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2023/2/17 11:15

東京生まれ、 大衆酒場で人気の個性派割り材「バイスサワー」の噺

【意外と知らない焼酎の噺11】

 

『古典酒場』編集長の倉嶋紀和子さんがナビゲーターとなって探っていく「意外と知らない焼酎の噺」。これまで「ホッピー」「ハイサワー」「ホイス」と紹介してきた焼酎割り材企画の最後として、「バイス(正式名称:コダマバイスサワー)」にスポットを当てます。伺ったのは、製造元であるコダマ飲料。代表取締役の池澤友博社長を訪ねました。

 

池澤友博(左)/「バイス」をはじめ、全8種の「コダマサワー」を手掛ける株式会社コダマ飲料の二代目代表取締役社長
倉嶋紀和子(右)/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名。令和4年(2022年度)「酒サムライ」の称号を叙任

 

 

「バイス」の名称には“幻の割り材”が関係していた

倉嶋 今日は「バイス」を中心に、コダマ飲料さんの歴史や商品についてお話を伺いたいと思います。「コダマサワー」における「バイス」は、比較的後発のフレーバーですか?

 

「バイス」。しそエキスによる爽やかな酸味と、どこか懐かしい味わいが特徴

 

池澤 はい。「コダマサワー」自体は1981(昭和56)年に「レモン」からスタ-トしました。1984(昭和59)年に5番目のフレーバーとして誕生したのが「バイス」です。創業は1958(昭和33)年で、最初はラムネのメーカーだったんです。会社もいまの大森(東京都大田区)に移ったのは1975(昭和50)年で、隣の蒲田(大田区)が創業の地ですね。

 

コダマ飲料本社

 

倉嶋 「レモン」もよく見かけますもんね。ほかにも「青りんご」や「うめ」など、バリエーションが豊富な印象です。

 

池澤 順番で言うと、「レモン」「うめ」「青りんご」「ライム」「バイス」。ほかにもいくつかフレーバーはあったのですが、いまは「グレープフルーツ」「巨峰」「ざくろ」を含む全8種です。

 

倉嶋 「バイス」という名称の由来については諸説耳にするのですが、実際はどうなのでしょう。梅酢の梅を音読みにして「バイス」にしたわけではないんですよね?

 

池澤 勘違いされるのですが、梅は香り付けに使っているだけで関係ありません。名称は、「ホイス」にあやかったんです。

 

倉嶋 そうなんですね! 実は先ほど、後藤商店(有限会社ジィ・ティ・ユー)さんから「ホイス」のお話も伺ってきました。

 

池澤 でしたら話は早い! 「ホイス」もおいしいですよね。うちが「コダマサワー」を発売するずっと前からあって、すごく人気が高かったんです。当時から後藤商店さんに当社の炭酸水を卸しているなどお付き合いもありましてね、「ホイス」みたいに売れたらいいなという願いを込めて、新発売時に「バイス」と名付けさせてもらいました。

 

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「バイス」ヒットの舞台裏

倉嶋 1984年にデビューしたとのことですが、反響はどうだったんですか?

 

池澤 それが、しばらくは今ほど人気じゃなかったんですよ。注目されはじめたのは、本当にここ数年の話で。

 

倉嶋 近年の大衆酒場ブームで発掘された名作ってことなんですね。私は熊本出身なのですが、上京して初めて「バイス」と出合い「乙女っぽい割り材で嬉しい!」と思いました。ピンク色で、どこか駄菓子屋さんにあるような可愛い雰囲気じゃないですか。

 

 

池澤 ありがとうございます。狙っていたわけではないんですけどね。途中から女性をターゲットにしたイメージ戦略で売り込むようにしました。

 

倉嶋 お店のジャンルですと、「バイス」はもつ焼き屋さんでよく見かける印象です。

 

池澤 業態も狙ったわけではないのですが、手ごたえを感じたのは「亀戸ホルモン」(本店:東京都江東区)さんでよく飲まれているという話を知人に教えてもらったときですね。それも、やっぱり女性に選んでいただくことが多いと。

 

倉嶋 ええ。あの色は、女性の呑兵衛なら絶対気になっちゃいますから。

 

池澤 でも、ネーミングにしろ色にしろ、インパクトがあったんでしょうね。おかげさまで「バイス」はうちの看板商品となりました。

 

 

倉嶋 「バイス」は全国で飲むことが出来るんですか?

