました。
※3月9日時点で300万回線を突破。
今年の春は、大手3キャリアが格安の新料金プランを開始します。キャリアの乗り換えを視野に入れて、スマホ料金の見直しを検討している人が少なくないでしょう。新規参入の楽天モバイルに勝算はあるのか? ユーザーにはどんな恩恵があるのか? 楽天モバイルの常務執行役員で、CMO(最高マーケティング責任者)の河野奈保氏に、2年目の展望について聞きました。
――1月29日に発表した新プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」の反響はいかがですか?
河野:私たちとしては、新しいプランを出したわけではなく、既存の「Rakuten UN-LIMIT」をアップデートさせたという認識です。なので、他社が新しいプランを発表したこととは意味合いは異なります。「Rakuten UN-LIMIT VI」は、多くの人に関心を持っていただき、とくに若い方と年配の方の契約が伸びています。今回のアップデートで、ユーザー層が全方位的になってきた印象です。
「ワンプラン」のコンセプトは変えずに、様々なニーズを読み試行錯誤して作り上げた「Rakuten UN-LIMIT VI」
――「Rakuten UN-LIMIT VI」のどういう点が評価されたと考えていますか?
河野:昨年4月にローンチした際は、ワンプランをとにかくわかりやすくするために「2980円で無制限」、そこにフォーカスしました。しかし、ユーザーさんからのフィードバックなど、いろいろなデータを見て、多様なニーズがあることがわかってきました。特に、コロナによって生活スタイルが大きく変わり、例えば月に10GB以上使っていた方が在宅ワークのためにほとんど使わなくなったり、海外出張が減ったりですとか、料金プランに対する考え方が変わったという声も聞かれました。また、家族とのコミュニケーションにしか使わないので、データ無制限は必要ないというご年配の方もいらっしゃいます。他社が多様なニーズを応えるべく、多くのプランを提供されているという理由もよくわかりました。
その上で、私たちとしては、他社と同じやり方ではなく、シンプルなワンプランで、いろいろなユーザーニーズに応えることができないかと考えたわけです。今回は1GBまでは0円で、3GBまでは980円、20GBまでは1980円という階段にしましたが、この階段の幅についても、ものすごく細かく検討しました。何度階段を作り変えたことか(笑)。ユーザーの利用状況や分布などをデータを細かく分析した上で、最終的に導き出したのが今回のプランです。
――「Rakuten UN-LIMIT VI」は、3キャリアがオンライン専用の新プランを発表した後に発表されました。他社の動向を見た上で検討されたのでしょうか?
河野:もちろん他社の動きを見ていないわけではありません。しかし、月額2980円という金額を最初に打ち出したのは私たちで、そこに向けて、他社さんが課題(政府からの値下げ要請)を検討されたのだと思っています。私たちは「300万人限定、1年無料」と設定していました。「Rakuten UN-LIMIT VI」の発表時点で220万人を超えていて、300万人到達が近づいてきたので、新たな戦略として発表した次第です。
――ワンプランは今後も続ける計画ですか? 市場の変化に合わせて、新しいプランが追加される可能性もあるのでしょうか?
河野:ユーザーさんにわかりやすく、シンプルな設計で、というコンセプトは変わりません。「Rakuten UN-LIMIT」をどう進化させていくかは、みなさんの利用状況を見ながら常に検討しています。これまでも、メインの料金体系は変えずに、5Gを無料で追加したり、手数料を無料にしたりというアップデートを行ってきました。次に何が変わるかは未定です。
――楽天モバイルは、従来からMVNOサービスを提供し、多くのユーザーを擁しています。そのわりには300万契約までに時間がかかったように思いますが、思うようには移行が進まなかったのでしょうか?
河野:そういう認識はありません。MVNOには複数のプランがあり、大容量のプランを契約されている方は、早めにMNOに移られる方が多かったです。一方、低額のプランを選ばれている方や利用年数に応じた割引が適用されている方の中には、もう少し様子を見たいという方もいらっしゃいます。私たちとしては、しっかり検討いただいて、しかるべきタイミングで移っていただければと考えています。なので、強引に移っていただくような案内はしていません。ですが、「Rakuten UN-LIMIT VI」に興味を持っていただいた方が多いようで、最近、MVNOからの移行が加速しています。
――「1年無料」「1GBまで0円」など、安さを全面にアピールしていますが、価格面以外に楽天モバイルを選択するメリットは、どこにあるのでしょうか?
河野:まず「1GBまで0円」だけではなく、利用に応じて金額が変わり、2980円で無制限で使えることは、他社との大きな違い。ユーザーさんに安心してお使いいただけます。また、他社の新プランはオンライン専門ですが、弊社ではオンラインでも店舗でも申し込めます。契約にあたって不安なことがあれば、店舗で説明させていただきますし、契約後に、使い方がわからない、契約内容を変更したい、解約したいといったときに、店舗でもフォローさせていただきます。そこも弊社の優位性と考えています。
――楽天モバイルのショップは、今後も増やしていく計画ですか?
河野:すでに全国で600店舗以上を展開していますが、まだまだ増やしていきたいです。ショップのオペレーションは非常に重要で、そのためのコストも確保しています。
楽天市場で頻繁に買い物をするような方でも、楽天モバイルを契約する際にウェブではなく、店舗に行かれる方がいらっしゃいます。私自身、その気持ちはよく理解できます。例えば、ペットボトルを1本買う場合、選び間違えたとしても1本分を損するだけですよね。しかし、携帯電話の場合は、契約に失敗すると後々の手続きも大変。事前にショップで説明を受けることは大きな安心感につながります。ウェブで契約される方にも、近くにショップがあることで、なにかあったら行ける、という安心感を与えられると考えています。
複数のサービス・事業が連携する、楽天グループのシナジー効果を活かしていく
――ネットワーク構築やショップ展開などに莫大な費用がかかる中、「1年無料」といった太っ腹の施策を行える理由は? モバイル事業には、それだけ投資する価値があるのでしょうか?
