『舞妓 Haaaan!!!』の水田伸生監督と阿部サダヲさんが4度目のタッグを組んだ、映画『アイ・アム まきもと』が9月30日(金)に公開。とある市役所で、人知れず亡くなった人を埋葬する「おみおくり係」に勤務し、「空気が読めない」「人の話を聞かない」「なかなか心を開かない」といった、ちょっと頑固で迷惑な主人公・牧本を演じた阿部さんが、本作での初めての体験などについて語ってくれました。
【阿部サダヲさん撮り下ろし写真】
僕のせりふに「!」はありませんでしたし、大声で叫んだりもしませんからね(笑)
──本作は『舞妓Haaaan!!!』『なくもんか』『謝罪の王様』と組んできた水田伸生監督との4度目のタッグとなりました。
阿部 「今度も宮藤(官九郎)さんが書いた脚本なのかな?」と思っていたら、もともと原作があるものを、倉持 裕さんが脚本にすると聞いて、これは新しいパターンだなと。それで原作になった映画『おみおくりの作法』(イギリス=イタリア合作)を観て、「こういうロードムービーのような作品に出るのは初めてかも」と、楽しみになり、台本を読みました。そしたら素晴らしいかたちで日本的に脚色されていたし、倉持さん風の笑いも入っていましたね。
──牧本は、これまでの水田監督作で、阿部さんが演じてきたハイテンションなキャラとは大きく異なりますね。
阿部 確かに、僕のせりふに「!」はありませんでしたし、大声で叫んだりもしませんからね(笑)。でも現場の雰囲気は、これまでやってきた水田組と変わらないですし、水田監督自身がそれぞれキャラを愛していることも変わりません。だからこそ、役者への演出も的確ですし、僕はそれに乗っかるだけだったのも変わりませんでした。
僕、空気を読むわりには集中力が足りないんです(笑)
──牧本を演じるうえで、あえて心掛けたことはありますか?
阿部 フィッシングベストなど衣装が個性的なので、しゃべり方とか、あえて分かりやすいキャラクター作りはしませんでした。あと、彼が人の話を聞かない人だからといって、僕も他人の話を聞かないようにしようなどは思わないようにしました。オリジナルのキャラを意識するという意味では、現場にDVDを持ち込んで観ていました。だから申し訳ないんですが、「ここが苦労しました」というエピソードもないんです(笑)。
──阿部さん自身が牧本と似ていると思う部分はありますか?
阿部 僕は小学生ぐらいのときから空気を読んでしまう方なので、どちらかというと牧本と真逆なんです。そういう意味では「牧本ってどういう人なんだろう?」という興味もそそられるし、憧れる部分もあります。ただ、僕、空気を読むわりには集中力が足りないんです(笑)。この映画の中でも、工場の前で松尾(スズキ)さんとしゃべっているシーンがあるんですが、近くで子どもを守っているカラスがずっとカァーカァーと鳴いていたんです。役者として良くないことですが、それに気を取られていました。
──牧本が旅するきっかけとなる、身寄りなく亡くなった老人・蕪木に対する印象を教えてください。
阿部 いろんな港に女性がいたような自由に生きてきたところが、昔の男って感じがしました。そんな破天荒さと優しさみたいなものが同居していて、自分には真似できない感じもかっこいいんですよ。しかも、その役を宇崎竜童さんが演じるというのも、素敵なキャスティングだと思いました。宇崎さんだけじゃなく、本作ではこれまで共演したことのない方と共演できたことも嬉しかったですね。
初めて僕のことを知った方も多いようなので、『まきもと』でそのイメージを壊せたら
──連続殺人鬼を演じた主演作『死刑にいたる病』(5月公開)がロングランヒット。阿部さんの『アイ・アム まきもと』とは異なる怪演も話題になりました。
阿部 映画館に観に行ったとき、若いカップルが大勢いて驚いたんです。ネットで知って、デートで観に来てくださる層が増えたのが、明確に分かったのが興味深かったです。『死刑にいたる病』を観に行くと、『アイ・アム まきもと』の予告編が流れていて、「この映画なんだろう?」と思ってくれる方も増えたようなんです。この2作品は続けて撮っていたんですが、ジャンルも違うし、自分でも不思議な感じです。『死刑に~』で、初めて僕のことを知った方も多いようなので、『アイ・アム まきもと』でそのイメージを壊せたら嬉しいですね。
──最近、日常生活で楽しみにしているものは?
阿部 孫の手ですかね。今、ペン型だったり、いろんな種類があるんですが、乾燥肌なので、あった方が便利だなぁって思っています(笑)。あと、相変わらず動画配信サービスにハマっていて、「ローワン・アトキンソンのヒトvsハチ」が良かったですね。ハチに翻弄されたハウスシッターが豪邸をめちゃくちゃにしてしまう話なんですが、どこか「Mr.ビーン」っぽさもあったりして、見やすかったです。
アイ・アム まきもと
9月30日(金)より全国公開
【映画「アイ・アム まきもと」よりシーン写真】
(STAFF&CAST)
監督:水田伸生
原作:Uberto Pasolini “STILL LIFE”
脚本:倉持 裕
出演:阿部サダヲ
満島ひかり、宇崎竜童、松下洸平、でんでん、松尾スズキ、坪倉由幸(我が家)
/宮沢りえ、國村 隼
(STORY)
小さな市役所の市民福祉局に勤めるコミュニケーション下手の牧本(阿部サダヲ)の仕事は、身寄りがなく独りで亡くなった人を無縁墓地に埋葬する「おみおくり係」。誰も頼んでいないのに葬儀を自費で執り行い、「遺族が引き取りに来るかもしれないから」と遺骨はすぐに納骨せず、自分のデスクの下に一時保管。身寄りから遺骨の受け取りを拒否され、保管期限を超過し刑事・神代享(松下洸平)に怒号を浴びせられる始末。それでも亡くなった人を一心に思い、自分ルールを守りせっせと日々仕事をしていく。
ある日、牧本は、身寄りなく亡くなった老人・蕪木(宇崎竜童)の部屋を訪れる。酒瓶が転がり散らかった部屋で牧本は、蕪木の娘と思しき少女の写真を見つける。そんな中、新任の市民福祉局局長が「おみおくり係」の廃止を決める。蕪木の一件が“最後の仕事”となる牧本は、写真の少女を探し出そうと、また葬儀に一人でも多くの参列者を呼ぼうと、遺品の携帯電話に登録された唯一の連絡先、「ウオズミショクヒン」を訪ねることに。果たして、牧本の最後のおみおくりは、無事行うことができるのか? そこには、思いもしなかった結末と奇跡が待っていた。
(C)2022映画「アイ・アム まきもと」製作委員会
撮影/関根和弘 取材・文/くれい響