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2023/1/29 21:00

管理会社がマンションを見捨てる!? 老朽化と高齢化、マンションの“老い”は限界に来ているのか?~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。家を選ぶとき、「賃貸か、持ち家か」というのは永遠の難題ですが、住むなら「マンションか、戸建てか」というのもそれに匹敵する悩みどころだと思います。

 

私は以前マンションに住んでいましたが、ペット禁止だったため古い戸建てを買って猫を飼い始めました。一軒家はドタドタ歩いても、物を落としても(しょっちゅうやっちゃいます(笑))、階下の住民に迷惑をかけないというのが気楽な反面、防犯や建物の管理は自分でしなくてはならず、思わぬトラブルにあたふた。一長一短ありますね。

 

マンションが「限界集落」化!?

さて、今回紹介するのは朽ちるマンション 老いる住民』(朝日新聞取材班・著/朝日新書)。2021年から2022年にかけて、朝日新聞デジタルや朝日新聞紙面で連載された記事をもとにした新書です。「はじめに」では、まるで「限界集落」のようにコミュニティーの維持が立ちゆかないマンションが出始めていると書かれています。マンションの老朽化とスラム化は切実な問題。連載時も毎回、読者からたくさんの反響が届いていたそうです。

突然のマンション管理契約解除

第1章は「管理会社『拒否』の衝撃」。マンションの管理は管理会社が請け負うのが当たり前……そんな時代が過ぎつつあるのが第1章を読むとわかります。

 

最近、都市部のマンションでは管理会社から更新を拒否されるケースが増えてきているそうです。その大きな理由がお金の問題。人件費を中心に管理コストは増大しているのに、各住民が払う管理費の値上げが難しく、管理会社が手を引かざるを得ない……。

 

川崎市のとあるマンションでは、数社に打診し、なんとか別の管理会社を見つけ、自主管理を免れたとか。また、自主管理アプリを導入してコストを抑えているという横浜市のマンションのケースも紹介されていました。

 

マンションの未来を憂う話題が続くなか、明るい光を感じたのが第4章「コミュニティー再生」。マンション内での交流の見直しを進める京都市内の古い分譲マンションのケースが取り上げられています。

 

このマンションでは、入居時に管理組合の役員との面談があり、自己紹介のあと敷地を一緒に歩いて共有部分の説明を受けることになります。お互いに顔見知りになるのが目的です。

 

さらに、子育て支援を打ち出し、店舗スペースを買い取ってそこを住民たちの交流室に作り変える試みも。コロナ禍前はカフェが開催される月1イベントが行われ、子どもとお年寄りが集まる場となったそうです。ほかにも送迎に使える40台以上のシェア自転車を備えるなど、住民のアイデアによる取り組みが実を結び、現在では空室はほとんどないとか。近隣との付き合いがわずらわしくないのもマンションの良さですが、今後はそれぞれの“コミュニティーカラー”でマンションを選ぶ時代がくるかもしれないと感じました。

 

リノベvs静かに暮らす権利、認知症となった高齢者への対応、持て余される立体機械式駐車場……マンションが抱える問題は多種多様です。しかし本書は、各章の最後に専門家への取材を通じ解決策を示すという構成で、単に警鐘を鳴らすだけに留まっていないのも前向きな点。

 

デジタル機動報道部とくらし報道部という2つの部署が協力した分厚い取材で多くの事例が集められていて、そこが本書の面白さかつ誠実さにつながっています。

 

マンションはある種、現代社会の縮図。マンション問題を解決するヒントが、未来の日本社会の処方箋となる……と言えるのではないでしょうか。

 

【書籍紹介】

朽ちるマンション 老いる住民

著:朝日新聞取材班
発行:朝日新聞出版

加速する二つの「高齢化」再生を目指し模索する住民の姿を追う!マンションは壮大な社会実験だ。正確な耐久年数がわからないまま分譲は進み、その帰趨は住む人に押し付けられた。だがもう限界状態で、日本のあちこちで歪みが生じている。集合住宅の“老い”をどう乗り越えていけばいいのか。「朝日新聞」大人気連載を書籍化。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。