ちかごろ、インタビューのお仕事をさせていただく機会が増えた。これまで何回となく経験しているのだけれど、会心の出来はなかなかない。
生のコミュニケーションの質を高める
インタビューというのは、相手にご自身の思いをご自身の言葉で伝えていただくという過程なわけだが、英語で言う“アイス・ブレイキング”がまず難しい。お互い打ち解けるための段取り。インタビューなら、お相手に浮かぶままの言葉をそのままの形で伝えていただきやすくするための環境設定の段階ということになる。これに関しては、経験則的に培った自分なりの方法論がある。その方法論に乗っていれば大きく外すことはないこともわかっている。ただ、限られた時間の中で最大限の情報を得ていく過程に、プラスアルファとなる何かが欲しい。
『キラークエスチョン~会話は「何を聞くか」で決まる』(山田玲司・著/光文社・刊)は、筆者がするだろう次のインタビューでも、筆者を含める多くの人々の日常的な人間関係においても役立つに違いない一冊だ。こう言おう。誰かと物理的に向き合いながら話をする機会が減った環境で生きている今だからこそ、“生のコミュニケーション”の質を高めたい。そのためにはどうしたらいいのか。そんな思いに応えてくれる。
5年間で200人にインタビュー
「はじめに」に記された次の文章は、筆者の“仕事柄な部分”に深く響いた。
取材では、わずか一、二時間で相手の心へ入り込んでいかなければならない。初対面の相手が心を開いてくれるか否か。それはまったくもってインタビュアーの力量に左右される。
『キラークエスチョン~会話は「何を聞くか」で決まる』より引用
筆者の山田氏が5年間にわたり、約200人に対して行ったインタビューから得た真実だ。人とのコミュニケーションを深めるのに大切なものは「何を話すか」ではなく、「何を聞くか」を意識する姿勢にほかならない。この文章だけを切り取って示しても、あまりにも当たり前に感じられることはわかっている。ただ山田氏は、聞き役という立場を強く意識しながら人と接すると、仕事から離れた会話でも相手との関係が目に見えて良化していくことに気づいたという。
チャンスの神様が与えてくれる時間を無駄にしないために
本書が対象としているのは、次のような人たちだ。
・何度会ってもさっぱり相手との距離が縮まらない
・会話が始められない、もしくはすぐに終わる
・人から相談されたことがない
・とにかくモテない
・初対面の人と話すのが苦手
筆者の“仕事柄ではない部分”に響いた文章も紹介しておきたい。
人生には「ここ一番」という決定的な出会いの瞬間が何度かある。この機会しか会えないという異性と思いがけず一対一になった瞬間。社長とエレベーターの中でふたりきりになった瞬間。その機会を活かせば人生が大きく変わるかもしれない瞬間だ。ところが、そういったときに「何を話していいかわからない」という人が実に多い。
『キラークエスチョン~会話は「何を聞くか」で決まる』より引用
気が利いたひと言である必要はまったくない。ただ、発すべき言葉をあれこれ考えているうちにチャンスの神様が与えてくれる時間は過ぎ去ってしまう。この本は、こうした瞬間に自分から言葉を発する勇気も与えてくれる。自己啓発本というざっくりとした形でカテゴライズしてしまうのは、ちょっと違うかもしれない。
LOVE & RESPECT
「その服、どこで買ったんですか?」「しんどいですよ……そっちはどうですか」「昨夜はちゃんと眠れました?」「これは読んでおけ、と言える本を教えてください」など26項目の“キラークエスチョン”を軸に話が進んでいく。質問に込められた意図を読み解きながら、自発的な問いかけによって言葉のやりとりが生まれ、相手との溝が埋められ、思いをやりとりするところまでのメカニズムを脳裏に思い浮かべることができる。根本的なテーマは、他者とのコミュニケーションを円滑にしていくためのテクニックではない。大きな言葉ひとつで表現するなら、“愛”だろうか。あとがきに次のような文章がある。
まずは近くにいる人間に関心を持とう。そして質問をしてほしい。それは愛のある「問いかけ」になるはずだ。この他者への関心(あい)がなければ、キラークエスチョンはただ小賢しいだけの処世術に終わるだろう。あくまでも相手に対するリスペクトがなければならない。
『キラークエスチョン~会話は「何を聞くか」で決まる』より引用
ここまで書いた今、この本を紹介するにあたって、インタビューや人間関係に役立つ“実践的な”テクニックを主眼にしようとした自分を、ちょっと恥ずかしく感じている。
【書籍紹介】
キラークエスチョン~会話は「何を聞くか」で決まる
著者:山田玲司
刊行:光文社
人と何を話せばいいかわからない、他人とうまくやれずに損ばかりしている。この本は、そんな人たちを救う一冊になるはずだ。あるときを境に著者は、「何を話すべきか」ではなく「何を聞くべきか」と考えるようになって、すべてがうまくいくようになった。些細なことだけど、そこを意識するだけで、相手と深くコミュニケーションがとれるようになったのだ。世の中には「しゃべること」が重要だというような風潮があるけれど、それはウソだ。自分の話ばかりで人の話を聞かない人間は確実に孤立していく。人は基本的に話を聞いていほしい生き物なのだから、つかむ話よりもつかむ質問、すなわち、相手の本音を引き出す「キラークエスチョン」を相手にぶつけるべきだろう。質問次第では相手の心にフックがかかり、固く閉じられていた心の扉が開く。