アメリカ発祥の「ブラックフライデー」がイタリアで普及し始めたのは10年ほど前のこと。オンラインショッピングの拡大とともに知名度を上げてきたブラックフライデーですが、当初はイタリアで冷遇されていました。イタリア人から見たブラックフライデーを文化的な観点から説明しましょう。
アメリカ文化への抵抗感
ブラックフライデーがアメリカで興ったのは1920年代といわれていますが、その風習がヨーロッパに到ったのは1980年代になってから。しかしイタリアでは、夏と冬のセール期間がその町によって厳格に決められているため、ブラックフライデーはなかなか浸透しませんでした。
実際に2016年までは、ブラックフライデーをうたって割引をした店舗には罰金が科せられていたのです。しかし、オンラインショッピングの拡大に危機感を抱いたミラノ市が罰則を止めたのを皮切りに、オンライン以外の店舗でも割引が可能となりました。
イタリアで「ブラックフライデー」という言葉を耳にするようになったのは10年ほど前で、まさにオンラインショッピングが破竹の勢いを見せ始めた時期と重なります。新聞や雑誌でも宣伝され、若い世代を中心によく知られるようになりました。あくまで在住者としての感触ですが、当初から服飾品などファッション系のカテゴリーよりも、電化製品や電子機器をこの日に購入しようとする動きが目立っていたような気がします。
イタリアのブラックフライデーを理解するためには、その文化的背景を理解することが大切です。長い歴史を誇るイタリアでは、「メイド・イン・USA」のものを軽く見る風潮があることは否めません。例えば、ハロウィーンは、古代ケルト人が起源とされていますが、ブラックフライデーと同様にアメリカから導入され、イタリアでも子どもたちを中心に仮装してお菓子をもらう光景が見られるようになりました。
しかし、高齢者を中心に一部のイタリア人には、「あれは所詮アメリカの風習」と軽んじる傾向があります。ハロウィーンと同じ仮装をする2月のカーニバルと比べると普及度が断然低いのも、このあたりの価値観の違いを反映していますが、ブラックフライデーの事情もそれと似ています。
しかも、ブラックフライデーが「感謝祭の翌日の金曜日」であることも、感謝祭を祝う風習がないイタリア人にとってブラックフライデーが異文化たる理由です。
伝統を守りきれない
そんな保守的な文化を持つイタリアでも、ブラックフライデーは徐々に広がりつつあります。
感謝祭には無関心のイタリア人も、クリスマスは1年の中で最大のイベント。人々の宗教心が薄れて久しいイタリアですが、家族が集まるクリスマスは日本のお正月のような趣があり、そこで欠かせないのがプレゼント。イタリアのクリスマスプレゼントは、子どもたちやパートナーだけに配られるものではありません。ほんのちょっとしたプレゼントを親戚や友人一人ひとりに渡す風習が現在も残っているのです。
イタリアのクリスマス商戦は本来、12月8日の「無原罪の御宿り(むげんざいのおんやどり)」という宗教的な祭日を境に本格化します。この日を過ぎないとプレゼントを購入する雰囲気もないといわれてきましたが、用意周到な人たちはブラックフライデーにプレゼントを購入し、節約につなげる動きを見せています。
ある調査によれば、2020年のブラックフライデー直前の調査での平均予算額は284ユーロ(約3万7000円)で、前年に比べ7%減少したそう。しかし、2021年の事前調査では、平均予算額は360ユーロ(約4万6000円)と前年比27%増になっています。さらに購入を予定している人の56%がその理由を「クリスマスプレゼント」と回答しており、クリスマス商戦は12月8日以降という伝統が崩れつつある様相が垣間見えます。
ブラックフライデーでイタリア人は何を買ったのでしょうか? 別のある調査では、最も多かった購入予定のアイテムは電子機器(回答者の47%)。また、「サステナビリティを意識して購入する」と答えた人は10人中9人にのぼります。「必需品しか購入しない」と答えた人が43%、「衝動買いは避ける」と答えた人が29%となりました。
ブラックフライデーはここ数年で知名度こそ上がってきましたが、昨今はコロナ禍で人々の財布の紐が固くなりました。インターネットを日常的に使用している世代の間で、ブラックフライデーはそれなりの盛り上がりを見せるものの、消費の動きには堅実さが見えます。
テクノロジーの発展や経済状況、宗教意識の低下の中で広がりつつあるイタリアのブラックフライデー。文化的に超保守的な国で、このアメリカの“買い物祭り”は、これからどのように変容していくのでしょうか? イタリアのアレンジ力に注目です。