アパレル産業を取り巻く環境問題の改善を目指し、2015年からバイオベンチャーのSpiber(スパイバー)と構造タンパク質素材の共同開発に取り組んできたゴールドウインが、8年目にしてついに規模を拡大した量産体制下での販売を実現。3月24日、東京国際フォーラムでゴールドウインが展開する5つのブランドから一斉にコレクションが発表されました。
量産体制に成功した次世代型新素材とは
「ゴールドウインとSpiberは2015年より共同開発を取り組み、今年で8年目を迎えました。これまで様々な製品の発表を続けてきましたが、今回、Spiberのタイのプラントが本格稼働したことに伴い大規模な量産販売体制が整いました」とゴールドウイン代表取締役社長の渡辺貴生氏が発表会の冒頭で挨拶を行いました。
ゴールドウインは2015年から構造タンパク質素材「Brewed Protein TM(ブリュード・プロテイン)【以下、Brewed Protein】繊維」の共同開発にSpiber社と取り組み、2019年8月には第一弾としてザ・ノース・フェイスからTシャツを発売。その後もアウトドアジャケット、ゴールドウインからニットウエア、昨年秋にはゴールドウイン ゼロからシェルジャケットとフリース、そして今年3月にはデニムジャケットとパンツを発売しました。
そもそもBrewed Proteinとは、植物由来の糖類などを主原料とし、微生物を用いた発酵プロセスによりつくられる構造タンパク質素材。石油由来の原料を使用せず、アパレル分野におけるマイクロプラスチック問題に大きな役割を果たせる可能性を秘めていることから、持続可能な社会の発展に資する次世代の基幹素材と目されています。
しかし、これまではBrewed Protein繊維の生産が限られていたため、すべて抽選販売という数量限定の販売方法でしたが、今秋はついに量産体制下で規模を拡大した販売が実現しました。今回、初めて量産体制が実現したのは、Spiberが世界最大規模の構造タンパク質生産施設をタイで作り上げたことが要因です。
次に登壇したのは、2004年よりクモ糸人工合成の研究をはじめ、2007年にSpiber(クモのSpiderと繊維のfiberを掛け合わせた造語)を設立した取締役兼代表執行役の関山和秀氏。2015年からのゴールドウインとの共同開発のプロセス、そして大量生産が可能となったタイのプラントについてプレゼンテーションを行いました。
「いまバイオテクノロジーが世の中を大きく変えようとしている。この100年間の石油化学の時代から次の100年間はバイオテクノロジーがキーテクノロジーとして産業を大きく変え、発展させていくドライビングフォースになると考えています。
持続可能を考えるうえでキーワードになるのが『循環』という言葉。この生分解マテリアル、つまり微生物や他の生物が食べられる、資源として活用できる。生分解のマテリアルの幅、ラインナップを広げていく取り組みが循環型の世界に展開していくうえで非常に重要なのです。
いままで山形県の鶴岡市にあるパイロットスケールのプラントで生産していたので、作れる量も限られ、コストを下げるのも難しかった。2019年にようやく着工をはじめ、タイに世界で最大規模の構造タンパク質生産施設を作り上げることができ、昨年の夏ごろから本格的な商業生産を開始できるフェーズに入りました」(関山氏)
主要5ブランドから大規模コレクションを発表
大型プラントの稼働を受け、ついに量産体制が実現した今回、ゴールドウインの主要5ブランドから15アイテムの大規模コレクションが完成しました。この日は、その中でもそれぞれが持つアイコニックな定番品の完成されたデザインを生かしながらBrewed Protein繊維に置き換えることでアップデートしたアイテムの一部が発表されました。
「THE NORTH FACE」からは、昨年デビュー30周年を迎えたブランドを象徴する『Nuptse Jacket(ヌプシ ジャケット)』を発表。
「Goldwin」では、ブランドのコアであるスキーウエアをルーツに持つ『Cross-Field 3L Jacket(クロスフィールド 3L ジャケット)』をBrewed Proteinで作成。次世代の人々と自然との在り方を模索するアウトドアウエアとして、ミニマルで洗練したデザインに落とし込まれています。
「nanamica」は、クラシックな仕立てとディテールに機能性を付与したブランドを代表するプロダクツの『Balmacaan Coat(バルマカーンコート)』。nanamicaのコンセプトは「地球は一つの海でつながっている」。今回、時間や場所を超えて長く愛される普遍的なプロダクツを世界に向けて開発しています。
「THE NORTH FACE PURPLE LABEL」からは、アウトドア用のダウンパーカーの原型ともいえる『Sierra Parka(シエラパーカー)』をアップデート。
「WOOLRICH」からは、1972年にデビューしたブランドのアイコン『Arctic Parka(アーキティックパーカ)』をBrewed Proteinに置き換え『Future Arctic Parka(フューチャー アーキティックパーカ)』としてアップグレード。
これまでのBrewed Proteinアイテムは数10枚、数100枚と非常に限定された商品量となっていましたが、今回のコレクションは数千着程度の販売を計画。その原料もすべてでき上っている段階です。
国内では、今回のプロジェクトの製品が一堂に集まるポップアップストアを東京・丸の内の丸ビル1階に9月上旬をめどにオープン予定。さらに、今秋からはグローバルでの販売が開始されます。
世界の暮らしを変えるテクノロジー
今回の発表会では、Deportare Partners代表/ゴールドウイン社外取締役の為末大氏がファシリテーターを務め、日本で唯一のオートクチュールファッションデザイナーである中里唯馬氏、慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏も参加したトークセッションが行われました。
Brewed Proteinを中心にサスティナブルを軸に様々な話題を展開。中里氏は「生み出すことへの情熱やエネルギーを循環にもかけていったら、大きく世界が変わる」。宮田氏は「Brewed Proteinの世界は未来に向けても象徴的なプロダクトになっていく」と今後の可能性を語りました。
最後は、渡辺氏が今後の展望を語りました。
「ただ単に持続可能な社会にするだけでなく、壊してしまった自然を復元、回復させていく。これが私たちゴールドウインの使命であると考えます。2030年までに製品と材料の廃棄をゼロに、すべてのプロダクツの商品の90%をこの環境負荷低減素材を使うと同時に、10%をBrewed Proteinに置き換えることを目標にしています」(渡辺氏)
宇宙にフィールドを移すという未来ではなく、地球をより良い状態へ進化させることを目指す同社。そのために一番大事なのは「マインドセットの問題」をあげます。そして「Spiberとの取り組みが世界の暮らしを大きく変革させるテクノロジーになると信じています。ご期待ください」と力強く締めくくりました。
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