私は、基本面倒くさがり屋である。細かい作業も、「最終的に見栄え良くできればいいでしょ!」というノリでいつもこなしている。だから、料理のときに一番面倒なのが、食材を切る工程だ。全部ざっくり切って終わらせたい。玉ねぎのみじん切りやキャベツのせん切りなんて、できれば避けて通りたい。速水もこみちくんみたいに鮮やかな手つきで切りたいものだが。実際、私のみじん切りは荒い。せん切りも太い。でも、切り方なんてどうでもいいじゃない。美味しくできればいいじゃない!
そう思っていたら、どうやら野菜の切り方ひとつで、料理の味が格段に変わるのだという。もしかしたら、細かく切るだけが能じゃない!? それならば、私のような不器用な面倒くさがりに朗報である。
“切り方”次第で、味も見栄えもぐっとよくなる?
料理家・小田真規子さん曰く「食材の”切り方”を意識するだけで、味と見た目がまったく変わる」のだそう。小田さんがそのことに気づいたのは、あるスタッフの一人が切った野菜の大きさがきっかけだったとのこと。小田さんが思っていたよりも小さく切ったことで、見た目はもちろん、味が大きく変わったのだそうだ。「切ることは、火の通り加減やうま味の出方、食感に直結しているのだと実感しました」と小田さん。
確かに、あまりこだわって考えたことはなかったけれど、お店で出てくる料理を思い起こしてみると、同じ野菜でも、レシピによって切り方や大きさが違う。切り方を変えているのには、見た目だけではない確固たる理由があったからなのか……。というわけで、小田さんの著書『「切り方」ひとつでいつもの料理がもっとおいしくなるレシピ』(扶桑社・刊)から、定番の野菜の切り方をいくつかご紹介しよう。
みじん切りにもサイズがある!「玉ねぎ」編
■みじん切り
玉ねぎといえば「みじん切り」だが、ただ無造作に刻むだけではダメ。ポイントは繊維をつぶさず、均一の大きさに切ること! そして、同じみじん切りでも、料理によってジャストサイズがある。煮込み料理などに最適な、いわゆる一般的なみじん切りのサイズは5mm角。一方、存在感を際立たせたいとき、食感を楽しみたいメンチカツなどには8mm角がおすすめ。
【手順】
1.玉ねぎを縦半分に切り、繊維を断つように8mm、または5mmの厚さに薄切りする。この最初に切る幅で、大きさを調節するのがコツ。
2.外側(カーブしている部分)と、内側(芯に近い部分)の2つにわける
3.それぞれを、端から8mm、または5mm幅に切っていく
■半月切り
野菜炒めや生姜焼きなどには、半月切りがおすすめ。繊維を断つように切っていくと、味がはやくなじみ、程よい食感も楽しめる。
【手順】
1.玉ねぎの上下を落とし、縦半分に切る
2.繊維を断つように、それぞれを端から1cm幅に切る
縦か斜めか、そこがポイント!「にんじん」編
■せん切り(斜め)
にんじんのせん切りには2種類ある。生で食べるサラダなどには、「斜め」のせん切りを。繊維が程よく断たれて味がなじみやすくなる。にんじんの大きさにかかわらず、長さが揃うのも嬉しいポイント。
【手順】
1.皮を剥き、2~3mmの厚さで、斜めに薄くせん切りをする
2.2~3枚ずつ重ねて、端から2~3mm幅に切っていく
■せん切り(縦)
もうひとつは、繊維に沿って「縦」に切る方法。火を通してもしっかりとした食感が残るので、炒め物や揚げ物に最適。
【手順】
1.皮を剥いて5~6cmの長さに切り、2~3mmの厚さで縦に薄く切っていく
2.2~3枚ずつ重ねて、端から2~3mm幅に切っていく
■輪切り
にんじんといえばお馴染みの輪切り。カレーやシチューなどには、この切り方が向いている。薄く切ってしまいがちだが、厚く切るとじっくり火を通すことができ、うま味が引き出されるので、まろやかな味わいに!
【手順】
1.皮を剥き、1.5cmの厚さの輪切りにする
2.大きい物は半分の半月切りにし、火の通りを均一にする
切り方を真似て、懐かしの母の味を再現
この本を読んでから、野菜の切り方を意識するようになった。私のカレーは、実家の母のカレーに似ている。それは、作り方を倣ったことはもちろんだが、切り方まで真似しているからなのかもしれない。一方、作り方を聞いて、使っている調味料を同じにしているのに、どうしても近づけないのが義母のカレー。炒める時間から水加減まで、いろいろ試してみたけれど、どうしてもあの味にならない。夫はやはり、実家のカレーが好きだから、わが家でも作ってあげたい。試行錯誤を重ねた結果、ついにたどり着いたのが「切り方」だった。
義母と同じ切り方で、野菜を刻んでみた。玉ねぎは小さくみじん切り。にんじんは、少し厚め、かなり長めの短冊切り。とっても丁寧な人なので、すべての材料は、それぞれきちんと同じサイズに。こうして作ったカレーは、ついに「あ!これ!」という仕上がりになったのである。夫も満足してくれた様子。
たかが「切る」、されど「切る」作業。これからは、レシピ内容に加えて、食材の切り方にもこだわってみてはいかがだろうか?
(文・水谷 花楓)
【参考文献】
「切り方」ひとつでいつもの料理がもっとおいしくなるレシピ
著者:小田真規子
出版社:扶桑社
「切り方を探求するのはライフワーク」、という料理研究家の小田真規子さんが提案する74レシピ。身近な野菜&定番おかずが、小田式の切り方でおいしく、美しく変わります。