Vol.107-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは引き続き音楽配信。SpotifyやApple Musicはどこに注力しているのかを掘り下げていく。
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日本も遅ればせながら、音楽ビジネスの主軸が聴き放題型の「ストリーミング・サービス」に移行しようとしている。毎月のように大物アーティストの「楽曲配信解禁」のニュースが流れてくるが、それは別の言い方をすれば、まだまだ市場拡大が途上である、ということでもある。
日本の場合には、海外勢であるSpotifyやApple Music、Amazon Musicなどだけでなく、LINEの「LINE MUSIC」やサイバーエージェント系の「AWA」など、国内勢もそろっている。特に若年層向けとしては海外サービスよりも国内サービスの方が強かったりもして、独自のエコシステム構築の流れが見える。
とはいえ、大胆なサービス展開という意味では海外勢が一歩先を行っている。ハイレゾや空間オーディオを「追加料金なし」で提供するアップルやアマゾンの動きは、特に影響が大きいだろう。
ハイレゾを軸に高付加価値型サービスをやっていたところもあるが、それらは軒並みサービス内容の見直しを迫られるだろう。Spotifyも例外ではない。2月にハイレゾを含めた「Spotify HiFi」をスタートすると発表したが、提供国や価格などは未公表のまま。おそらく、ライバルに対してなんらかの対抗措置をとってくるものと思われる。
アップルの動きとしておもしろいのは、「DJ Mix」に関する展開だ。DJが音楽をミックスしたトラックなのだが、複数のアーティストの楽曲が含まれているため、収益構造が複雑になるという欠点があった。同様のDJ Mix配信を展開するサービスはあるが、それを使う場合には、ミックスしたDJ側が楽曲のリストを作り、それが配信可能曲に適合しているかを確認しなければならず、手間もかかる。
これに対して、アップルは音楽をAIが聞いてタイトルを見つけ出す「Shazam」の技術を使い、DJ Mixの権利処理を自動化・簡便化している。DJ Mixの量を増やすことは配信楽曲の多様化につながるので、これは良い施策だ。8月にはクラシック専門の配信サービス「Primephonic」を買収しており、楽曲検索などの技術を2022年の早期に、Apple Music内に取り込むべく、準備を進めている。
一方、Spotifyが力を入れているのは「ポッドキャスト」だ。音楽でなく音声の番組を多数用意することで、ラジオのように気軽に聴けるものを目指している。最近は日本の著名なポッドキャストはもちろん、ラジオ局などにも積極的に働きかけ、「音声番組の価値向上」に力を入れているのだ。前回説明した、楽曲を自分で組み込んでトークをし、オリジナルの音楽番組を作れる「Music + Talk」も、同社のポッドキャスト強化の一環である。そうやって、音楽の利用量を増やしてサービスの価値を高める、という戦略に変わりはない。
結局どこも、「いかに日常的に楽しく聴いてもらうか」という考えに変わりはない。CDの時代は「曲を売る」ことが目的であり、聴いてもらうことは二の次になりがちだった部分がある。だがストリーミングになり、楽曲の再生回数とサービス価値が重要になったいま、「聴いてもらう」ことの意味は大きく変わってきた、と言ってもいいだろう。
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