本・書籍
2022/2/6 6:00

焼酎の「前割り」はなぜ美味い? 焼酎の謎に科学で迫る!~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。みなさんはどのお酒が好きですか? 私はもっぱら赤ワインを飲んでいますが、友人に言わせると「酒飲みは最後に焼酎に行き着く!」とのこと。何を根拠に言っているのかは定かではありませんが(笑)、確かに焼酎だとおでん、焼き鳥、サバ味噌など大概の和食に合うし、ロックでもお湯割りでも梅干しを入れても美味しく飲めて、日本の食卓にピッタリ。すでに焼酎に行き着いているという方も多いかもしれません。

 

謎多き酒・焼酎を科学的に解明

今回紹介する新書は焼酎の科学 発酵、蒸留に秘められた日本人の知恵と技』(鮫島吉廣、髙峯和則・著/講談社ブルーバックス)。焼酎とはそもそも何か、どうしてこれほどまで愛されているかが科学的に分析されます。自分の好きなものの秘密が理屈でわかると、世界が開けたような気がしてうれしいですよね。

 

著者の鮫島吉廣さんは、ニッカウヰスキー、薩摩酒造を経て現在は鹿児島大学客員教授。焼酎の研究を40年以上続けています。焼酎文化や歴史など鹿児島の焼酎の伝え手を育成する「かごしま焼酎マイスターズクラブ」理事長であり、焼酎に関する著書多数。また、髙峯和則さんは鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター教授で、本書では焼酎研究の最前線について執筆を担当しています。

 

サツマイモの部位で風味が変わる!?

焼酎とはどのようなお酒かというと蒸留酒の一種。蒸留酒はアルコール発酵させた液体を沸騰させて発生した湯気を冷やしたもの。つまり「湯気の集まり」なのですが、同じ蒸留酒でもウイスキー、ブランデー、ラムと生まれた土地によって香りも味わいもまったく異なります。

 

焼酎のカテゴリでも、薩摩の芋焼酎、沖縄の泡盛、壱岐の麦焼酎、球磨の米焼酎……とそれぞれ個性的。最近では、「水やお湯で割って飲む」「ウイスキーなどと違って熟成させずに飲む」といった珍しい特徴から海外でも注目されているそうです。

 

第1章は焼酎の歴史、第2章は発酵や麹などの基礎知識、第3章は焼酎ができるまでの製法……と、身近ながらあまり知られていない“焼酎の世界”が科学的な説明を交えつつわかりやすいテキストで解明されていきます。

 

焼酎の奥深さを感じさせるのが第4章「最大の謎『風味』の科学」。芋焼酎の独特の風味は麹が作り出したもの。甘い香りの「イソアミルアルコール」や、バラの香りの「β-フェネチルアルコール」、バナナの香りの「酢酸イソアミル」など、0.2%ほどの微妙な成分が焼酎の個性を決めているのだそうです。

 

用いるサツマイモの部位で風味が異なる、というのも驚きでした。中心部には「ネリル配糖体」、表皮近くには「ゲラニル配糖体」や「リナリル配糖体」などが多く分布し、中心部のみで造った焼酎はスッキリ、表皮部のみだと華やかな味わいになるとか。

 

また、最近流行っている、あらかじめ焼酎と水を混ぜて2~3日寝かせておく「前割り」についても説明されています。美味しく感じるのは“おあずけ”されているからではなく(笑)、時間が経過すると、舌を刺激するエチルアルコール分子の周りを水が取り囲む「分子会合」という現象が起きるから。それでまろやかになるのですね。

 

そのほか、どうして最近の芋焼酎は臭みが少ないのか? 科学的に考える美味しいお湯割りの作り方は? など焼酎の素朴な疑問にも答えています。単なる焼酎のガイド本ではなく、しっかり勉強になるのがブルーバックスらしいところ。研究対象として長年焼酎と付き合ってきた科学者の愛情が伝わってきます。本書を読むと、焼酎のお湯割りがますます美味しくなりますよ。

 

【書籍紹介】

焼酎の科学

著者:鮫島吉廣、髙峯和則
発行:講談社

魅惑の酒、焼酎の七不思議に迫る。身近な存在ながら、じつは非常に特殊な蒸留酒、焼酎。どんな原料でも焼酎にできて、蒸留酒なのに新酒でも旨く、健康にも良い。蒸留すればただの「湯気の集まり」のはずなのに、さまざまな個性的な風味も持っている。今や世界から注目を集め、国酒にも認定された焼酎には、清酒を造れなかった九州地方の人々が生み出した知恵と技が詰まっている。知るほどに驚く、焼酎の世界へ!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。