エンタメ
タレント
2022/5/23 11:15

大倉孝二「大変さで言えば、役者人生の中で間違いなくベスト3に入る作品」ナイロン100℃本公演『イモンドの勝負』

昨年上演されたナイロン100℃の約3年ぶりの劇団本公演『イモンドの勝負』が衛星劇場にてテレビ初放送! 劇団主宰ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)にしか生み出せないナンセンスな世界が炸裂した本作は、これまでにない境地へと達し、観客だけでなく、キャスト陣にも衝撃を与えた。そこで主演を務めた大倉孝二さんにご登場いただき、当時の稽古場の様子や、公演を終えてみての思いをたっぷりとうかがった。

大倉孝二●おおくら・こうじ…1974年7月18日、東京都出身。1994年に劇団ナイロン100℃入団。近年の出演作に舞台『マシーン日記』、大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合ほか)など。現在、ドラマ『妖怪シェアハウスー帰ってきたん怪ー』(テレビ朝日系)に出演中。映画『妖怪シェアハウスー白馬の王子様じゃないん怪ー』が6月17日(金)より公開。8月より舞台『世界は笑う』に出演。Twitter

【大倉孝二さんの写真一覧(画像をタップすると閲覧できます)】

 

この劇団もどんどん恐ろしいことになってきたなぁ、と(笑)

──今回の舞台では、大倉さんが普段以上に疲れている様子だったのが印象的でした。

 

大倉 そうですね。疲れ具合で言えば、この作品は役者人生の中で間違いなくベスト3に入る作品でした(苦笑)。感染症対策をしっかりとった上での稽古でしたので、そうした精神面での大変さもあったのですが、それ以上にとにかく出番が多くて(笑)。台本の続きが届くたびに、“どれだけ俺を出すんだ!?”と思うぐらいでした。しかも、場面がぶつ切りで展開されていくので、テンションがまったく違うシーンが立て続けにやってくる。それを、どううまく成立させられるのかを考えるのも大変でしたね。

 

──作・演出のKERAさんからはどのような演出があったのでしょう?

 

大倉 それが、あまり説明をしてくれなかったんです(笑)。僕は普段、自分から演出家に質問をするほうではないんですが、今回に限っては意外と多くて。にもかかわらず、「俺も分からないんだよね」とか「そのあたりはなんとかやってみて」みたいな感じだったんです(笑)。もちろん、KERAさんも投げやりで言ってるわけではなく、今回の作品はナンセンスコメディだったので、そもそも分かりやすい正解なんてものはないですし、そうした“なんとかやってみる”ということも含めて、役者と一緒に楽しんで作っていこうという意図があったんだと思います。

 

──公演を終え、この『イモンドの勝負』についてどのような印象を持たれましたか?

 

大倉 きっと作品をご覧になられた方以上に、キャストのほうが不思議で変わったものをやっていたという感覚があったと思います(笑)。KERAさん自身も、「今後、こういう感じのナンセンス作品はしばらく作らないと思う」とおっしゃっていましたし。シーンの一つひとつを細かく見ると、ナイロン100℃の初期の頃を彷彿とさせるエッセンスを感じるところもありました。でも作品全体で見ると、やはり今までやったたことがなく、見たこともない、初めて経験する舞台だったなという印象が強いですね。

 

──その“初めての経験”というのは、具体的にどういったことでしょう?

 

大倉 例えば、今回演じたスズキタモツという男性は、場面によって年齢も人柄も変わっていくので、摑みどころがないんですよね。ですから、どれだけ必死に演じてもカタルシスがなくって。やっぱりお芝居って、感情の動きに理由があるから役に入っていけるわけです。実際、昔は、“しっかり気持ちが伴った芝居をしなさい”といろんな方から言われてきましたから。それなのに今回は、「感情と行動が一致しないんだけど、とりあえずやってみて」と言われて。この劇団も恐ろしいことになってきたなと思いましたね(笑)。

 

──とはいえ、笑いの部分はやはりナイロン100℃らしく緻密さが感じられました。

 

大倉 そうですね。そこはうちの劇団の特徴でもありますから。アドリブがたくさんあるようで、すべてが緻密に作られている。KERAさんがグズグズなノリを好まないので、仮にそう見えるシーンでも、実はどれもコントロールされているという作り方なんです。ですから、キャスト陣はいろんな不安を抱えながらの稽古でしたが、いざ本番を迎えたら、お客さんはすごく喜んでくださっていて。劇場でたくさんの笑い声を頂けたことですごく安心感も生まれましたし、カーテンコールでの皆さんの拍手にホッとする毎日でした。

──また、今回は客演として山内圭哉さん、池谷のぶえさん、赤堀雅秋さんが参加されていました。共演してみていかがでしたか?

 

大倉 強烈な個性のある方ばかりですし、今回もものすごく支えてもらいました。皆さん、自分が出ているシーンは一律不安そうな顔をされていましたけど(笑)、稽古場ではすごく楽しそうに笑っていて。それになんと言ってもKERAさんからの信頼が厚い方ばかりですからね。KERAさんが求めているものを的確に表現されるし、むしろ、それ以上のものを見せてくださる。特にこうした不思議な作品だと、より力強く感じられましたね。尊敬するところ、見習うところが多く、僕も皆さんのように年齢を重ねていけたらなと思いました。

 

──では、今作の放送に向けて、楽しみされているシーンを教えてください。

 

