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2022/12/16 6:30

弁当こそ日本の芸術文化! 世界105か国に「ベントー」を届ける京都のフランス人

観光立国として日本が世界に誇れる物は何があるのか? 普段の日常生活に溶け込んでいる独自の文化や慣習の中に埋もれている物はまだまだ存在しているはずであり、日本各地で受け継がれている伝統文化の中から世界に羽ばたく商品が出現してくる可能性も秘められていることでしょう。日本人にはありふれた物であっても、外国人には新たな驚きや感動を与えることがあるからです。

↑取材に応じてくれたBento&coのフランス人スタッフの方

 

その一例が京都市にありました。2008年から弁当箱専門店「Bento&co」が、日本在住のフランス人らにより運営されています。現在までに世界105か国から注文を受けており、伝統的な曲げわっぱや、華やかな和柄が散りばめられた弁当箱など、日本独自の魅力に加えて、外国人の視点でどのようなデザインや形状が海外で喜ばれるかを思案した商品ラインナップが展開されています。日本人の視点からは当然のものと思われてきた弁当文化にビジネスチャンスを見出した外国人ならではの発想とも言えるでしょう。

 

数年前に筆者は、日本の観光業および文化に造詣が深い安田彰氏(※)と日本の弁当文化に関して議論したことがあります。欧米に在住経験もある安田氏は、日本が海外に誇れるユニークな物の中で弁当の右に出るものはないと大絶賛。筆者自身も過去に外資系企業に長年勤務し、外国人が日本の弁当に驚嘆する場面に幾度となく遭遇しました。多彩なレシピや盛り付けはもちろん、箱に詰められた日本人独自の感性や美意識、さらに器においても実用性や芸術性が追求されてきた弁当は、日本の盆栽や生け花にも通じる小空間におけるこだわりが散りばめられているのです。

※安田 彰(やすだ・あきら)氏:株式会社JTB取締役、アメリカ法人JTB Americas副社長、JNTO(現・日本政府観光局)理事、亜細亜大学経営学部教授を歴任

 

海外にもランチボックス文化は存在しており、会議の合間や旅の移動時間などの特別な状況でしばしば見られます。しかし、日本の弁当文化は日常生活の中により深く根ざしており、私たちは特別なイベントや旅行に加えて、日常生活でコンビニや弁当専門店などを利用するとき、創意工夫が凝らされた多彩なレシピや容器を選ぶことができます。日本に住んでいれば、さまざまな場面で遭遇する弁当や弁当箱に着目し、母国を含めて海外に紹介したいと考えるのは、日本のライフスタイルに感動した外国人の発想としては当然のことなのかもしれません。

↑外国人観光客の間で人気が高い弁当箱の一つ

 

日本の弁当には、現代に至るまで非常に長い歴史があり、平安時代前期に紀貫之が書いた『土佐日記』の中にも「破籠(わりご)」と呼ばれる、現在の弁当箱に相当する容器が登場しています。また、著名な十字仕切りのある松花堂弁当は、江戸初期の文人、寛永の三筆の一人である松花堂昭乗に由来しているとされており、日本の名料理店「吉兆」の創始者・湯木貞一によって現在の形に昇華されました。普段の生活の中で何気なく使っている弁当箱は、長い歴史を経て多種多様な形に発展してきましたが、その過程で実用性に加えて器に彩りを添える文化が育まれてきたのです。

 

はるか昔から日本の食文化の中で重要な位置を占め続けてきた弁当。観光立国を目指すこの国にとって、弁当は私たちの代表的かつ外国人にとって魅力的なライフスタイルであることを、京都の弁当箱専門店は示唆しているのです。