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2022/6/20 6:30

木村達成インタビュー「『SLAPSTICS』はコメディ作品ではあるけれど、描かれているのは喜劇映画を題材にした重みのある人間模様」

劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)さんの戯曲を人気演出家たちが新たに創り上げるKERA CROSSシリーズの第4弾。三浦直之さんが演出、木村達成さんを主演に迎えて送る『SLAPSTICS』は、サイレント映画からトーキーへと転換期を迎えるハリウッドを舞台に、史実を交えながら映画製作に情熱を燃やす人々を描いた1993年初演の作品。稽古・本番を通して感じた映画人たちの思い、そして作品の奥に込められた“表現”することの意味について、たっぷりと語ってもらった。

 

木村達成●きむら・たつなり…1993年12月8日生まれ、東京都出身。2012年、ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン(海堂薫役)でデビュー。帝国劇場での『エリザベート』など数々の話題作に出演したのち、2020年に『銀河鉄道の夜2020』でストレートプレイ初挑戦、初主演をはたす。最近の作品にミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』『四月は君の嘘』、ドラマ『卒業タイムリミット』(NHK総合)、『オールドファッションカップケーキ』(FOD)など。

【木村達成さん写真一覧】

 

今と昔では“笑い”そのものが違う。そこに今、この作品を上演する意味がある

──公演を終えてみて、『SLAPSTICKS』はどのような作品だったと感じていますか?

 

木村 喜劇映画を愛する映画人たちの物語で、皆さんの強い思いを感じながらも、同時に、彼らがいなくなっていく過程を看取るような切ない作品でした。コメディと銘打ってはいるものの、あくまで扱っている題材がコメディ映画というだけで、その中で描かれているのは重い人間模様でしたし、決して気持ち的に楽な舞台ではなかったですね。

 

──映画を愛するあまり常軌を逸した行動に出る奇人たちが多くいる中で、木村さんが演じたビリーは純粋すぎるほどの青年だったように感じます。

 

木村 確かに舞台ではすごくスマートな役でしたね(笑)。ただ、僕が最初に抱いたイメージは、あんなにもかっこいい人物ではなかったんです。情けなくて不器用で、それでいてちょっとダサい映画好きの青年。そんな彼が映画を作る側の世界に入り、映画を愛し抜いた偉人たちと一緒にいるという印象を持っていました。とはいえ、周りの個性的なキャラクターたちを際立せるために、ビリーを真っ白なキャンパスのような存在にしようとは一切思っていなくて。彼らと同じように、映画が好きで好きでたまらないという“奇人感”を出していけたらなと思ってました。

 

──稽古前には脚本を書かれたKERAさんから、ほかの共演者と一緒にこの時代のお話や喜劇映画の面白さについてのレクチャーを受けたそうですね。

 

木村 ええ。でも、KERAさんの脚本を通して、いかにあの時代の人たちが喜劇映画を撮ることに命を削っていたのかとか、今作にも登場するロスコー・アーバックルの事件についても少しは理解していたので、当時作られた実際の喜劇映画を見ても、純粋な気持ちでは笑えなかったです。思わず笑ってしまうことはあっても、すぐにつらさや切なさを感じてしまって。それに、この舞台の初演が1993年で、約30年前に書かれたものなんですね。なのでKERAさん自身も、『あのころどんな気持ちで書いたのか、実はあんまり覚えていないんだよね』とおっしゃっていて。『だからこそ、僕も今回の舞台を観るのが楽しみなんだ』とお話しされていたのも印象的でした。

 

──なるほど。とはいえ、当時の映画人たちに対するKERAさんの愛が詰まった作品になっているように思いました。

 

木村 それは僕も強く感じました。また、僕は主人公のビリーって、実はKERAさん自身なんじゃないかとも思っていて。それをラジオで話したことがあり、KERAさんもそれを聞いてくださっていたみたいなんですね。そうしたら後で、『ラジオ聞いたよ。あの役は……多分、俺だね』っておっしゃって(笑)。だから、当時起こったアーバックルの事件についても、KERAさんは彼が犯人だと認めたくなくって、それでビリーの役にご自身の気持ちを投影したんだろうなと思いました。そうした話を実際にKERAさんとできたことも、僕にとってはすごくプラスでしたね。

──木村さん自身は普段、喜劇作品やコメディをご覧になるほうですか?