大倉 僕は、自分が出ている映像を見るのが苦手なんです(笑)。あまりにも“ダメだなぁ……”と思って挫けそうになってしまうので。それに今作に関しては、本当に自分がどうお客さんから見られていたのか、まったく分からなくて。ですから、僕自身が楽しみにしているシーンというより、大変だった場面を挙げさせていただくと、一幕のラストです。急にタモツの感情があふれ出すので、気持ちを作るという意味でも苦労したのを覚えています。また、そこからの二幕の序盤も見どころかもしれません。休憩にもならないような休憩時間を挟んで(笑)、ヘトヘトの中、いよいよタモツの“勝負”が始まるんです。しかも、その内容が本当にくだらなくて。正直、体力的に“もう、勘弁して!”という気持ちにもなったこともあったんですが(笑)、お客さんがすごく喜んでくださっているのが伝わってくるし、演じる側としてはそれ以上の喜びはないので、いつも気力を振り絞って頑張ってましたね。

お客さんの笑い声をたくさん聞いて、芝居をする楽しさを思い出しました

──なお、今作は約3年ぶりの劇団本公演でした。大倉さんにとってやはり劇団公演は特別なものなのでしょうか?

 

大倉 ……いや、もはや恥ずかしいですよ。劇団員と一緒に稽古をしていると照れちゃいますから(笑)。だって、30年も一緒にやっていますからね。例えば、子どもの頃は無邪気に一緒になってふざけていたのが、大人になって同じ遊びをしろといわれたら、ちょっと恥ずかしくなると思うんです。そういう感覚です。それでも劇団公演が楽しみなのは、やっぱり一緒にやっていて落ち着くし、みんなのお芝居が見ていて面白いからなんですよね。

 

──そうなんですね。また、現在はドラマ『妖怪シェアハウス』(テレビ朝日系)に出演中ですが、映像とは違い、舞台の面白さはどんなところだと感じていらっしゃいますか?

 

大倉 やっぱりお客さんを前にしてお芝居をし、たくさんの笑い声や拍手を頂けるとすごく嬉しいですね。この『イモンドの勝負』でも、久々に本多劇場に立って、ドンッ! っていう音が聞こえてきそうなくらいの笑いを劇場で感じることができたんです。その時、“そうそう、こういうのが嬉しくて芝居をしていたんだな”っていう気持ちになれて。それって、決して映像では得られないものなんです。ですから、観に来てくれる方がいる限り、舞台は続けていきたいと思っていますね。

 

──一方、ご自身の演劇ユニット「ジョンソン&ジャクソン」(大倉とブルー&スカイのユニット)は大倉さんにとってどのような場所なのでしょう?

 

大倉「ジョンソン&ジャクソン」は純粋に自分がやりたいことをするために始めたユニットでした。でも、最近はよく分からなくなってきてます(笑)。というのも、このユニットでは役者だけじゃなく、台本や演出、それ以外のものにも携わっているので、ほかの舞台作品と比べて、明らかに演劇との関わり方が違うんです。しかも、自分の考えやセンスなんかが全部バレてしまうという恐ろしさが常につきまとうので、やっていて楽しいかと聞かれたら、もはや楽しくはないです(笑)。

 

──(笑)。それでも続けるのはなぜでしょう?

 

大倉 常に守られている環境ではなく、あえてそういうところに身を置いたほうがいいんじゃないかと思ったからです。自分にとって居心地のいいラクな場所だけにいると、自分がダメになってしまいそうで。だから、わざわざリスクのあることもしないといけないなって。それと、「ジョンソン&ジャクソン」を続けることに関しては、劇作家・演出家のブルー&スカイといういまいち世に分かられていない奇人がいまして(笑)。彼の面白さをちょっとでも多くの方に見てもらえたらなっていう意味合いも強いですね。

──では最後に、大倉さんの普段の休日の過ごし方についてもお聞きしたいのですが、オフの日にハマっている趣味などはありますか?

 

大倉 唯一といっていいぐらいなんですけど、楽しみはレコードを聴くことです。休日に余力があるとレコード屋さんに行くのも、いい気分転換になってますね。真空管のアンプを持っていて、それで音楽を聴くのが、僕にとっては最高の癒やしの時間だったんです。“だった”と過去形にしたのは、当然ながら、真空管アンプで音楽を聴けば自動的に心が安らぐってわけでもないということに、最近になって気づいたからです(笑)。結局のところ、オフの日に疲れを取れるかどうかは自分次第なんですよね。……そういえば、これは余談なんですが、先日、僕のアンプを作ってくれた方から、「新しいアンプが出来た」と写真が送られてきまして。おそらく買えということなんでしょうけど、今のところ無視しています。高い買い物ですからね。そう簡単には手は出ないです(笑)。

 

 

ナイロン100℃ 47th SESSION『イモンドの勝負』

CS衛星劇場 2022年5月29日(日)後 3・30よりテレビ初放送!

(STAFF&CAST)
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:大倉孝二、みのすけ、犬山イヌコ、三宅弘城、峯村リエ、松永玲子、長田奈麻、廣川三憲、喜安浩平、吉増裕士、猪俣三四郎 / 赤堀雅秋、山内圭哉、池谷のぶえ

(STORY)
母親に連れられてひと気のない公園へとやってきたスズキタモツ。母親と母親の愛人はタモツに毒を飲ませ、保険金を得ようと企んでいるらしく、そんな不穏な空気を感じとったタモツは紆余曲折を経て孤児院で暮らすことになる。ただその孤児院も健全な施設ではないようで……。一方、良い探偵は依頼人のイシダイラから4つの依頼を受け、それらの調査を開始する。

 

撮影/宮田浩文 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/山本絵里子 スタイリング/JOE(JOE TOKYO) 衣装協力/西海岸アンカー原宿、nonnative