アップルがAR/VRヘッドセットを開発中であり、取締役会でデモを行って発表も間近かもしれない、との噂が報じられたばかりです。その形はスタンドアローン、つまりMeta Quest 2など他社製品と同じく「(ワイヤレスを含め)外付け機器を必要とせず、単体で動作する」と見られています。
なぜ、開発が難しいスタンドアローンが選ばれたのか。それは「元デザイン最高責任者のジョナサン・アイブ(ジョニー・アイブ)氏がそう望んだから」という、詳しいレポート(そこから生じた技術的な問題を含めて)が届けられています。
今回の報告は、有料メディアThe Informationが先週伝えたレポートに続く第2弾。それによれば、2019年にジョニー・アイブ氏はヘッドセット開発チームに対して、ベースステーション(外部サーバー的な機器)と連携する設計を捨ててスタンドアローンで機能する、性能は低いがシンプルな製品にするよう意見したそうです。
この話は、2020年に米Bloombergが報道したことと一致しています。その報道では、当初はウェアラブル製品としては前代未聞のグラフィックスと処理速度を備えながらも、かなりの熱が発生するために固定式ハブ(ベースステーション)とセットにする計画が語られていました。
さてThe Informationの報告に戻ると、ティム・クックCEOとジョニー・アイブ氏は、2つのアプローチ(スタンドアローン版とベースステーション版)がどう違うかを示す試作機でVRデモを見た幹部の中にいたそうです。
ベースステーション版は、写真のようにリアルなアバターを含む優れたグラフィックスを表示する一方で、スタンドアローン版は漫画のキャラクターのような描画だったそうです。AR/VRチームを率いるマイク・ロックウェル氏は、上層部がスタンドアローン版の低品質なビジュアルを受け入れないと考え、ベースステーション版を支持したとのこと。
が、ジョニー・アイブ氏はプロジェクトの初期からスタンドアローン版を推しており、最終的にアップルの上層部もジョニー・アイブ氏に味方したそうです。それでもロックウェル氏は「(ベースステーション版で)素晴らしい製品を作ることができる」と抵抗したものの、結局はスタンドアローン版の開発が進められたとしています。
この決定により、ヘッドセットチームは「バッテリーの持ち時間と性能のバランスを取りながら、デバイスを装着している人がヤケドしないように熱を最小限に抑える」ために、多くの苦難に直面してきたと述べられています。またスタンドアローン版では「(ロックウェル氏が)アップル幹部らに伝えた高品質の複合現実体験」を提供できなかったことが、この製品が何度も発表を先延ばしされた主な理由だと報告しています。
もう1つ興味深いのは、ジョニー・アイブ氏がアップルを退社した後も、ヘッドセット開発チームの中には「変更の承認」をもらうため彼の家に行かなければならない人もいた、という下りです。同氏が独立したデザイン会社「LoveFrom」を設立した後もアップルと取引関係があることはわかっていましたが、具体的な仕事が明かされたのは珍しいことです。
BloombergとThe Informationともに、アップルのAR/VRヘッドセットの価格は2000ドル~3000ドル(約25万円~38万円)の範囲で検討されている、と伝えています。もしも本当であれば、少なくとも第1世代は(より安くなった第2世代を開発中との噂もあり)庶民とは縁遠い製品となりそうです。
Source:The Information
via:9to5Mac