 

池澤 東京のメーカーなので首都圏がメインで、地元の大田区を中心として東京の西部や埼玉、神奈川では発売当初からお世話になっているお店がかなりあります。ただ、割り材メーカーとしては後発なので、東京でも最初は苦戦しました。おかげさまで、現在は北海道から沖縄まで飲めるお店はあると思います。

 

倉嶋 全国的に広まり始めたのはここ10年ぐらいですか?

 

池澤 そうかもしれません。大衆酒場ブームだったり、全国誌への掲載だったり。あとはSNSの影響もあり、東京ローカルだった割り材が、少しずつ皆様に知っていただけるようになりました。

 

倉嶋 飲めばわかる、唯一無二のおいしさですもんね! あのフレーバーを開発されたのは、池澤社長ですか?

 

池澤 私を含め、何人かで開発しました。当時の社長は父親だったんですけど、父は下戸でして。でも私はお酒が好きなので、チューハイとして試飲する最終的な官能検査は、私も参加して試行錯誤しましたね。

 

 

不変のおいしさを届けるための知られざるこだわり

倉嶋 来年、2024年で「バイス」誕生40周年になりますけど、味わいに関してはずっと変わってないですか?

 

池澤 変えてないですけど、実は同じ味を保つことって簡単じゃないんですよ。なぜなら、同じ原材料がずっと手に入るとは限らないからです。「バイス」でいえば、東日本大震災で危機を迎えました。

 

倉嶋 2011年の震災! そうだったんですね。

 

 

池澤 お世話になっていた、東北にあるしその加工工場が流されてしまい、どうしてもしその産地ごと変えざるを得なくなりました。北海道産に変えたのですが、見た目は一緒でも風味が違うんですよね。同じ味わいにはならないんです。

 

倉嶋 「バイス」のファンなら、少しの違いでも気づいちゃうかもしれません。

 

池澤 しそは加工したオイルを問屋さんに卸していただいてまして、担当の方は「こっちもおいしいよ」って言うんですけど、そういう問題じゃないんですよね。前と同じ風味で作ってくださいと、何度もやりとりしました。

 

倉嶋 知られざるご苦労があったんですね。そして、しそのオイルがあるとは初めて知りました。

 

池澤 意外に思われるかもしれませんが、しそから僅かにしか作れなくて、1キロ10万円以上する高級品なんです。

 

倉嶋 えっ! それってトリュフオイルよりも高いんじゃないですか?

 

池澤 一度に使う量は少しなんですけど、それがあるとないとではまったく比べものになりません。しそオイル頼りといってもいいぐらいです。

製造工程の一部。びんに充塡している

 

倉嶋 あとは梅などの香料と、りんご果汁も使われていますよね?

 

池澤 さすが詳しいですね。そうなんです、りんご果汁によって味わいに厚みやふくらみが出るんです。

 

倉嶋 しそオイルや、梅ではなくりんご果汁になったというのは、開発時に「何か違うな?」というのを繰り返して辿り着いたということですか?

 

池澤 はい。甘みが出ないとか、酸味が強すぎるとか、ジュースっぽくなっちゃうとか。そうして生まれたのがあの味なのですが、いま振り返ると梅ガムの味に近いのかなと思います。

 

倉嶋 なるほど! 駄菓子屋の梅ガムですよね。なんとなくイメージが湧きます。ちなみにコダマ飲料さんがオススメする「バイス」の飲み方はありますか?

 

池澤 当社としては甲類焼酎90mlに対して「バイス」1本200mlをオススメしていますが、いろいろ試してお好みの味で楽しんでいただければと思います。

 

倉嶋 はい。私もいろいろ試させてもらっているひとりです(笑)。では、合わせるお料理では何が一番オススメですか?

 

池澤 やっぱり焼きとんとか、ホルモンじゃないですかね。なかでも脂がのっている部位で。

 

倉嶋 ホルモン系とは抜群のコンビネーションですよね! 「バイス」の爽快感が脂をいい感じに流してくれて、それでいて酸味がうまみを足してくれるんですよ。

 

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モコモコした独特のボトルはもう残り僅か

倉嶋 いまのフレーバーのほか、過去の「コダマサワー」にはどんな味があったんですか?

