こんにちは、書評家の卯月 鮎です。2022年もあと1週間。本でたとえるなら、巻末の参考文献ページといったところでしょうか(笑)。あちこちで1年の振り返りが行われていますが、当コーナーでも2022年に紹介した計50冊の新書のなかから部門別に5冊をピックアップ! “卯月鮎が選ぶ目からウロコの新書アワード2022”なんて、大げさなコピーを掲げて今年を締めくくろうと思います。
新書には時事問題にスポットを当てて、ズバッと切るスタイルの本もありますが、このコラムでは新しい発見に溢れ、未知の扉を開いてくれる新書を選んできました。1冊との出会いが、人生を鮮やかにしてくれるかもしれない。それが本の力です。
■インタビュー・対談部門
『少女漫画家「家」の履歴書』(週刊文春・編/文春新書)
人生の紆余曲折が語られたり、それぞれの考え方がぶつかりあったり、“人間”の内側が見えるのがインタビュー・対談部門。この『少女漫画家「家」の履歴書』は、「家」を中心に著名人の半生を聞く週刊文春の名物連載から少女マンガ家12人を選りすぐったもの。いわゆる連載のまとめではありますが、住居と仕事場を兼ねていることが多い少女マンガ家にテーマを絞ったのが本書の狙い。
仕事観や恋愛観まで赤裸々に語られ、作品と人生の関係性も見えてきます。一条ゆかりさん、美内すずえさん、山岸凉子さん、魔夜峰央さん……。あのころ、夢中になっていた少女マンガを読み返してしまいました。
■食文化部門
『焼酎の科学 発酵、蒸留に秘められた日本人の知恵と技』(鮫島吉廣、髙峯和則・著/講談社ブルーバックス)
新書といえば、食べ物や飲み物をテーマにした“食”も人気のジャンルです。この『焼酎の科学』は、私たちに身近な焼酎の秘密をブルーバックスらしい分かりやすいテキストで科学的に解説した一冊。
芋焼酎はサツマイモの中心部のみで造るとスッキリ、表皮部のみで造ると華やかな味わいになる……といった雑学も豊富で焼酎を飲むのが楽しくなります。晩酌のつまみになる新書です。
■お仕事部門
『リーゼント刑事 42年間の警察人生全記録』(秋山 博康・著/小学館新書)
世の中には数え切れないほどの職業が存在し、その道のプロによって世界は回っている……。そんなことが実感できるのが“お仕事もの”。この『リーゼント刑事 42年間の警察人生全記録』は、「警察24時」などテレビ特番にも出演し、「リーゼント刑事」として親しまれた秋山 博康さんの警察人生回顧録。
破天荒ながら人情味たっぷりのエピソード満載で、笑いあり涙あり、まるで熱血ドラマを見ているような感覚です。
■科学部門
『昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』(丸山 宗利・著/幻冬舎新書)
生物学、脳科学、宇宙科学、気象……。専門家が自分の研究分野を魅力たっぷりに紹介してくれるのが自然科学系新書のいいところ。『昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』は、イラストや標本ばかりの昆虫図鑑に納得がいかず、すべて生きたままで撮影しようと決意した昆虫学者の奮闘記。許された制作期間は1年。果たして間に合うのか? というのも読みどころです。
正月にあちこちの神社を巡り、榊(さかき)の葉っぱにつく蛾「サカキツヤコガ」の幼虫を探す……。苦労話と昆虫の生態がセットとなっていて、これまで知らなかった昆虫にも自然と興味がわいてきます。お仕事ものと昆虫本のハイブリッド!
■趣味が広がる部門
『ショパンコンクール見聞録 革命を起こした若きピアニストたち』(青柳 いづみこ・著/集英社新書)
何か新しい趣味を始めようと思ったら、本屋で新書の棚をザーッと眺めて、ピンときた本を手に取るのもオススメ。新書はまだ見ぬ世界を道案内してくれる有能なガイドです。
『ショパンコンクール見聞録 革命を起こした若きピアニストたち』は、2021年10月に開催され、日本人ピアニストが2位と4位に入賞して話題になった「第18回ショパン国際コンクール」のレポート。ピアニストでもあり、文筆家でもある青柳さんならではの鋭くも温かい眼差しで、若きピアニストたちの素顔に迫っています。日本人として51年ぶりに2位入賞した反田恭平さんの章も読みごたえがありました。
ショパンコンクールの予選・本選の様子は、公式動画がYouTubeにアップされています。本書を読んでから演奏を聴くと、各ピアニストたちの個性的なきらめきに気づけます。私もすっかりコンクールの動画鑑賞にハマってしまいました。
以上、とっておきの5冊でした。来年も毎週日曜日アップで、目からウロコが落ちるような旬の新書を紹介していきたいと思います。ぜひチェックしてみて下さい。