デジタル
2021/10/7 18:45

【西田宗千佳連載】聴き放題のSpotifyは業界にとって危機、のはずが成長した音楽産業

Vol.107-2

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは引き続き音楽配信。聴き放題でストリーミング形式のSpotify登場で、音楽産業はどうなったのか、その変遷を解説する。

 

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聴き放題型・ストリーミング形式による音楽サービスを本格的に定着させるきっかけとなったのは、2008年にスウェーデンでサービスを開始した「Spotify」である。初期には広告による無料プランが、その後は有料のプレミアムプランが軸になり世界中を席巻し、音楽の世界を大きく変えてしまった。

 

2003年、アップルがアメリカで音楽配信サービス「iTunes Music Store」をスタートしたことによって、音楽はCDからダウンロードの時代に変わっていった。もちろん、世界じゅうがそうではない。日本はまだCDが優位だし、ドイツも最近までCDが強かった。しかしそれは例外的な国であり、多くの国は2000年代のうちにダウンロード全盛になっていく。

 

ネットの進展とともに違法コピーが増えるのでは……と懸念されていたのだが、低価格なダウンロード販売の普及により「正規版を買う方がいい」という流れが生まれた。一方で、ディスクの時代に比べ収益は下がったため、音楽産業の成長が阻害される……という見方があった。

 

そこに「聴き放題」を軸にしたSpotifyが現れる。聴き放題になると1曲あたりの収益はさらに下がるため「音楽業界の危機だ」という声が上がる。いまも、知名度の低いミュージシャンにとっては不利な部分がある。

 

だが実際には、音楽産業は聴き放題で成長した。世界最大の市場であるアメリカの音楽業界は、ここ5年ほど毎年十数%ずつ売り上げが伸びており、明確な成長フェーズに入っている。全米レコード協会の調べによれば、2020年の売り上げの83%が、ストリーミング・ミュージックからのものだ。

 

1曲あたりの売り上げが下がったのに、なぜ全体は上がるのか? 理由は、「毎月料金が支払われる形の方が、欲しい人だけが音楽を買っていた状態よりもお金が集まる」からである。CDにしろダウンロードにしろ、多数買う人は人口全体から見ると少数派。ヒット作しか買わない人も少なくない。だが、「契約していれば聴き放題」となると、音楽を聴く人の多数が契約することになる。年に100枚CDを買っていた少数派だけでなく、年に2枚しか買わなかった人も契約するので、全体を均すと収益が大きくなるのだ。

 

Spotifyは広告による無料プランを継続しているものの、アップルやアマゾンは無料プランを用意せず、有料プランだけにしている。広告からの収益よりも、有料プランによる収益が音楽業界を成長させるため、音楽レーベルやアーティストを味方につけやすい……と判断してのことだ。それに対してSpotifyは、顧客を惹きつけるための無料プランと、より便利な機能を備えた有料プラン、という住み分けになっている。

 

契約してもらうには、単に「聴ける」だけではいけない。より便利に聴けることが重要になる。では、その「便利さ」とはどういうことなのか? Spotifyや、それを追いかけるApple Musicはどのように便利さの追求を音楽の新しい価値にしていったのだろうか? その点については次回解説する。

 

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