 

木村 誰かが犠牲になるような笑いは好きではないのですが、お笑い自体は大好きです。あ、あと自虐も好き(笑)。今回、初めてコメディ作品に挑戦しましたが、いざやってみて感じたのは、誰かを笑わせることって、すべてのジャンルの中で一番難しいということでした。いろんな物事がしっかりと成り立った上でじゃないと“笑い”って発生しないと思うので、絶対に中途半端にはできない。それに、先ほどもお話ししたように『SLAPSTICKS』は30年ほど前に書かれたものなので、当時と今とでは“笑い”そのものが違うと思うんですね。きっと演出の三浦(直之)さんも、そこにこの作品を今上演する意味や意義を感じたんだと思います。昔は笑えていたのに、今は笑えなくなってしまったもの……そこにもフォーカスを当てようと思ったんじゃないのかなって。例えば、今だと誰かをたたいて笑いをとるようなことが許されない風潮になっていて。でも、以前は文字どおり、本当に命を懸けて笑いを作っていた人もいたわけです。その良し悪しの議論はひとまず置いておいて、そうやって何にでもすぐ蓋をするような社会に僕自身も息苦しさを感じているので、その意味でも、この作品に参加できて本当によかったなと思いますね。

 

──では、“笑い”以外で共感する部分はありましたか?

 

木村 当時も今も、モノを作ることへの熱意は変わらないんだなと感じました。僕らは今、コロナ禍の影響で、簡単に舞台が作れなかったり、いつ中止になってもおかしくない状況にあります。それでも舞台を作り続けているし、ステージに立ち続けている。そこは通ずるものがあるなと思いました。ただ、ビリーに関していえば、彼は心が優しすぎたんですよね。だからいつまでもあの世界にいることに苦しさを感じ、最後には離れる道を選んでしまったんだろうなと思います。

 

──演出についてもお聞きしたいのですが、三浦さんとはこれまで朗読劇で何度か一緒に舞台を作られていました。ストレートプレイの演出を受けるのは初めてでしたが、違いを感じるところはありましたか?

 

木村 基本的には同じでした。三浦さんはいつも、最初は役者に委ねてくださるんです。そこから、どうしても譲れない部分だけは細かく指示してくる。今回の作品でいえば、前半の電話のシーンのような、ズレた会話から生まれる笑いなどですね。それと、コカインの粉が舞うシーンで、舞い方にもなぜかすごくこだわっていました(笑)。しかも、これが大変で。稽古で何度も練習すると、当然稽古着に粉が付着するんです。で、そのまま車に乗って帰ると、翌日、車の中が龍角散の臭いで充満していたりして(笑)。本番中も、一度モロに粉が顔にかかったことがありました(笑)。

──気管などに入ったら大変そうですね。

 

木村 でも、それも舞台の醍醐味だと思うんです。粉が舞い飛ぶシーンなので、仮に日常で起これば顔にかかることだってある。そう考えると、お芝居として別に失敗ではないんですよね。むしろ、それこそコメディであり、スラップスティック(ドタバタ喜劇)だと言える。ですから、本番中に起こるアドリブやハプニングは最高の栄養だと思って、いつも楽しみにしていました(笑)。何かが起きた時、それを調理するのが役者の仕事だからって。

 

──本番中はそんなにもいろんなことが起こっていたんですか?

