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2022/9/7 20:40

大谷翔平が104年ぶりの偉業達成! 在米スポーツライターが解説する、大谷選手の凄さとメジャーリーグの楽しみ方

世界最高峰のプロ野球リーグ「メジャーリーグベースボール」(MLB)。野茂英雄さんやイチローさん、松井秀喜さんなど、そうそうたる顔ぶれの日本人選手が挑戦してきた中で、かつてないほど注目を集めている存在が、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手です。2022年8月9日(日本時間10日)、1918年のベーブ・ルース以来、104年ぶりに2桁勝利・2桁本塁打の歴史的偉業を達成しました。

 

今、わたしたちはこの先、数百年と語り継がれるであろう、名選手の活躍をリアルタイムで見られる幸運期に生きている、といっても過言ではありません。今回、ニューヨーク在住のスポーツライターとしてメジャーリーグを取材してきた杉浦大介さんに、メジャーリーグの楽しみ方と、大谷選手の記録の裏側にある凄さを、野球初心者でもわかるように教えていただきました。

 

あらためて知りたい、
大谷君が世界のオータニサンになるまで

インタビューを受ける大谷翔平選手。黄色い囲み内が杉浦さん。(写真提供=杉浦大介)

 

社会人野球の選手だった父とバドミントン選手だった母の間に、1994年7月5日に3人兄弟の末っ子として、岩手県水沢市で生まれた大谷翔平選手。小学3年生のときに、地元のリトルリーグで野球を始め、小学5年生の頃には、すでに中学生レベルの球速110kmを出すように。その後、岩手県を代表する高校野球の名門校・花巻東高校へと進学し、高校2年生の春に出場したセンバツ高校野球で球速150kmを出しています。そして、高校3年生では球速160kmを記録。これはアマチュア史上最速であり、投手・大谷翔平選手への注目が集まる出来事になりました。

 

「大谷選手は高校を卒業した2013年に北海道日本ハムファイターズに入団していますが、その当時からメジャーリーグ挑戦を表明していました。日ハムへの入団の決め手となったのは、投手としてだけではなく、野手としてのスキルも上げる“二刀流起用”の育成プランだったそう。その育成プランはすぐに結果として表れていきます」(スポーツライター・杉浦大介さん、以下同)

高校生ルーキーとして出場した開幕戦では、1960年以来53年ぶりの2安打1打点。一軍初登板では新人投手最速の157kmを記録。パ・リーグ史上最速の160kmを記録した後は、自分で記録を塗り替えていき、20歳のときには、日本プロ野球史上最年少で16奪三振の最年少記録を打ち立てます。

 

「高校卒業後、わずか3年で年俸1億円プレイヤーになったかと思えば、2018年には、ついにメジャーリーグへの進出のチャンスをつかみます。当時、まだプロ選手としての経歴条件として海外FA権の取得ができなかった大谷選手は、所属球団の許可とメジャー側の単独交渉で行う“ポスティング・システム”を使って、メジャーリーグへの移籍を希望し、二刀流への考え方や育成方針を大切にしているチーム『ロサンゼルス・エンゼルス』に入団しました」

 

日本の球団でトップレベルの活躍をしてきた選手でも、メジャー入団後、最低3年は育成期間が必要とされる中、入団1年目の3月29日の開幕戦で初打席初安打、4月1日には初登板初勝利を成し遂げる快挙ぶり。

 

「史上もっとも偉大な野球選手とされるベーブ・ルース(George Herman “Babe” Ruth, Jr)以来、100年ぶりの本格的二刀流選手が現れた、ということで、日本だけではなく、アメリカでも一大センセーショナルになりました。大谷選手は『歴史に残る選手』という表現ではチープすぎる、あり得ないレベルでの偉業を成し遂げています。そして、現在も成長を続けている大谷選手。今まで野球にそれほど関心を持ってこなかった方も、見て損はないことが伝わるのではないでしょうか」

 

メジャーリーグの過酷な環境と、
そこで結果を出す凄みとは?

