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2022/6/24 6:30

ムロツヨシ&岸井ゆきの「“心温まりづらいラブストーリー”というは的を得ていると思います」

『空白』『ヒメアノ~ル』の吉田恵輔監督最新作となる『神は見返りを求める』(6月24日(金)公開)で、初共演を果たしたムロツヨシさんと岸井ゆきのさん。YouTubeを題材に、劇中良きパートナーから“見返りを求める男と恩を仇で返す女”に豹変するお二人に、お互いの印象や作品に対する思いを伺いました。

【ムロツヨシさん、岸井ゆきのさん撮り下ろし写真】

ムロツヨシ●1976年1月23日生まれ。神奈川県出身。1999年、作・演出・出演を行ったひとり舞台で活動を開始。2005年映画『サマータイムマシン・ブルース』出演をきっかけに映画にも活動を広げる。近年は、『新解釈・三國志』など話題作に出演し、昨年は映画『マイ・ダディ』で初主演を務め、今後の公開待機作には『川っぺりムコリッタ』(9月16日(金)公開)がある。吉田組は『ヒメアノ~ル』(2016)以来の出演となる。

これまで自分が演じた役は、どれも愛情がわくんですが……初見だけなら「この子嫌い!」と思いました

──今回、初共演となるお二人ですが、お互いに持っていた印象は?

 

岸井 ムロさんは「明るくて楽しくて、現場を盛り上げてくれる方」ということを周りから聞いていたんですが、イン前にお会いした時も、撮影中も、ずっと「ムロツヨシでございます」みたいな穏やかなテンションで、端っこの椅子に座ってらっしゃり、「聞いてた話と違うぞ!」と思っていました(笑)。結果的に、そんな省エネな(笑)ムロさんも好きになりました。

 

ムロ 別に省エネじゃないんですよ。この映画の前に撮っていた『川っぺりムコリッタ』の荻上直子監督に「余計なことしないで、役者ムロツヨシとしていてください」と言われたからなんです。その時の気持ちを引き継いで、現場にいただけなんですよ(笑)。僕がゆきのちゃんに持っていた印象は、周りにアンテナを張りながらお芝居する柔軟性を持った人。ファミレスで語り合うシーンでは、それを実際に感じながら演じさせてもらいましたね。

(C)2022「神は見返りを求める」製作委員会

──吉田恵輔監督によるオリジナル脚本を読んだ感想は?

 

岸井 最初は楽しく読んでいたんですが、私が演じるゆりちゃんの変わっていく姿が醜く見え始めてきて……(笑)。これまで自分が演じた役は、どれも愛情がわくんですが……初見だけなら「この子嫌い!」と思いました。でも、どこか身に覚えもあったりして、いつも心に何か残してくる吉田監督らしいなとも思いました。役作りに関しては、自分自身と役を重ね合わせるというより、「ゆりちゃんVS岸井」みたいなアプローチになると思っていたので、撮影がとても楽しみでした。

 

ムロ 前半と後半の展開の落差だったり、人の変化やギャップだったり、とても吉田さんらしかったですね。でも、3年前に初めて脚本を読んだ時、客観的に「時代の流れが早いから、公開した時にズレが出ないかな?」とも思ったんですよ。そういう意味では、プロデューサーさんの決断もすごかったと思います。イベント会社勤務の田母神という役に関しては僕は嫌いですが(笑)、この役でオファーしていただいたことは、とても嬉しかったです。

岸井ゆきの●きしい・ゆきの…1992年2月11日生まれ、神奈川県出身。2009年女優デビュー。以来、映画、ドラマ、舞台と話題作に出演し、2018年主演を務めた『おじいちゃん、死んじゃったって。』では第39回ヨコハマ映画祭・最優秀新人賞を、2019年同じく主演を務めた『愛がなんだ』では第43回日本アカデミー賞・新人俳優賞を受賞。今年は現在公開中の主演映画『やがて海へと届く』と映画『大河への道』のほか、『ケイコ、目を澄ませて』が待機。吉田組は『銀の匙 Silver Spoon』(2014)以来の出演となる。

こういう人間関係のもつれはYouTubeだけじゃなく、どの世界でも起こり得る話

──お互いYouTuberを演じることで、大切にしたことは?

 

岸井 底辺YouTuber時代のゆりちゃんに関しては、純粋で一生懸命さを大事にしました。映画の中では、いろんなチャレンジをしましたが、ムロさんとは田母神さんとゆりちゃんという役同士でしかコミュニケーションを取っていなかったこともあり、それがとても濃密な思い出に変わっていきましたね。

 

ムロ 田母神は結果、暴露系YouTuberになっちゃうんですが、僕もいい人ぶる時に、どこかで見返りを求めてしまっている時もあります。それに、こういう人間関係のもつれはYouTubeだけじゃなく、どの世界でも起こり得る話ですから、とても感情移入できたし、彼の怒りのようなものは理解できました。だから、例えば売れていなくて演劇だけをやっていたころなどを思い出しながら演じました。

