公衆トイレの中には、ふたがないものがあります。そんなトイレに出くわすと、水を流したときに飛び散る水しぶきが気になるかもしれません。「心配し過ぎでは?」と思う人もいるかもしれませんが、実際にはそうとも言えないようです。最近の研究で、トイレの飛沫は高さ1.5メートル以上に達することがわかりました。この研究結果は、新型コロナウイルス感染対策にも影響するかもしれません。
人の尿や便、トイレの水には、エボラウイルス、ノロウイルス、新型コロナウイルスなど、さまざまな病原体が含まれていることがあります。新型コロナは、主にくしゃみや咳などの呼吸器系の飛沫を介して感染すると言われていますが、感染者の尿や便からウイルスが発見されたとも伝えられています。公衆トイレは換気が悪いことも少なくなく、不特定多数の人が使うことから、新型コロナに感染する可能性はゼロではないと指摘されているのです。
そんな公衆トイレで起きる感染の一因として疑われているのが、エアロゾル(空気中を漂う微細な粒子)。便器の形や流れる水の強さと量にもよりますが、トイレの水を流すと大量のエアロゾルが発生します。
では、トイレで水を流したとき、その周囲にどれくらい水しぶきが飛んでいるのでしょうか? 米国のフロリダ・アトランティック大学がふたのない公衆トイレで実験を行い、4月下旬に研究結果を発表しました。
実験では、約3時間で100回以上水を流したところ、エアロゾルが大量に発生。水を流すたびにその量は増えていき、その数は数万個に達することがわかりました。トイレ周辺の空気中にあるエアロゾルの量が実験前後でどれくらい変化したのかを大きさ別に見てみると、0.3~0.5マイクロメートルのエアロゾルでは、実験前の数値(5分間の平均量)が2537でしたが、実験後は4301になり、69.5%増加。ほかの大きさも同様に計算すると、0.5~1マイクロメートルのものは209%、1~3マイクロメートルは50%、それぞれ増えたことが判明したのです。
この中でも比較的に大きい1~3マイクロメートルのエアロゾルについては特に注意が必要な模様。「(ふたなしの)水洗トイレと男性用小便器からは3マイクロメートル以下の飛沫が生じており、その中に病原体が含まれていた場合は飛沫感染のリスクがある。しかも、その大きさから空気中に長時間漂うこともあるだろう」と、実験を行った研究者は述べています。
実験で確認された飛沫は、最大で高さ1.52メートルに達し、20秒近く浮遊していたこともわかりました。「このように発生したエアロゾルは換気システムや人の流れによって、トイレ内に充満する可能性が考えられる」と同研究者は指摘。公衆トイレで水を流すとき、私たちは知らないうちにエアロゾルを浴びているのかもしれません。
安全に公衆トイレを使うにはどうすればよいのでしょうか? 実験では、トイレのふたを閉めて水を流したところ、多くはないものの、多少のエアロゾルが確認されました。便座とふたの隙間からエアロゾルが漏れている可能性があるようですが、それでもふたを閉めてから水を流すほうが、安全性が高まる模様。また、公衆トイレの換気システムを適切に設計し稼働することで、エアロゾルの蓄積は防ぐことができるそうです。
ウイルス感染症でなくても、トイレの水が飛び散るとニオイの原因になったり、掃除が大変になったりするもの。自宅でもトイレのふたを閉めてから水を流す習慣をつけ、外出先でトイレを使うなら、できればふたがあるトイレを選び、ふたを閉めてから水を流したほうがよさそうですね。
【出典】Jesse H. Schreck, Masoud Jahandar Lashaki, Javad Hashemi, Manhar Dhanak, and Siddhartha Verma, “Aerosol generation in public restrooms”, Physics of Fluids 33, 033320 (2021) https://doi.org/10.1063/5.0040310