2022年7月5日、28歳の誕生日を迎えた大谷選手。(写真提供=杉浦大介)

 

高校野球では、投手としても野手としても活躍する選手はたくさんいます。しかし、プロの世界、特にメジャーリーグという舞台においては、どちらかに絞らないとやっていけない世界。そのため、二刀流で活躍するというのは、驚異であり、神業とも言えることです。

 

「日本とアメリカのベースボールを比較したとき、その大きな違いはチーム数とパワーです。日本は12チームをセリーグとパリーグに分けていますが、アメリカは30チームをアメリカンリーグとナショナルチームに半々に分けています。

稼働シーズンは3〜10月で、どちらの国もほぼ同じ期間。日本に比べてアメリカは、国土も広いしチーム数も多いので、移動距離や試合数が増えることで、結果的にかなりハードワークになります。日本のプロ野球は基本的に月曜がお休みですが、アメリカはシーズン中にほとんど休みはなく、毎日のように試合があります。高い集中力を維持するためにも、コンディションを調整するためにも、本来であれば、打つのか守るのか、どちらかに絞らないとやっていけません。そんな中、大谷選手は打っても投げてもトップレベルの結果を叩き出しているのです」

 

MLBオールスターゲームが行われたロサンゼルスの空港。(写真提供=杉浦大介)

 

メジャー1年目に22本塁打を記録していますが、これは日本人メジャーリーガーのホームラン記録を塗り替えました。同じく1年目に10登板20本塁打10盗塁という、メジャー史上誰もなし得ていない記録を出しています。

 

「2021年5月11日のアストロズ戦では、2番投手として7回4安打1失点10奪三振後、ライトの守備につき、試合終了まで出場。『投げて、打って、守る』三刀流の活躍を見せています。2021年のオールスターゲームでは、メジャー史上初の投打両方スタメンとなり、同じ選手の名前が並ぶ異常事態を起こしました。スポーツライターとして、大谷選手のプレーを見続けているので、少し麻痺してきていますが、これは本当にすごいこと。

1920年代にアメリカで二刀流の快挙を成したといえば、ベーブ・ルース選手が知られていますが、大谷選手の活躍は、ベーブ・ルースと並び、超えていくレベルです。この先何年間も教科書に名を残すことはまちがいなく、何百年にも渡り語り継がれるはずです。数年前に大谷選手の3ランに興奮した現地実況が『ビッグフライ、オオタニサーン』と叫んだことがニュースになっていましたが、球場では、翔平ゆえに『ショータイム!』という掛け声で賑わっています」

 

メジャーリーグでは何が評価される? 日本との評価の違い

ニューヨーク・ヤンキースvsロサンゼルス・エンゼルスのスター対決。(写真提供=杉浦大介)

 

メジャーリーグで活躍する日本人選手には、和を尊んだり、緻密な戦略を駆使したりするような日本人らしいプレーというものが評価されているのでしょうか?

 

「基本的に日本人選手は“野球のIQ”が高く、戦略の理解度が高いと言えます。職人気質と言いますか、匠と言いますか。しかし、メジャーリーグで活躍する選手は、日本人らしいプレーという部分を期待されているわけではないし、そこが評価されるわけではありません。

イチロー選手はメジャーリーガーとしては華奢で小柄でした。でも、天才的なプレーと足の速さで活躍。そういう部分は、日本人らしいと言えるかもしれません。しかし、イチロー選手の後、何名か同じようなタイプの選手がメジャーに挑戦しましたが、うまくいきませんでした。イチローはやはり、イチローなのです。日本人だからというより、ひとりの天才プレーヤーとして評価されていました。

今やベテランクラスになっているダルビッシュ選手も、イチロー選手とは活躍シーンが違いますが、芸術的な技量が魅力です。狙った場所に投げられるし、多彩な球種でバッターを混乱させます。匠の技と言えますが、日本人らしい選手という視点で評価されているわけではありません。

どこの国から来た選手でも、基本はパワーが求められます。投手ならばより速い球が投げられて、野手ならばより遠くまで打てることが期待されています。つまり、見応えのあるプレーをしてくれる選手であれば、惜しみない賞賛が与えられる。プレーも評価もシンプルなのがメジャーリーグと言えます」