 

木村 この作品に限らず、やはり舞台はいろんなことが大小問わず毎日のように起こります。特に今回は桜井玲香ちゃんというハプニング女王がいましたから(笑)。笑っちゃうようなことをよく巻き起こしていたので、一緒にお芝居をしていてすごく楽しかったです(笑)。

 

──(笑)。では、今回の放送に向けて、楽しみにされているシーンを教えてください。

 

木村 第2幕の冒頭にあるラジオのシーンですね。ステージの上段ではアーバックルを批判するラジオ番組のシーンが描かれ、ステージ左側ではそれを聞いている僕らがいて、反対側には刑務所に入れられているアーバックルがいる。それぞれ別の場所にいる3組をお客さんはどのように感じながら見ていたのか、すごく気になりますね。

 

──舞台を拝見しましたが、第1幕は笑いの要素が多く、反対に第2幕からは映画人たちそれぞれの思いが描かれ、物語自体も混沌としていったので、見ていてとても切なかったです。

 

木村 僕も第2幕は演じていてつらかったです。途中休憩が終わるころに舞台袖に向かうと、どんどん心が苦しくなっていって。第1幕はまだよかったんです。ほぼ出ずっぱりだったので、物語の流れに沿って役の感情を作っていけたんですけど、第2幕は要所要所で登場し、どんどんとつらくなっていく状況に毎回直面しなければいけなかったので、本当に苦しかったですね。

相手を突き抜けるくらいの言葉の強さを持ったお芝居をしていきたい

──ではここからは、少しプライベートによった質問を。稽古場に持っていく必需品などはありますか?

 

木村 ないです(苦笑)。ルーティーンとかも全くないんです。その時々のコンディションを、そのまんま楽しむタイプなので。その意味では、体調が良かろうが悪かろうが、常にその状態でい続けることがルーティーンと言えるかもしれないです。

 

──なるほど。ということは、オンとオフの切り替えもあまり意識してされないんですか?

 

木村 以前は意識してやっていましたが、それもなくなりましたね。というのも、僕は稽古をしていて、その時に感じたことを全部台本にメモする癖があって。それを後で読み返すんですが、“俺、なんでこんなこと思ったんだろう?”と分からないことが多いんです(笑)。それってつまり、オンとオフに境界線がないからとも言えますし、逆に無意識のうちに切り替えられているからなのかなとも思って。真相は分かりませんけどね(苦笑)。

──では、木村さんにとってのリラックス方法は?

 

木村 ふと頭に浮かんだのは、湯船に浸かって、スマホで動画を見ること。ただこれも習慣的にしているわけではなくって。時にはシャワーを浴びるだけですごく気持ちがリフレッシュすることもあるし、部屋をきれいに掃除するのがストレス解消になることもある。僕って本当に計画性がなく、その時に自分がやりたいと思ったことを素直に実践するのが、一番のリラックスにつながっているんですよね。

 

──それは昔からなんでしょうか?

 

木村 そうです。しかも、こうやって日常を本能的、衝動的に生きることって、お芝居にもつながっているなと思っていて。日々、気持ちを素直に出して行動に移すことで、演技をしている時にも些細なセリフやちょっとした動きに魂が乗る感じがするんです。僕は相手に届く芝居ではなく、相手を突き抜けるくらいの言葉の強さを持ったお芝居をしていきたいと思っているので、これからもこの生活スタイルは変わらないと思います。

 

 

KERACROSS 第四弾『SLAPSTICKS』

CS衛星劇場 2022年6月26日(日)後 6:00~9:00 テレビ初放送!

(STAFF&CAST)
作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出:三浦直之(ロロ)
出演:木村達成、桜井玲香、小西遼生、壮 一帆、金田 哲、元木聖也、黒沢ともよ、マギー

(STORY)
時は1920年。ハリウッドにある映画会社「マック・セネット・コメディズ」に入社した若きビリーは、“喜劇の神様”と呼ばれるマック・セネット監督の元で仕事に追われていた。面白い映画を撮るためには入院することすらいとわない彼らの感覚に麻痺しながらも、ハリウッドの世界にビリーは心酔。そんなある日、深夜に編集作業をしていた彼の前に、ずっと憧れていた女優メーベル・ノーマンドがふらりと現れる……。

 

撮影/宮田浩史 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/齊藤沙織 スタイリスト/部坂尚吾(江東衣裳) 衣裳協力/colon