 

池澤 ユニークなところですと、アロエにトマト、ウイスキー味もありましたね。

 

倉嶋 どれも個性的ですね! 私もどこかで飲んだことがあったかもしれませんが。

 

池澤 売れ行きを見ながら新フレーバーを開発するなどして、少しずつラインアップは入れ替わりますね。「バイス」や「レモン」といった定番人気の味は不動ですけど。

 

倉嶋 炭酸水も欠かせないと思いますが、こちらのこだわりも教えてください。

 

池澤 炭酸水はベースの「コダマ タンサン」と一緒ですね。ガス圧は既定のギリギリまで強くしています。これ以上強くしようと思えば簡単にできるんですけど、危ないですし、そもそもルール違反ですからね。

 

倉嶋 あとはボトルの形状やロゴもやさしいデザインで大好きなんですけど、ここにもこだわりはあるんですか?

 

池澤 ボトルは15年ぐらい前にお世話になっていたメーカーさんが廃業した際、新しく作りました。旧モデルはモコモコとしたあしらいが入っているもので、いまはシンプルなタイプです。

 

旧モデルのボトル。下半分が凹凸のあるモコモコした形状になっている

 

倉嶋 シンプルにしたのは、何か理由があったんですか?

 

池澤 検びん機でチェックする際、検査しやすいようにしたかったというだけですね。ロゴは変わっていませんが、長年変えていないからレトロな感じがするのかもしれませんね。

 

倉嶋 ロゴも最高です! あとは細かいところですと、王冠がそれぞれフレーバーごとにデザインが違うのは粋だなと思うのですが。

 

 

池澤 まあ、フレーバーごとに成分が違えば王冠に記載する情報を変える必要がありますから。あとは上から見たときにも、パッとわかったほうがいいというのもありますし。

 

倉嶋 でも、この業務用びんや王冠は首都圏だけになりますか?

 

池澤 はい。業務用は問屋さん経由で回収するリターナブルびんなので、これはトラックで行き来できる範囲の関東近郊だけですね。それ以外の地域は340mlのワンウェイのガラスびんとなります。

ワンウェイのガラスびん(340ml)

 

倉嶋 ワンウェイタイプは公式オンラインでも注文できると思うんですけど、御社のオンラインショップでは、販売促進グッズも売ってるじゃないですか。ほとんどが無料なんですけど太っ腹ですよね!

 

池澤 提灯とのぼり旗以外は無料としています。お店で使っていただければ宣伝になりますし、ご自宅でも飾っていただければありがたいので。

販売促進グッズの数々。左より「バイスサワーテーブルテント」「コダマサワー短冊(バイス)」「バイス提灯9号」(税・送料込み1000円)「バイスのぼり旗 レギュラーサイズ」(税・送料込み700円)

 

社名の「コダマ」には夢が凝縮されていた

倉嶋 そして、最後に伺いたかったのは社名です。先代から池澤社長の家業だと思うのですが、なぜ池澤を用いずにコダマ飲料となったんですか?

 

池澤 もともとは池澤商会という社名だったと聞いています。やがて私が生まれ、子どものころは電車が好きだったんですよ。なかでも「こだま」号という特急列車が大好きだったことから、創業者である父親がコダマ飲料と名付けました。

 

倉嶋 素敵なお話ですね。でも「こだま」って、いまでも新幹線に使われている名称の?

 

池澤 私が好きだったのは新幹線の前ですね。特急「こだま」の誕生が当社の創業と同じ1958(昭和33)年で、東海道新幹線開業が1964(昭和39)年ですから。東京~大阪間を6時間30分(当初は6時間50分)で移動できる、日帰りで往復可能な夢の特急だったんです。

 

倉嶋 なるほど! ところで、池澤社長はいまも電車がお好きなんですか?

 

池澤 いえ、もう昔ほどでは。でも、当時は車両を見れば一瞬で何線かを言えるほど夢中でした。

 

倉嶋 お子様の好きなものを社名にするとは、本当に素晴らしいです。特急の「こだま」が往復するように、リターナブルびんも送ったものが返ってくる「こだま」のようなものですよね。事業との親和性もあり素敵な社名だと思います。

 

池澤 そう言っていただけると嬉しいです。

 

倉嶋 お店で「バイス」をはじめ、「コダマサワー」を飲む楽しみがまたひとつ増えました。さっそく今夜は、「バイス」が飲める大衆酒場をパトロールしたいと思います!

 

 

バイスの魅力についてじっくり池澤社長から伺った倉嶋さん。宣言通り、中目黒の「もつ焼きばん」でバイスを堪能しました。

 

 

 

3回にわたってお送りした「割り材」の噺はいかがでしたか。次回の「意外と知らない焼酎の噺」もお楽しみに。

 

 

撮影/鈴木謙介

 

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