乗り物
鉄道
2022/10/8 21:00

祝開業「西九州新幹線」! 新風が吹き込む沿線模様を追う

〜〜日本一短い新幹線「西九州新幹線」最新レポート〜〜

 

武雄温泉駅(佐賀県)と長崎駅を結ぶ西九州新幹線が9月23日に開業した。新しい路線の誕生に地元の期待は高まる。開業した1週間後に実際に駅を訪ね、列車に乗車してみると、現状がより見えてきた。新幹線開業でどのように変わったのか、また在来線を含め沿線はどのように変わろうとしているのか迫ってみたい。

*取材は2022(令和4)7月1日と、9月30日・10月1日に行いました。

 

【関連記事】
百聞は一見にしかず!?「西九州新幹線」開業で沿線はどう変わるのか?

↑従来の長崎本線が有明海に沿って走ったのに対して、西九州新幹線は多良岳の西側、大村湾に沿って走っている

 

【変貌する西九州①】建設予定からこれまでを整理してみる

まずは西九州新幹線が計画された当初から、現在に至るまでを見ておこう。

 

西九州新幹線が計画されたのは今から50年前の1972(昭和47)年12月12日にさかのぼる。全国新幹線鉄道整備法の中で「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」に告示され、翌年に九州新幹線(西九州ルート)として整備計画が決定された。さらにその35年後にあたる2008(平成20)年に武雄温泉〜諌早間の工事が着工、2022(令和4)年9月23日に武雄温泉駅と長崎駅間66.0kn(営業キロ69.6km)が完成し、暫定開業に至った。

 

今回、新幹線の未開業区間となっている武雄温泉駅〜新鳥栖駅間は、当初フリーゲージトレイン(軌間可変電車)が導入される計画だった。しかし、技術的な問題が解決できず、新幹線の一般車両に比べて割高かつ維持経費がかかることが予想され、また高速化が不向きといった諸問題が重なり導入が断念された。その後に全線フル規格での建設を求める方針が国から示された。こちらのフル規格での新線建設も、佐賀県の建設費負担や、ルート選定などの問題で、佐賀県の同意が得られない状況となっている。

↑終着駅の長崎を目指す西九州新幹線。長崎市内は写真のように山が多い地形で、トンネルを出たらまたトンネルという区間が続く

 

さらに、莫大な建設費に対しての貸付料(=施設使用料)のバランスが取れていない課題も明らかになった。武雄温泉駅〜長崎駅の建設費は総額6197億円に及んだ。対してJR九州から施設の使用料が支払われるが、一年間で5億1000万円になることが明らかになった。開業してから30年間で総額153億円になると試算されている。

 

当初に予想していた貸付料(=施設使用料)は年間約20億円と算出されていたのだが、九州新幹線と結ばれていないなど、収入増とはなりにくい要素も見込まれ、想定を大幅に下回ることになった。支払われる建設費のうち3分の2は国が、3分の1は自治体の負担になると報道されている。

 

西九州新幹線の66.0km区間も着工してから14年という長い年月がかかった。残り武雄温泉駅〜新鳥栖駅間(現在の営業キロは50.4km)の着工は目処がたっていない状況で、いつになったら全線が結ばれるのか、現状では次世代に夢を託すしかなさそうだ。

 

【変貌する西九州②】新幹線で平均26分の所要時間短縮に

9月23日の西九州新幹線の暫定開業では、博多駅〜武雄温泉駅間を走る特急「リレーかもめ」と、西九州新幹線「かもめ」が佐世保線の武雄温泉駅で乗継ぎ可能な形で運転される。両列車は同じホームで対面して停車し、スムーズに乗り継げるように調整された。

 

西九州新幹線が開業する前と開業後の所要時間、運賃+特急料金などの変化を見ておこう。まずは博多駅〜長崎駅間の所要時間がどのぐらい短縮されたかを見ていこう。

 

◇長崎本線・下り特急「かもめ」を利用の場合(9月22日まで)
所要時間:1時間50分〜2時間11分(平均2時間2分)/列車本数22本

 

◇長崎本線/佐世保線・下り特急「リレーかもめ」+西九州新幹線「かもめ」を利用の場合(9月23日以降)
所要時間1時間20分〜1時間50分(平均1時間36分)/列車本数26本(臨時列車も含む+乗り継ぎ時間3分を含む)

 

全列車の所要時間の平均を計算してみると在来線利用の特急「かもめ」は博多駅から長崎駅まで平均2時間2分で走った。一方、「リレーかもめ」+西九州新幹線「かもめ」を利用すると平均1時間36分で、新幹線の利用効果は26分早く着くと算出できた。

↑諌早駅近くを走る武雄温泉駅行き「かもめ」。指定券を購入すると「かもめ」と「リレーかもめ」の特急券が1枚で発券される(左下)

 

ちなみに、新幹線利用時の最速列車の所要時間と、時間がかかる列車の所要時間には30分の差が出た。この差に関しては、まず新幹線の途中駅を何駅停まるかによる。最速の列車は途中の嬉野温泉駅と新大村駅の2駅を通過する。一方、所要時間がかかる列車は途中3駅すべてを停車して走る。

 

加えて時間がかかる列車の場合は、佐世保線の単線区間の影響も受けている。佐世保線の江北駅〜武雄温泉駅間には単線区間があり、途中駅で行き違う列車との待ち合わせが必要となる。これらの要素により、列車の所要時間に差が出てしまうわけだ。

 

さて、特急料金の変化に目を転じてみよう。ここでは、博多駅〜長崎駅に加えて、一つ手前の諌早駅までの金額も記した。( )内は新幹線開業前の特急料金だ。両駅間とも運賃の変更はなかった。

 

博多駅〜諌早駅:運賃2530円、特急料金2740円(1780円)

博多駅〜長崎駅:運賃2860円、特急料金3190円(1940円)

 

特急料金は博多駅〜諌早駅間の場合に960円、博多駅〜長崎駅間の特急料金は1250円高くなった。ちなみに自由席の場合は530円引き(嬉野温泉駅のみ880円引き)となる。

 

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
全文表示