 

野球発祥の地と言われているニューヨーク州・クーパーズタウンの「アメリカ野球殿堂博物館」に展示されているイチローのユニフォーム。「イチローは匠のプレーで魅了してくれた天才プレーヤー。日本人らしいというよりも、唯一無二の存在として評価されています」(写真提供=杉浦大介)

 

大谷翔平選手のヘルメットやキャップも展示されています。「現役選手ですが、こうして野球殿堂博物館に展示されるところからも、彼がどれだけ評価されているのかがわかります。大谷選手の数ある構成のひとつに、2021年4月の先発投手として160kmの豪速球を投げたすぐ後の攻撃でホームランを打った名シーンがあります。YouTubeなどでも見られるので、チェックしてみてください」(写真提供=杉浦大介)

 

大谷選手以外にも注目!
今後の活躍から目が離せないメジャー選手とは?

(写真提供=杉浦大介)

 

大谷選手以外に、今、杉浦さんが注目しているMLB選手を教えてもらいました。

 

「日本人選手ならば、2021年からシカゴ・カブスに入団した鈴木誠也選手はこれからの飛躍が楽しみですね。彼はメジャーリーグに来てまだシーズン1年目なので、こちらの環境にコンディションを合わせる調整段階にいます。しかし、すでに5年契約を結んでいるので、こちらでも活躍できる選手に育っていくと思います。鈴木誠也選手は、足が速くて守備もしっかり、打者としても期待できる3拍子揃い。メジャーリーグで長く活躍できるのではと感じます」

 

(写真提供=杉浦大介)

 

日本人選手以外でも、一人ピックアップするなら?

 

「ニューヨークヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手の活躍はすばらしいですね。画像は7月31日、2回、右翼席に2ランを打ち、今季42号、通算200号に到達し、過去9試合で9本塁打したときのもの。7月の月間MVPに選ばれていますが、打者としての好成績でチームの勝利に貢献しています。メジャーリーグは、いかに速い球を投げるか、そして、いかに多くのホームランを打つかが大事なポイント。投げるのも打つのもパワーのあるプレーが評価されるし、期待されています」

 

最新情報はココから!
チェックすべきニュースアプリとSNS

メジャーリーグの最新ニュースをいち早く手に入れて楽しむには、ここをチェックして。

 

「日本語サイトならば、Yahooが運営している『スポーツナビ』はいいと思いますよ。『MLB』というカテゴリがあるので、そちらをクリックしてもらえれば、最新ニュースが確認できます。ほかには、選手の個人的なTwitterアカウントや僕のようなスポーツライターのTwitterアカウント。英語が読めるのであれば、MLB関連の媒体やライターのアカウントをチェックするといいでしょう。ダルビッシュ選手のようにインスタグラムのアカウントで積極的に発信している選手もいるので、気になる選手名でインスタグラムのアカウントがないかを確認してみるのもいいかもしれません」

スポーツナビ https://baseball.yahoo.co.jp/mlb

 

ロサンゼルスのドジャースタジアム(写真提供=杉浦大介)

 

大谷翔平選手の活躍は、野球好きを楽しませるだけに止まらない、と断言する杉浦さん。そのプレイをチェックすることで、元気や勇気をもらえるかもしれません。

 

メジャーリーグを楽しむ秘訣として、杉浦さんが力を込めて話していたのは、リアルでの観戦体験の価値。メジャーリーグが開催される球場は、場所によっての特徴があり、また、楽器に頼らない、歓声というエールの迫力に心が揺さぶられるそうです。歴史上、長く語り継がれるであろう日本人選手が活躍している今、メジャーリーグ観戦をこの先の実現したい夢の一つに掲げるのもよさそうです。

 

【プロフィール】

スポーツライター / 杉浦大介

高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。1999年に渡米し、現在はニューヨーク在住。 『スポーツナビ』『SPORTS COMMUNICATIONS』『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』『NBA Japan』等、多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。
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