(C)2022「神は見返りを求める」製作委員会

──お互いに、印象的なシーンやセリフを教えてください

 

ムロ 僕がゆきのちゃんをスマホで撮影した時の「最後の一言」ですかね。たった一言でここまで、心を揺さぶることができるなんて、素晴らしい俳優さんだなぁと思いました。

 

岸井 あのシーンは、とても素直な気持ちで演じることができました。私は夕方に自撮り棒でフェンシングするシーンで、ムロさんから言われる「その顔やめろよ」という一言が心に届きました。それによって、憎しみをぶつけたいのに、お互い分かり合えないことの悔しさみたいなものが沸き上がってきました。

人間として共感するところもあるし、認めざるを得ないところもある

──この映画のジャンルって、何だと思いますか?

 

ムロ 確かに、宣伝コピーになっている「心温まりづらいラブストーリー」というは的を得ていると思いますね。梅川役の若葉(竜也)がどんどん冷ましていくから(笑)。吉田監督はブラックコメディとも言っていたんですが、時代を皮肉ってるところもありつつ、時々ホラーになったり、一定の枠では留まらなくないっている気もしますね。人間として共感するところもあるし、認めざるを得ないところもある。

 

岸井 ポップで愛情がいっぱい詰まっているとは思いますけど、ファーストカットはサスペンスだし、ゆりちゃんの立場からすれば、底辺からバズり始めるサクセスストーリーというか、お仕事ドラマだったりもするんですよね(笑)。

(C)2022「神は見返りを求める」製作委員会

──ちなみに、お好きなYouTubeのコンテンツはありますか?

 

岸井 私は海外の監督さんや俳優さんのインタビュー映像を見る程度で、ほとんど見ないですね。個人的には雨の音が好きなんですが、それも映像付きのYouTubeじゃなくて、音楽ストリーミングサービスで聴いています。

 

ムロ 昔、お酒を飲んで眠れない時は、焚火の映像をずっと見ていました。バックに流れる湖の音も心地良かったんですが、それで眠れないとお酒を飲みすぎちゃうので、それを機にYouTubeを卒業したんです(笑)。

昼にスープを飲む時、朝頑張って作った自分に感謝するんです(笑)

──GetNavi webでは、モノやコトについてお話いただいております。撮影現場に、必ず持っていくようなモノはありますか?

 

ムロ この2、3年は台本とスケジュール表、あとペンや携帯、ミンティアとかがまとめて入るケースは必ず持ち歩いていますね。TOGAKUREのバッグインバッグを、入る作品ごとに色を変えて使っています。ちなみに、お世話になったロケ地などでサインを書く時は、筆ペンを使うようにしていますね。

 

岸井 消せるボールペンは絶対に使わないとか、私もペンにはこだわりがあります! 舞台の演出が変わった時は、どこからどう変わったか分かるように、台本の書き込みを線を引いて消すようにしてます。あと、作品中に思ったこととか、何でも書くノートを常に持っています。それは、LIFEのノーブルノートですね。あと、ドラマの現場ではなかなか野菜を摂ることができないので、自分で作った野菜スープをサーモスの魔法瓶に入れて持って行きます。そして昼にスープを飲む時、朝頑張って作った自分に感謝するんです(笑)。

 

神は見返りを求める

6月24日(金)TOHOシネマズ 日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開!

【映画「神は見返りを求める」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督・脚本:吉田恵輔
主題歌:空白ごっこ「サンクチュアリ」/挿入歌:空白ごっこ「かみさま」(ポニーキャニオン)
音楽:佐藤望
出演:ムロツヨシ、岸井ゆきの
若葉竜也、吉村界人、淡梨、栁俊太郎

公式サイト:kami-mikaeri.com

(STORY)
イベント会社に勤める田母神(ムロツヨシ)は、合コンでYouTuber・ゆりちゃん(岸井ゆきの)に出会う。田母神は、再生回数に悩む彼女を不憫に思い、まるで「神」の様に見返りを求めず、ゆりちゃんのYouTubeチャンネルを手伝うようになる。登録者数がなかなか上がらないながらも、前向きに頑張り、お互い良きパートナーになっていく。そんなある日、ゆりちゃんは、田母神の同僚・梅川(若葉竜也)の紹介で、人気YouTuberチョレイ・カビゴン(吉村界人・淡梨)と知り合い、彼らとの“体当たり系”コラボ動画により、突然バズってしまう。イケメンデザイナ一・村上アレン(栁俊太郎)とも知り合い、瞬く間に人気YouTuberの仲間入りをしたゆりちゃん。一方、田母神は一生懸命手伝ってくれるが、動画の作りがダサい。良い人だけど、センスがない……。恋が始まる予感が一転、物語は“豹変”する――!

(C)2022「神は見返りを求める」製作委員会

 

撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/池田真希(ムロ)、Toshihiko Shingu(VRAI)(岸井)、Chisato Mori(VRAI)(岸井) スタイリスト/森川雅代(ムロ)、森上摂子(白山事務所)