こんにちは、書評家の卯月 鮎です。もはやその味が好きなのか、単に習慣になってしまったのか定かではないですが、私は何かにつけてコーヒーを飲むそこそこのコーヒー人間です。
コーヒーを美味しくするものは何か。ミルク、ウイスキー、ビスコッティなどが思い浮かびますが、一番は時間ではないでしょうか。何の予定もない食後、時空間に溶けるような心地でふんわりと飲むコーヒーは格別。また、時間をかけて丁寧に淹れたコーヒーも格別です。キザな言い方ですが、コーヒーの最高の相棒はゆったりとした時間だと最近思います。
サステイナブルな未来とコーヒー
さて、今回の新書は『コーヒーで読み解くSDGs』(Jose.川島 良彰、池本 幸生、山下 加夏・著/ポプラ新書)。著者のひとり、Jose.川島 良彰さんはコーヒーハンター。エルサルバドルの国立コーヒー研究所に留学後、世界各地でコーヒー農園開発に携わってきました。現在は株式会社「ミカフェート」代表として、サステイナブルコーヒーで世界を変えることを目指しています。
池本 幸生さんは経済学博士で東京大学名誉教授。コーヒーに関しては「ベトナム中部高原におけるコーヒー生産と少数民族の暮らし」を研究しています。
山下 加夏さんは、国際NGOコンサベーション・インターナショナル勤務を経て、2015年より株式会社ミカフェートのサステイナブル・マネージメント・アドバイザーに。主にコーヒー生産農家がサステイナビリティを向上させるためのニーズを調査し、その支援に取り組んでいます。
2000年の「コーヒー危機」とは?
コーヒーハンター、大学教授、国際NGOの元職員の3人が、コーヒー産業において国連が掲げる「SDGs」(持続可能な開発目標)をいかに達成しうるかを考えていく本書。2021年に単行本として刊行され、今回大幅に加筆修正して新書化されました。
第1章「『コーヒー危機』と貧困」では、SDGsの1番目の目標「貧困をなくそう」について。実は2000年代の初めにコーヒー価格が暴落する「コーヒー危機」がありました。
もともとは投機資金の流入もあってか、1997年にコーヒー価格が高騰したのがきっかけ。ベトナムの農家は恩恵を受け、「コーヒー長者村」も出るほどだったとか。しかし、新規参入国がコーヒー樹の収穫期を迎えた3年後、供給過多も手伝って価格が大暴落。世界中の生産者が打撃を受けました……。
コーヒー生産者が貧困に陥るとコーヒー栽培へ投資する余裕がなくなり、品質も低下してしまう。私たち消費者ができることは、コーヒーの品質に気を配り、公正な価格を知って安さだけに流されないこと、と1章ではまとめられています。
1杯のコーヒーのために使われる水の量は?
コーヒー生産の現場について詳しく知れるのも本書のいいところ。第6章「コーヒー農園と安全な水」では、コーヒーの実の果肉とぬめりを取り除く作業「精選」について。精選は大量の水を使う「水洗式」が多くの国で採用されています。1杯のコーヒー約150ccを作るために、生産地ではその4倍近くの約580ccの水が使われ、汚水が発生することも……。SDGsの6番目「安全な水とトイレを世界中に」。水資源の問題もコーヒーと無関係ではないんですね。
豆の品種と適した産地、農園での作業工程、一杯のコーヒーができるまでの排出エネルギーなどなど、『SDGsから読み解くコーヒー』と言っても差し支えないほどの情報の濃さ。
社会派のトピックを扱っているため内容は堅めですが、文章がやわらかく読みやすいのも特長です。本書から溢れ出すコーヒー存在へのリスペクトは、コーヒー好きに強く響くはず。SDGsとコーヒー、どちらへの理解も深まる一粒で二度美味しい一冊です。
【書籍紹介】
コーヒーで読み解くSDGs
著:Jose.川島 良彰、池本 幸生、山下 加夏
発行:ポプラ社
私たちが、安全で美味しいコーヒーを飲み続けられるために。コーヒー農家が、安心して品質の高いコーヒーを生産するために。
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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。