河野:楽天は4月1日に「楽天グループ株式会社」に社名変更しますが、多くの事業を展開しているだけではなく、すべての事業がつながっていくエコシステムを打ち出しています。ユーザーさんは「楽天」をグループとして見ていらっしゃいます。その最たるものが楽天IDや楽天ポイントで、その利用価値を感じていただいています。実際、楽天のユーザーは、1つのサービスだけでなく複数のサービスを使っている方が7割以上いらっしゃって、そういう人たちを意識しながらサービスを提供しているのです。なので、モバイル事業への投資は、グループ全体の投資と考えています。
楽天は、複数の事業をクロスで展開することが当たり前の企業文化を持っています。そういう文化を生み出したり、現場の意識を変えていくことは、本来は難しいことです。ですが、楽天は、最初に楽天市場があり、事業が増えていく中で、ほかの事業と連携することが根付いています。
――楽天モバイルの契約者は、既存の楽天サービスの利用者が多いのでしょうか?
河野:サービスをローンチした当初は、楽天の何かしらのサービスを利用されている方が多かったです。しかし、数か月経つと、楽天のサービスを一度も使っていない、楽天経済圏の外からの新規ユーザーも増えてきました。現在は、契約者の約15%が新規ユーザーで、その傾向が続いています。楽天のサービスは70以上あります。すでに多くの人に利用いただいているにも関わらず、新しいユーザーを獲得できることもモバイル事業の特徴です。
――新規ユーザーは、ほかの楽天サービスを使っていますか? 顕著に利用されているサービスはありますか?
河野:新しく入られた方の動きを見ていますと、楽天市場や楽天カードなど、ほかのサービスも使い始めています。それはデータにも顕著に現れています。ウェブだけではなく、リアル店舗でも使えて、ポイントが貯まるということで楽天Payの利用も増えています。そういうシナジー効果においても、楽天モバイルはグループの中で非常に重要な位置付けにあります。
――ほかのキャリアは、Amazonやメルカリ、Netflixなど、人気が高いサービスと積極的に提携する動きが見られます。楽天モバイルがほかの楽天サービスを利用しやすいことはメリットである反面、楽天ブランドに縛られるような印象も受けますが?
河野:たしかに、パートナーを探していくほうが新しいことができるように捉えられることがあるかもしれません。しかし、他社から仕入れたものをユーザーに提供すると、仕入れ値やユーザーへの提供コストは、自社で行うよりもはるかにかかります。私たちは自社のサービスを提供することで、低価格を実現しています。だからこそ、楽天モバイルもこの価格で提供できるわけです。
携帯電話事業に参入するにあたって、弊社ではネットワークの構築から、すべて新しいやり方を取り入れました。それにより、楽天モバイルのユーザーの動きを、楽天ならではの技術と知見で分析でき、他事業に生かすこともできます。そこに楽天の強みがあると考えています。
――オリジナル端末を開発するのも同じ理由でしょうか?
河野:端末はパートナーのブランドからの提供も受けています。既存のブランドに強い信頼を寄せていて、使い慣れた端末を使いたいというニーズもありますから、それに応えていくことも重要です。
同時に、楽天ならではのサービスやコンセプトが伝わる端末を自社で開発していきたいという思いもあります。昨年は、Rakuten Mini、Rakuten BIG、Rakuten Handという、ネーミングも含めて変わったものを出させていただきました。どういうクオリティであれば、ユーザーに認めていただけるかを試行錯誤している段階です。昨年12月に発売したRakuten Handは、細長いボディが持ちやすいと好評です。安いので買ったという方も多いのですが、毎日使うものですから、気に入っていただかないと使い続けてもらえません。しっかりクオリティも担保できるものを、今後も開発していきたいです。
――楽天回線エリアがまだ狭いことを不安視する人もいます。夏頃には人口カバー率で約96%に達する見通しと発表されましたが、それでも、すでに99%を超えている他社には及びません。96%以降の計画は?
河野:今年の3月末までに80%、夏までに96%という見通しを発表したのは、みなさんがエリア拡張に興味を持たれているからです。当初の計画から5年前倒しで、スピード感を持って取り組んでいることを宣言させていただいたわけです。もちろん96%で終わりというわけではなく、最終ゴールは100%です。96%から99%にしていく過程が大変だということは認識していますし、楽観視しているわけでもありません。100%まで、スピードを落とさずに取り組んでいきますので、見守り続けていただきたいです。
――昨年9月30日から5Gサービスも始まりました。まだ、対応エリアは限定的のようですが、5Gエリア拡張の進捗は?
河野:私はネットワーク専門ではないので、細かいことまでは申し上げられませんが、5Gの時代が来るのは確実で、5Gのネットワークもしっかり構築していかなくてはならないと認識しています。他社も含めて、現時点では、5Gエリアは限定的です。5Gエリアの拡大は今年から加速していくでしょう。日常生活の中で当たり前に5Gを体験できるようになるまでには、まだ年月を要します。現時点で他社と比較されることもありますが、個人的には、5Gについては、数年後の世界でどうなっているかが重要だと思っています。
――ありがとうございました。
撮影/中田 悟